25.罪か罰か、約束か
「なあ志賀。お前がどういう目的でウザ絡みしてくるのかは未だによく分かっていないが……変な道を歩もうとするなよ?」
「はい? 変な道?」
「ストーカーは立派な犯罪だからな。いくら俺をからかうネタを仕入れたいからって、四六時中付きまとうような行為はだな――」
「ちょ、ちょっと待ってください! なんの話ですか、それっ」
志賀は遮るように言って、
「もしかして先輩、あたしが先輩のことストーカーしてたから、元部長さんと駅前をぶらついていたこと知ってるとか思ったんですか?」
「違うのか?」
「違うに決まってるじゃないですか! いくら先輩をからかうためでも、犯罪に手を染めるような愚かな愛羽ちゃんじゃありませんから」
合鍵を奪って我がもの顔で侵入してくるやつの言うことかね。
「ぶっちゃけ、先輩たちのこと見たのは偶然ですから。あたしがバイトしてるお店の前をお二人が通ったから」
「バイト?」
「はい。放課後にワックでバイトしてるんです。週一か二くらいですけど……わがまま言って一人暮らしするわけですし、少しは自分でもお金稼いだ方がいいかなと思って」
中々に意外な事実。しかも理由まで真っ当ときている。
嘘をついているような雰囲気でもなかった。晩飯がワックバーガーなのもバイト先だからと考えると多少得心もいく。
しかしこれでは、親の金だけで一人暮らしさせてもらっている俺が甘やかされているみたいじゃないか……いや、実際その通りではあるのだが。
「あまりまともなことを言うなよ志賀。真人間に見えるぞ」
「なんですかそれ、あたしは普通に真人間ですっ」
「いや、なんていうかお前のキャラに合っていない気がして。せめてバイト代は全部コスメや洋服代に消えてたりとか、ブランド品を買い漁って毎月金欠だったりしないか」
「……先輩、あたしのことギャルかなにかだと思ってます?」
珍しくジトっとした目つきを向けてくる志賀。
まあ、否定はできない。
「金髪だから派手に見られがちですけど、中学まではずーっと部活動生だったんですから。しかもそこそこ強豪校でしたし、普通の子たちと違って全然遊んできてないですから。なので全然ギャルとかじゃないですから」
「そ、そうか……そんなに打ち込んできたのに、なんで中学まで辞めたんだ?」
そんな何気ない問いかけに――一瞬、志賀が睨むような眼差しになる。
思わぬ表情に驚かされるも、それは本当に瞬間的なもので、気づいた時にはもう普段通りの笑みにすり替わっていた。
「そういうことをお構いなしに訊いてくるとこが、先輩って感じがしますね」
「は? どういう意味だ」
「言った通りの意味ですよ――はぁ、なんだかあたしも疲れてきちゃいました。今日は急にシフト変わらなきゃでしたし。実は二日連勤も初めてでしたし」
ぐでーっと畳の上に横たわる志賀。
なるほど、昨晩遅いのもバイトのせいだったわけか。そして今日は急用で帰っていたのも、誰かとバイトのシフトを交代する必要があったからと。
そのせいで俺が冴姫さんと一緒にいるところを見られてしまったわけだから、まったく間が悪い。恨むぞシフト変わったやつ。
「これで明後日からは集団宿泊もあるんですよ? 入学早々フル回転し過ぎだと思いません?」
「集団宿泊か――なるほど、つまりその間は志賀と顔を合わせずに済むと」
「ちょ、なに仄かに嬉しそうな顔してるんですかっ。可愛い後輩と二日も会えないなんて、普通は悲しむところだと思うんですけど」
「出会ってほぼ二日程度の後輩がいないくらいで悲しめるほど、俺は感傷的な人間じゃない」
「ひどっ! でも、先輩のそういうところが、やっぱり先輩って感じです」
またそれか。志賀の中での俺はどういう先輩に映っているというのか……。
「これはもう、先輩に自分の罪を償ってもらうほかありませんね」
「なんだ突然、難しい言葉を使って。突発性中二病か?」
「はぐらかそうとしないでください。罰として、先輩には明日の夕方、あたしに付き合ってもらいます」
罪なのか罰なのかどっちなんだ――という突っ込みはともかく、
「付き合うってなんだ。バイトの代わりならごめんだぞ」
「違いますよ、買いものに付き合ってもらうんです。集団宿泊に持っていくもの、駅前のお店で揃えようかなぁと思っていたので」
「なんで俺がそんなこと……そもそも集団宿泊になに持っていくつもりなんだ。修学旅行とは違うんだぞ」
「細かいことはいいじゃないですか。こういうのは楽しんだもの勝ちなんですから。それとも、元部長さんとはデートできて、あたしとはできないとでも言うんですか?」
予備校からコンビニまでの道のりに同行したことをデートなんで大仰に呼ぶのなら、志賀の買いものに付き合ったことは一体なんになるというのか。バージンロードとでも言い出す気じゃないだろうな。
「できない、と言ったらどうする」
「いいえ、先輩はそんなこと言いません。約束すれば、必ず守ってくれると信じていますからっ」
湧きどころが不明な自信たっぷりに言うと、志賀は残っていたチーズバーガーをようやく口の中へと運ぶ。
明日までにどう断ろうかと思考を巡らせつつ、俺も残りのカップ麺を啜った――冷めている上に伸び切っていて、まともに食べられたものじゃなかったが。




