18.※このお話はフィクションです。
「俺が冴姫さんと出会ったのは、一年の春――。
その頃の俺は、だいぶ荒れていた。
どういう荒れ方かというと、ちょっと特殊だった。どんな時も本を読みながら学校を闊歩していた。
さながら、二宮金次郎像のように……。
先生からは当然叱られ、生徒指導を受ける毎日だが、本を読める喜びに比べればなんの苦労でもでなかった。
次第に先生も呆れ果て、入学から一週間経つとなにも言わなくなっていった。
そんな時、当時の友達がある人物について教えてくれた。
どの学校にでも必ず一人はいる、情報屋みたいな友達が……そいつが俺に言ったんだ。
――二年の先輩にも、常に本を読みながら歩いている女子がいるらしい。
名前は榊原冴姫というらしい。
正直、誰だって思った。そりゃ知らねえよ、入学したばかりなんだから。先輩どころか同級生の顔すらまだ覚えていない時期だったのだから。
大体、おかしいだろ、常に本を読みながら校内を闊歩しているなんて。二宮金次郎像じゃあるまいし……俺が言うのもなんだけど。
俺はすぐに二年のフロアへ行った。そんな変な奴ならすぐに見つかると思った。
実際、すぐに見つかった。マジで本を読みながら歩いている女子生徒がいた。
それが冴姫さんだった。冴姫さんがハードカバーの小説を片手に、優雅に歩く姿を見て、こんなスマートな先輩がいるのかって、びっくりした。
あんな細腕なのにハードカバー。しかもまったく芯がぶれない完璧な歩様。誰よりも気高い歩き姿。
まさに、光り輝いていた――」
俺は持っていた文庫本の角で、志賀の頭を叩いた。
「痛いっ! ちょっ、なんでいきなり叩くんですかぁ」
「勝手に人の出会いを捏造しようとする神妙不可思議でうさんくさい後輩がいたからだ」
「えーっ、ここからが面白いところだったんですよ? 先輩がわざと元部長さんにぶつかりに行って、野良ビブリオバトルを吹っ掛けるんです」
「なにポケ〇ンバトルみたいに言っているんだ。大体なんなんだそのイメージは。お前の中で俺はそんな本の虫のように見えているのか? 現代の二宮金次郎像なのか?」
「えっ、でも先輩、読みながら歩きますよね?」
結論から言うと、ない。
少なくとも、校内を闊歩することは絶対にない。だって普通に危ないだろう。
「元部長さんにバトルを仕掛けてコテンパンにやられた先輩が、『俺より強いビブリオストがいるなんて……くそ、惚れた!』的な感じで元部長さんを好きになるという純愛ストーリーなんですけど。あ、主題歌は髭〇ンを流します」
「流すな。そんな意味の分からない理由で惚れたことにするな。それから意味不明な造語を作るな。なんだビブリオストって」
「ビブリオバトルマスターをかけて血みどろの戦いを繰り広げる全国の文芸部員たち――それがビブリオストなんです。どうですか、定着しないですか?」
「明らかに俄かそうだから言っておくが、ビブリオバトルはお前が思ってるような血みどろのバトルじゃないからな」
どういうわけか知らないが、志賀の中では文芸部=ビブリオバトルのイメージだったらしい。
しかもよくよく訊ねてみると、ビブリオバトルの内容はよく知らないとのこと。
真面目な話、なんでうちの部活に入ってきたのか……。




