26.ランチタイムの駆け引き
フード的な意味でジャンキーだった志賀との一夜も明け、翌日。
二年に進級してだいぶ経つわけだが、この頃はクラス内の緊張感もだいぶ和らぎつつあり、すでに新しい交友関係がそこここで形成されているように見受けられる。
しかし俺自身は、特になにも変わっていなかった。
「それで、アッキーは新しい友人はできたのかい?」
学食での昼食中。
誘ったわけでもないのに、なぜか当然のように向かいの席に居座っている志賀恋斗。
学食の中でも特に高価なメニューであるチキン南蛮定食に舌鼓を打ちながら、やはりいつものように鼻につくキザな物言いで俺に話しかけてくる。
片や俺の前にあるのは最安価の日替わりB定食。今日のメインは白身魚のフライ。外れの日だった。
「分かり切った質問をするな。それとその薄気味悪い薄笑いもやめてくれ」
「申し訳ないけど、薄笑いに関しては元々こういう顔なんだよ。文句なら僕のペアレンツに言ってくれ」
「ならその薄気味悪い喋り方だけでもなんとかしろ。そっちは後天的だろ」
「世の中には生まれながらにして喋る赤ん坊だっているのさ。天上天下唯我独尊、なんてね」
お前は釈迦か、と突っ込む代わりにキャベツの千切りを頬張った。まともに付き合う方がバカバカしくなってくる。
「その調子だと、アッキーは今までと代わり映えがないようだね」
「だから言ってるだろ。分かり切った質問をするなって」
「なんなら僕が取り持ってあげようか? 特に女の子ならたくさん紹介できそうだよ」
「どう考えてもお前目当ての女子だろうが。大体、お前絡みの女子なら間に合ってる。倍のお釣りがあるくらいにな」
「僕絡み? ……ああ、もしかして愛羽のことを言っているのかい?」
またしても分かり切った質問。改善する気は毛ほどもないらしい。
「どうだい、愛羽の活動ぶりは。元運動部のバイタリティは発揮できてるかな」
「どうもこうも、毎日来ては好きなだけ俺にウザ絡みするの繰り返しだ。まともに活動する気概なんて微塵も感じられない」
「へえ、それは大したものじゃないか。あっぱれと言ってあげたいね」
「俺の話を聞いてたか? どこがあっぱれなんだブラコン野郎」
「いやぁ、心の底から大したものだと思っているよ? 愛羽の君に対する感情に鑑みればね……あるいは、それが一つの原動力なのかもしれないけれど」
俺に対する感情? 原動力?
ますますわけが分からない。
「お前の妹も似たようなことを言っていたな、俺に対して恨みがあるとかどうとか」
「へえ、愛羽がそんなことを。それは興味深いね」
「英文を直訳したような文章やめろ。それで、結局俺はどんな恨みを買ってるって言うんだ」
「さあ、僕には見当がつかないね……前にも言ったと思うけど、仮にそんなものがあるとしても、愛羽は自分からは話さないんじゃないかな」
海外ドラマの俳優のように肩を竦めてみせる志賀。
また微妙な乙女心がどうとかって話か。はぐらかしているのかと思っていたが、こいつは本当になにも知らないのかもしれない。
しかし、俺が中学時代に接点があったのはこっちの志賀だけで、妹の方と喋ったことなんてあっただろうか……本当に、俺が忘れているだけなのか。
「ところでアッキー、さっき倍のお釣りがどうとか言っていたがどういう意味なんだい? なんだか含みがあるような皮肉だったけれど」
「は? いや、単なる言葉の綾だ。気にするな」
デブ研に押しかけてきただけでなく住むアパートまで一緒、しかも隣人になった挙句、毎夜毎朝押し入ってくる――そんな状況を揶揄したつもりだったが、まあ余計なことは言うまい。
ちなみに今日も今日とて朝から不法侵入を許したわけだが、勝手に朝食を作ったり『今日は夕方以降に雨が降るかもなので傘必須ですよぉ』なんて注意してきたりと、後輩というよりまるで母親のようなことをしていた。
いや、あれもあいつの考える新妻感なのかもしれないが。
「言葉の綾かい? ふぅむ、余計に気になる言い方じゃないか」
「別に、知らないに越したことはないからな。言いふらされても困る」
「知られたらアッキーが困るようなことなのかい? 愛羽がよきに隣人として君に尽くしていること、とかかな」
「……言いふらしたら殴るからな。グーで」
おー怖い怖い、とでも言いたげな顔をしながら残りのチキン南蛮を口に運ぶ志賀。
まあ、実の妹がどこに住んでいるかくらい知っていて当然か。俺に尽くしている、というのは想像かもしれないが……とすると、すでに俺は余計なことを口走ってしまったのかもしれない。
親族の葬儀があった関係で更新時間が遅れてしまいました。
明日も更新予定ではありますが、時間は遅れるかもです。




