20.コンビニまでの道すがら
「なんだかとても久しい気がするわね。秋月君と二人きりで話をするのも」
コンビニへ向かう冴姫さんの足取りは、学校の廊下を歩いている時よりも幾分ゆったりだった。
並んで歩く俺はどこか上の空で、考えが上手くまとまらない感じがした。外だというのに冴姫さん特有の爽やかな匂いがはっきりと分かってしまい、どうにもむずがゆい。
「秋月君? 聞いてる?」
「あ……そうですね、確かに久しぶりだと思います。春休みは部活もなかったですし、今は」
「この通りの予備校通い――そうね、話す機会がなかったのも当然かも」
口元に手を添え、上品に微笑む冴姫さん。
近くで見ると、一つ一つの所作がより美しく、お嬢様然としたものが強くうかがえる。
実際のところ冴姫さんの家は結構なお金持ちらしいが、詳しいことは一年間一緒だった俺もよく知らない。
しかし確かな情報がなくとも、冴姫さんの品の良さは誰が見ても疑いようのないものだ。どこかのご令嬢だとしても驚きはない。
――やっぱり落ち着くな、冴姫さんと居ると。
物静かで穏やかな言葉遣い。上品な佇まい。
なにもかもが理想的で、こんな人と部室で過ごせていた去年がひどく懐かしく感じられてくる。
……ここ数日の、ウザったい部室の空気を思い出すと特に。
「冴姫さんも、たまには顔見せだけじゃなく部活していってくださいよ。忙しいのも分かりますけど」
「ふふっ、そうね。それほど忙しいわけでもないのだけど」
「え? じゃあどうして」
「気を遣ってあげているのよ。秋月君に」
「俺に?」
「だって秋月君、あの新しく入った下級生と付き合っているのでしょう?」
がくり。ずっこけそうになる。
が、もちろんそんなギャグ漫画みたいなことにはならないわけで……。
「秋月君? どうしたの、まるで苦虫でも咀嚼したような顔をして」
「……それがどんな顔かは分からないですけど、一つだけはっきりと言えるのは、冴姫さんが大きな思い違いをしていることです」
「思い違い?」
「そうです。俺とあいつは付き合ってるとかじゃないですから。絶対にありえませんから」
「え……じゃあ、付き合ってもいない子と部室で情事を?」
「そもそもそれが誤解なんです! その、情事とかってのが!」
思わず声を張り上げてしまう。周囲からの視線が痛くなり、俺はハッと顔を俯かせた。
なんたる醜態……それもこれもあいつのせいだ、間違いなく。
「そう。じゃああれは、単なる先輩後輩のスキンシップの一環だったというわけね」
「……それでも納得しがたい部分はありますけど、情事と取られるよりは遥かにマシなのでそれでいいです。ただし、あくまであいつからの一方的なスキンシップですが」
「ふふっ、随分好かれているのね。実は本当に好意があったりして」
「変なこと言わないでくださいよ。恐らくですが俺をからかってるだけです。いつだったか困っている俺の顔を見てめちゃくちゃ喜んでましたし」
「好きな人には意地悪をしたくなる、という心理もあるみたいだけど」
「意地悪というか、あいつの場合は基本的にウザ絡みなので」
そもそもあれが好意の裏返しなのだとしたら迷惑もいいところだ。ちゃんと大人しくしていてくれれば、本当にただの可愛い後輩になるかもしれないが。
いや、可愛いというのはあくまで容姿だけだ。それも客観的な事実であって、別に俺個人の感想とかではない。断じて。
「でも、そうね。たまには部活に出てみるのも面白いかもしれないわね。せっかく新しい子も入ってくれたわけだし」
「ぜひお願いします。ほんともう、冴姫さんが居てくれないと……」
「あら、意外と寂しがり屋だったのね秋月君。なるほど、そうしてあえて弱い一面を見せることで、あの下級生の母性本能をくすぐって手籠めに」
「してませんから! 断じて!」
俺の反応を見て「そう?」とおかしそうに微笑む冴姫さん。
……志賀といいこの人といい、俺はそんなにからかい甲斐のある人間なのだろうか。いまいちよく分からない。
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