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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
19/57

19.アタックチャンス……?



 午後五時半、部活終わり。

 同じアパートだからと下校にまでまたついてくるのかと思いきや、意外にも志賀は俺が帰り支度を終えるよりも早く席を立ち、


「ちょっと急用が入っちゃいました! 先輩との甘々な時間はまた夜にでも!」


 などと言い残して足早に部室を出ていった。

 突っ込む間もなかったが、甘々な時間とはなんのことだ。また突撃隣の晩ご飯じゃないだろうな。


「そういえば、昨日も先に帰ってたな……」


 てっきり自分の家に帰っていったのだとばかり思っていたが……階段で行き倒れるほど寄り道をしていたというのか。

 あるいは街の方で友達と合流して遊びにでも行っていたのかもしれない。いずれにしても俺にはどうでもいいことだ。


 一人きりの静かな帰り道。今日は近所のスーパーよりも駅前にある店の方が特売のため、少し遠回りにはなるが寄り道すると決めていた。

 と言っても買うのはまた惣菜だけだが。


「たまには自炊した方がいいんだろうけどな……」


 正直、料理はあまり得意ではない。

 一人暮らしを始めた頃は何度か挑戦したこともあったが、時間がかかり過ぎる上にあまり美味いものも作れず、効率を考慮すると白飯だけ炊いておかずを買ってくる方がいいと悟ってしまった。


 幸い親からの仕送りはそれなりに潤沢で、今のところ赤字になった月はない。

 趣味は読書のみ、友達付き合いもほとんどなく、家賃もこの辺りでは最安値のぼろアパート。

 食費以外にそれほど金がかかっていないことも大きい。

 それでも結構ぎりぎり、綱渡りなやりくりなのは否めないが。


「バイトは……面倒だな。効率が悪い」


 駅前の賑やかな繁華街。

 ハンバーガーショップやカフェ、定食屋などの飲食チェーン店が建ち並び、そのどれにもアルバイト募集のポスターやチラシが掲げられている。

 しかし時給はどこもかしこも最低賃金レベル。

 貴重な放課後や土日の時間を割いてまで働く甲斐があるとは思えない。


 ……というか、高校生のバイトって保護者の了承がいるんじゃかっただろうか。

 海外にいる両親にバイトの許可をもらうのは正直(わずら)わしい。

 そもそも俺がバイトをするなんて知ったら仕送りの額も減らされそうだしな。


「……ん? ここ時給いいな」


 何気なくバイト募集のポスターを一瞥しながら歩いていた時、一つだけ随分と景気のいい文面を見つけて立ち止まる。

 けれど高いのも納得か、そのポスターは某有名予備校のチューター募集だった。

 内容を読んだ限りだと、大学入試を目指して頑張る高校生の世話役のようなものか。


 もちろん高校生は募集対象ではない。大学生以上、しかも早慶や旧七帝は優遇なとど銘打たれている。それでこの高時給というわけだ。

 縁のない募集だったか、と立ち去ろうとした時だった。


「――秋月君?」


 聞き慣れた声に呼ばれ、振り返る。

 七山高校の制服、女子生徒。

 すらりとした背丈、照明の光を跳ね返す艶のある黒髪は見紛うはずもない――榊原冴姫さんが、予備校の自動ドアの前に立っていた。

 ……自分で言うのもなんだが、たぶん俺は狼狽したと思う。


「冴姫さん? え、なんで」

「それはこちらの台詞だけど。どうして秋月君が予備校に?」

「あ、もしかしてここが冴姫さんの通ってる……」

「そうだけど。秋月君は、チューター募集を見ていたの?」

「まあ、一応そんなところでしたけど」

「そう。秋月君、実は大学生だったの」

「は?」

「中々大胆な年齢詐称をしていたのね」

「変な疑いかけないでください。れっきとした高校生ですから」


 そうなの? と首を傾げながら微笑む冴姫さん。

 この人も志賀とは別ベクトルな具合に俺をからかう癖があるんだよな。志賀と違って物腰が柔らかいからウザいとまでは思わないが。

 時折、妙なくすぐったさは覚えることはある。


「なんとなく見てただけですよ。単なる興味本位です」

「そう。でも奇遇ね、こんなところで会うなんて」

「今日はちょっと、駅前のスーパーに用事があったんで。普段は週一くらいしかこの辺りは通らないですね」

「それなら、歩きながら話しましょうか。私もコンビニに夕食を買いに行くところだったから」

「夕食ですか?」

「ええ。予備校の中で食べるの。今日は遅くまでいる予定だから」

「……凄いですね。そんな遅くまで」

「みんなそんなものよ。来年には秋月君だって」


 なんでもないように言うと、冴姫さんは優雅な足取りで歩き始める。

 俺は操られたような歩様になりながら、彼女の隣に並んでいた。



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