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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
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28.バカ正直



 利用者が適度に増えた図書室で適当に時間を過ごした俺は、十六時半には学校をあとにした。

 昨晩の志賀との約束は覚えている。夕方、十七時に駅前集合だ。

 が、俺の足先はいつも通りスーパーへ向かっていた。もちろん昨日行った駅前のではなく、帰り道にあるスーパーだ。


 正直、約束を守る気なんてさらさらなかった。

 当たり前だ。買いものに付き合う義理なんて俺にはない。


 昨晩も突っ込んだが、そもそも明日から志賀が行くのは集団宿泊だ。

 修学旅行と違って自由行動があるとか、ホテルに泊まるとかではない。

 青少年の家とかいうよく分からない施設に泊まって集団生活を学ぶという、かなり自由度の低いイベント。持っていけるものも基本的には決められているはず。


 つまり買いものとは名ばかりで、実際にはまた別の趣向で俺をからかおうとしているだけだ。そうに違いない。


 というわけで、俺は待ち合わせ場所には向かわなかった。

 スーパーで今晩分の総菜を買ってアパートに帰る。ほかに寄り道をしない分、少し早い帰宅になってしまった。


 まあ、たまには一人でゆっくり過ごすのも悪くないだろう。

 どうせあと一時間くらいしたら、待ちぼうけを食らって不満顔の志賀が乗り込んでくるだろうし。ざまあみろだ。あいつも人をからかってばかりいないで多少痛い目を見ればいい。


 ――しかし予想に反して、志賀は帰ってこなかった。


 ふと気づけば、待ち合わせの時間から二時間近く経過している。

 その間、俺はひと時の孤独を楽しんでいたつもりが、いつの間にか壁にもたれて惰眠を貪っていた。


 室内には志賀が上がり込んできた気配も見られない。

 さすがに怒って俺の部屋にまでは来なかったのか……いや、あいつの性格ならむしろずけずけと押し入ってきて、待ち合わせをすっぽかした俺に直接文句を言ってきそうなものだが。


 念のため隣の部屋を確認しようと外に出てみると、薄暗くなった空から小雨がぱらついていた。

 そういえば、夕方以降に雨が降るって話だったな。今更降っても俺には関係ないが――、


「……そういえば、学校に傘忘れてきたな」


 志賀に言われて持っていったまではいいものの、帰る時にはまだすっかり晴れていたから完全に失念していた。この雨が明日の朝までにやむのを祈るしかない。


「おい、志賀。帰ってるか?」


 隣の部屋のドアをノックし、呼びかけてみる。

 が、応答はない。ただの屍のようだ。


 ……まさか、まだ待ち合わせ場所にいるわけじゃないだろうな。


 もうすぐ十九時だ。辺りもだいぶ暗くなってきているし、さすがにすっぽかされたことには気がついているはずだが……。

 ポケットからスマホを取り出すも、志賀の携帯番号を覚えているわけじゃない。入部届も小鳥遊先生に渡してしまったし。


「別に、俺が心配する必要なんかないんだが……」


 ダメ元で学校の番号に電話を試みる。

 教頭先生が出たので、小鳥遊先生が残っていないか一応訊いてみた。

 運がいいんだか悪いんだか、保留音のあとに耳朶に触れたのはあの優しげな声。


『代わりました、小鳥遊です』

「どうも、秋月です」

『どうしたの、こんな時間に。そんなに先生の声が聞きたくて?』

「まずありえないことです。用件いいですか?」


 えー、と不満げな声が聞こえてくる。

 みんな、どうしてこう余計なことばかり言おうとするのか。暇なのか。こんな夜遅くまで働いているくせに。


「放課後に提出した入部届って今ありますか」

『入部届って、志賀さんの?』

「そうです」

『あー……ごめんなさい、図書準備室に置いてきちゃってるみたい。今、職員室で』


 一応、個人情報が記載された書類なんだが……。


『志賀さんの入部届がどうしたの? 今すぐ必要?』

「あ、いや。手元にないなら別に」


 職員室から図書室までは結構遠い。階も棟も違うし。

 小鳥遊先生の管理が悪いとはいえ、こんな時間に余計な仕事を増やすのも気が引ける。


「……そういえば、ちょっと訊きたかったんですけど」

『ん?』

「志賀は昨日、なんの本を探してたんですか」


 どうしてわざわざ、こんなことを訊いたのか。

 自分でもよく分からないまま、それでも訊かずにはいられない気持ちが先走っていた。


『そうね、確か古い日本文学で……先輩に教えてもらった本とかって』

「先輩?」

『そうだわ、志賀直哉。同じ苗字だったから覚えていたの。タイトルも言っていたんだけど、あんまり聞いたことがないような、でも聞き覚えがあるような感じだったかしら』

「……『網走まで』、とか」


 まさかと思い、言ってみる。

 先生の反応は予想通り、驚きを含ませた相槌だった。


『そうそう、そんなタイトル。もしかして、秋月君が勧めたの?』

「まあ、そんなところですけど」

『そう……残念だけどうちの図書室にはなくてね。市立図書館の方にならあるみたいとは案内したら、志賀さんは「分かりました」って言ってたけど』

「そうですか。ありがとうございます」


 口早にお礼を伝え、電話を切る。

 スマホの時刻はちょうど十九時。辺りはまだ小雨だったが、先ほどより少しだけ強まっているように見えた。


「……バカ正直か、ったく」


 ――玄関に鍵をかける。

 学校に傘を忘れた自分を恨みつつ、雨に濡れた階段を駆け下りた。



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