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ウザいけどカワイイ後輩と四六時中ダベる日々。  作者: かるたっくす
2年・春――後輩、ときどき押しかけ新妻的な日々
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16.触れてはいけないところもある



「なんでバスケ部を辞めてうちに入ったんだ? ここは体育館じゃないぞ」


 単刀直入に訊いてみたものの、志賀は不敵な笑みを崩さず、


「先輩も冗談言ったりするんですね。あんまり面白くないですけど」

「冗談じゃなく真面目な話だからな」

「そうですか。じゃあ全然面白くないです」

「面白くなくて結構だから、質問に答えてくれ」


 まあ、どうせまともな答えを返す気はないだろうが。

 その証拠に、志賀は「うーん」と腕組みをし、なにか愉快なことでも考えていそうな顔をしていた。


「なんというか、あれですよ。同じ室内部活動なので肌に合うかと」

「室内とかそういう依然に、運動部と文化部という決定的な違いがあるわけだが」

「運動部はもうやだったんですよぉ。毎日練習練習でくたくたになりますし、自由な時間もないですし、おまけに筋肉つき過ぎると洋服選びも大変になっちゃいますし」

「最後のおまけに関しては、あまり悩むほどでもなさそうな感じに見えるけどな」

「あっ、今あたしの筋肉を侮りましたね? こう見えても意外と引き締まってるんですよぉ。触ってみます?」

「バカ言うな。興味ない」

「そう言わずに、ほらほらぁ」


 志賀が椅子ごとこちらへ近寄ってくる。

 俺は危険を察して距離を取ろうとしたが、いつもの癖で小説に栞を挟もうとしている間に判断が遅れてしまい、


「どうです? 細マッチョ感、制服の上からでも伝わりますか?」


 などとのたまいながら、体をぐいぐいと引っつけてきた。

 いや、これでどう細マッチョか否かを感じ取れというのか……ただ肩で二の腕を小突かれているに過ぎないのに。


「今のところ、普通に細いだけの体だな」


 ごく一部、それなりに立派に膨らんでいる部分を除けばだが。


「ふふっ、そうですか。そう言う先輩もかなり細身ですよね。ウエストとか細そう」

「そんなの気にしたことないが……って、しれっと触ろうとするな」


 腰元に伸びてこようとしていた手を即座に払いのける。

 が、一度の拒絶でへこたれる手つきではなかったようで、


「まあまあ、減るもんじゃありませんし――おおっ、やっぱり細い」


 と、細い指先がわさわさと俺の脇腹に触れていた。


「男の人でこれは中々、いとをかし」

「なんの趣きだ……」

「いえいえ、これは本当にいいウエストだと思いますよ。あたしはともかく、羨ましい女子は多いのではないかと」

「別に嬉しくないんだが……っ」


 執拗に触られたせいで思わす背筋が伸びた。


「あ、今びくっとした。もしかして先輩、脇腹弱い人ですか?」

「いや、弱いというか。他人に触られたら普通こういう反応になると思うんだが」

「そうですか? あたしは全然大丈夫ですよ。試しに触ってみます?」

「なんの試しだ。大体、そんなことするわけないだろ」

「えー、別にいいじゃないですか。あたしも触ったわけですし、おあいこってことで」


 軽い調子で言うと、志賀はあろうことか上着の裾を少しだけめくり、引き締まった腹部に露わにさせる。俺はとっさに目を背けた。


「先輩? どうしたんですか、急にそっぽ向いて」

「どうしたもこうしたもあるか。早く服を元に戻せ」

「そんな、お腹くらいで大げさですよぉ。減るもんじゃありませんし」

「減るもんじゃなかったらなんでも見せる気かお前は」

「なんでもは見せませんよ。見せていいところだけです……そ・れ・と、先輩だから見せてもいいんです」


 う、ウザい。しかもまったく意味が分からない。

 なんておののいている場合じゃない。

 こんなところ、万一にも部室を訪れた誰かに見られでもしたら、あらぬ誤解が――、


「……これは中々、衝撃の展開ね」


 ふと、ドアの方から感心するような声。

 見ると、元部長である冴姫さんが立っていた。興味深げな眼差しで俺たちを見つめながら。

 ……どうしてこう、最悪の瞬間に限って現れるのか、この人は。


「昨日の時点ですでに仲睦まげなのは感じていたけれど、まさかもう濡れ場寸前……しかも部室でだなんて」


 どうやら、志賀が服をめくっているのを脱衣の手前だと勘違いしている模様。

 加えて、変に身を寄せ合っているような距離感も誤解のもとか――とにかくまずい状況なのは間違いない。


「待ってください冴姫さん。なにかとんでもない誤解が……」

「安心して秋月君。今はもうあなたが部長で、ここはもうあなたのデブ研なの。あなたが後輩とどんな情事に及んでいようとも、引退未満の幽霊部員になり下がった私に口を挟む道理はないと思うから」

「仮にそんな行為に及んでいたら部長とか関係なしにアウトだと思いますが……とにかくまず話を」

「大丈夫よ秋月君。秋月君たちの情動は年の頃に鑑みればそれほど異常ではないと思うから。ただ、私には少々共感しがたい衝動性というだけで」


 二割フォロー、八割どん底に叩き落とされるような言葉だった。

 いや、前半もほとんどフォローになっていないから十割絶望かもしれない……。


「とにかく、私は顔を見せにきただけだから。気にせず、二人でごゆっくりね」

「ちょ、冴姫さん待って――」


 バタン。むなしくドアが閉じられる。

 ……志賀がいるのに部室がこれほど静かになったのは初めてではないか。

 本来喜ばしいことなのに、むしろ泣きたい気分なのはなぜだろう。


「……先輩って、ちょっとラブコメの主人公みたいですね」


 やがて背後の志賀が話しかけてくる。多少は申し訳なさそうな声に聞こえた。


「まあ、フラグは一本折れちゃったみたいですけど」

「だとしたらお前が折ったんだろうが……」

「あっ、やっぱり元部長さんのこと好きなんですね。可愛いところありますね、先輩も」

「……せからしい」


 その後の志賀は、さすがに自分のウエストを触ってくるようには言ってこなかった。

 俺はといえばしばらく動悸が収まらず、平常心を取り戻すのにだいぶ時間を要す羽目になっていた。



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