11.そういうこと言う人、嫌いです
「ほらほら、冷めないうちにどうぞ。先輩のご飯食べちゃったお詫びですから」
「そうか。まあ、それなら食べざるをえないな」
「そんな、不本意ながらみたいな言い方しないでくださいよぉ。スーパーのお総菜よりはおいしい自信ありますから」
「へえ……それじゃまあ、いただきます」
まんまと志賀の思惑通りに進んでいることは気に入らないものの、空腹には抗えない。
とりあえず一口食べてみた瞬間、俺は確信した。
……うん、これはうまいカレーだ。
「お味はどーですか、先輩?」
「ん? ああ……」
思わず、感嘆の言葉を素直にこぼしかけた。
けれど見つめてくる志賀の顔があまりに得意げだったので、なけなしの素直さが喉の奥に引っ込んでいく。
「食べられないこともないかな」
「ふふっ、そうですか。それならよかったです」
「……本当にいいのかよ。こんな適当な感想で」
「はい。先輩の顔を見つめていれば、本当はどう感じてくれているのか分かりますから」
読心術者かお前は。
しかしそう言われると、なるべく顔に出さないよう無愛想を心がけてしまいたくなる。
「ここでクイズです。このカレーの隠し味はなんでしょう」
「なんだ藪から棒に。そんなの分かるわけないだろ」
「えー。じゃあもっとよく味わって食べてくださいよ」
「隠れているから隠し味なんだろ。味わって食べて分かるようなら隠れていない」
俺の正論に、志賀はたいそうつまらなそうな顔をして、
「仕方ないですねぇ……先輩なら絶対分かってくれると思ったんですけど」
「俺なら?」
「正解は、『可愛い後輩のたっぷりな愛情』でしたから」
にっこりと笑って答えを明かす志賀。
今回に限ってはからかっているところではなさそうだが、それだけに余計謎だ。
「それのどこが、俺なら絶対分かるってことになるんだ」
「え? だって最初に言ったじゃないですか。『愛情たっぷり』の手作りカレーだって」
「ああ、なるほど」
思いのほか論理的だった。これは一杯食わされたかもしれない……色んな意味で。
その後は黙々と食べ進め、すべて平らげてしまった。ジャガイモが入っていないタイプのカレーだったためあっさりめだったが、個人的にはこの方が食べやすくて好きかもしれないと思った。
「ごちそうさま……まあ、一応礼は言っておく」
「ふふっ、お粗末さまでした。気に入っていただけました?」
「まあ、おいしかったよ。意外と料理上手なんだな」
「意外とは余計ですっ。でも、お口に合ったのならよかったです。先輩の胃袋はがっちりと掴んでおきたいですし」
「なにがお前をそこまで駆り立てるんだ……」
部屋が隣になったのは、一人暮らしをする口実に利用されたと見ていい。
しかし、わざわざ俺と同じ部活に入ったり、ここまで俺に絡んできたりする理由が分からない。
部室で訊いた時には――恨みがある、なんて言っていたが。
「じゃあ先輩、今日のところはこれで失礼しますね。あたしも色々あって疲れてしまったので」
「え? いや、まだ訊きたいことが山ほど――」
そう言いかけた俺の口元に、志賀の細い指がぴとりと当てられる。
「ダメですよ先輩。女の子をこんな時間まで引き留めるなんて」
「……こんな時間に上がり込んできたのはどっちだよ」
「そういうこと言う人、嫌いです――なんて冗談はともかくですね、積もる話はまた明日にでも。安心してください。明日はもっと先輩に気に入っていただける料理、作ってきますので」
「――っ」
単なるからかいとは思えない、柔らかな微笑みに不意を突かれる。
志賀は空になったカレー皿とともに、「また明日~」と退散していった。
静けさを取り戻した部屋の中で、俺は正気を取り戻し、
「……ていうか、明日の晩も作る気なのか?」
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