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東雲氷菓はまたねと言う

「あらあら、もう帰るの?」


 おばさんは眉を八の字にして、階段を降りてくる俺と氷菓にそう声を掛ける。


「えーっと、はい。お邪魔しました」

「もう少しいればいいのに。お母さんとか今いないんでしょ? 家でご飯食べて行ったら?」

「いや、今日は遠慮しておきます。妹が夕食の準備に買い物に行ってるんで。――あ、でも……また今度、改めて妹と来ます。その時でも……」


 すると、おばさんの顔がパーっと明るくなる。

 まるで氷菓の生き写しのような表情だ。最近こんなに楽しそうに笑う氷菓を見た記憶は一切ないが、なんだか仲の良かったあの頃を思い出す。


 おばさんは俺の手を握ると、ブンブンと上下に振る。


「良かった……良かった! また来てくれるのね!」

「えっと……まあはい」

「氷菓と仲直りしたの?」

「ちょ、お母さん!? そういうのいいから!! 伊織はもう帰るの!」


 そう言って氷菓はぐいぐいと俺の背中を押す。


「おい、んな押すなよ……」

「いいから!」

「あらあら、恥ずかしがっちゃって。……でも、本当私嬉しいわ。あの頃みたいに、楽しそうな二人がまた見れるのずっと楽しみにしてたから」


 そう言う氷菓の母さんの顔は、本当に嬉しそうで……。


 もしかすると、俺と氷菓のこの三年に及ぶ冷戦は、俺達だけの問題じゃ無かったのかもしれないと、改めてそう思う。少なくとも、おばさんにとっては。


 氷菓にはお父さんがいない。

 俺と氷菓が出会う少し前に、病気で亡くなったそうだ。だから、俺も殆ど知らない。


 それもあって、氷菓は俺と瑠香に、必要以上に仲良くしようとしていたのかもしれない。それを見て、きっとおばさんも安心していたはずなのだ。


 口には出さないし、俺も言わない。でも、きっとそうなんだろうと思う。


「本当に、また来てね、伊織君。楽しみにしてるから」

「……はい。今度はちゃんと、玄関から来ます」

「ん? うん、待ってるわね」


 そうして俺は氷菓にぐいぐいと押されたまま、玄関の外へと出る。

 裸足で外に出るのは幼い頃以来だ。おばさんに姿を見られた以上、窓から戻る訳にもいかないからな……。


 なんとも濃密な時間だった。

 感情を揺さぶる行為なんてのは、エネルギーの無駄遣いで、俺らしくないと思っていたけど。


 どこかスッキリした気分なのは何故だろうか。

 少し考えたが、すぐ止めた。分からないと思っていた方が良いような、そんな気がした。


「――それじゃあ、帰るな」

「う、うん……」


 俺は少し気まずくて、ぽりぽりと頭を掻く。


「あー……じゃ、じゃあな」

「うん……」

「…………」

「…………あ、あの伊織?」

「ん?」

「えーっとその……」


 氷菓もすこし気まずそうにして、何か言う事を熟考しているのか、視線を上の方に逸らしてこちらを見ようとしない。


「な、なんだよ」

「だからその……さっきの話は……」


 さっき……これからは前みたくってやつのことか。

 何だよ蒸し返すなよ……なんだか恥ずかしいじゃないですか。壮大な喧嘩をした後の和解みたいでむずむずするんですが。


「お、おう……」

「――い、いや、いいや!」

「いいんかい!」

「うん。……もう十分だから」

「……そうか。それじゃあな」


 今度こそ俺は塀をでて、自分の家の方へと歩く。


 自分の家のドアに手をかけ、ガチャリと開いたところで、不意に氷菓の家の方から声がする。


「またね、伊織!」


 久しぶりに、氷菓から聞いたセリフ。

 またね。


 最後に聞いたのはいつだろうか。

 もう思い出せない。だが、関係ない。とりあえず、その言葉の返し方は知っている。


「――またな、氷菓」

第一章はここで一区切りです。読んで頂きありがとうございます!

まだまだ、伊織、氷菓、陽の話は続きます。

是非ぜひ引き続き読んで頂けると嬉しいです……!


また、「雷帝と呼ばれた世界最強のS級冒険者、一切慢心することなくその力を遺憾なく発揮し魔術学院で無双してしまう」というファンタジー小説も同時で連載開始しました。

興味がある方は作者ページから読んで頂けると嬉しいです(ヨンデネ)。

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