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290 黒猫族の姫

 ゴブリンの群れを殲滅した俺たちは、この周辺を巡回することにした。


 斥候役の部隊が他にもいるかもしれないからな。


 だが、合流したウルシと共に1時間ほど村の周辺を探し回ったがゴブリンの影も形もなかった。奴らが使っていたはずの巣穴もない。


 あれだけ統制がとれたゴブリンたちであれば、巨大な巣穴を掘っていてもおかしくはないのだが。魔狼の平原で殲滅した、かなり知能が低めのゴブリンでさえ、あれだけ大きな巣穴を掘っていたのだ。むしろ、広大な巣を掘っていなければおかしかった。


『どっかから流れてきただけだったのか? あれだけの規模の群れが?』


 結局、新たな発見は出来ず、俺たちは村に戻ることにした。


 道中、鹿に似た魔獣、チキンディアーを発見したので、ついでに狩っておく。臆病な性質な様で、俺たちの気配を感じた瞬間に逃げ出したが、ウルシの足から逃げられる訳もなく。すぐに追いつかれて仕留められていた。


 良いお土産になるだろう。


 村に戻ったフランを、黒猫族たちが歓声で出迎えた。どうやら派手に使った雷鳴魔術の電光が村からも見えていたらしい。


「あ、あの様な天変地異を起こされるとは!」

「さすが黒雷姫様!」

「かっこいい!」


 さらに、フランが取り出したチキンディアーを見て、興奮が高まる。


「すっげー! あの化け物鹿を!」

「ステキ!」

「お嫁にして!」

「これはお土産、皆で食べて」

「よ、よろしいのですか?」

「うん」

「あ、ありがとうございます!」


 村長が感激した面持ちで頭を下げると、他の村人たちも一斉に頭を下げる。脅威度Fの雑魚魔獣ではあるが、この辺では強い方に入るらしい。ゴブリンよりも余程尊敬された。


 それに、逃げ足の速さから仕留めるのが難しく、角などは脅威度以上の価値があるらしい。時おり、寿命などで死んだ個体から角を採取できた時は、貴重な収入源になるんだとか。


「あと、これも」

「またよろしいのですか? し、しかもこんなにたくさん!」

「ん」


 ゴブリンたちからはぎ取った装備だ。中には雷鳴魔術の熱でドロドロに溶けてしまった物もあるが、そこらは再利用していただきたい。


「これだけは、少し強い奴」

「ほほう。確かに、他の装備とは違いますな」


 あえて別に取り出したのは、ゴブリンキングが身に着けていた装備だ。鋼鉄製で、多少強めだったのだ。


 今の黒猫族たちには扱いきれないが、その内修行して強くなった者にでも渡してあげてほしい。


 フランがそう伝えると、感動し過ぎた村長が滂沱の涙を流している。


「わ、わかりました! 必ずや、相応しい者に使わせますぞ!」



 その夜は再び宴会となった。昨晩の様な大騒ぎではなく、皆が剣や魔術の修行の話をしながら、穏やかに語り合う宴だ。


 メインはフランが仕留めたチキンディアーの丸焼きである。4メートル近い巨鹿だ。少しずつ分ければ、全員に行きわたる量があった。


「ささ、黒雷姫様、どうぞ」

「ん」

「こちらも」

「モグモグ」

「お茶です」

「ズズ――」


 上座にご神体よろしく座っているフランを、村の女衆が甲斐甲斐しく世話してくれる。様々な料理や、酒が飲めないフランのためにお茶を供してくれていた。それも、まるで捧げ物の様に、恭しく渡してくれるのだ。


「ささ、姫様」

「こちらもどうぞ姫様」

「姫様」


 なんか、いつの間にか黒雷姫様ではなく、姫様と呼ばれてるんだけど。フランは馬鹿にされた呼び方をされなければその辺は無頓着なので、呼ばれるがままだ。


 まあ、実害もないしいいか。それにフランは姫と呼ばれるに相応しい可愛さだからね! この国の姫よりもフランの方が可愛いんじゃないか? 会ったことないけどね!


「姫様、本日も大量の武具をありがとうございました」

「邪魔なものを押し付けただけ」

「いえいえ、我が村にしたら宝の山です。現在は鍛冶師がおらぬので、他の村へと持っていき、補修してから村民に配らせていただきます」

「ここ、鍛冶師いないの?」

「はい」


 村長が言うには、数年前に鍛冶師が急な病で亡くなってしまったらしい。弟子はいたがまだ未熟で、他の村へと修行に出ているんだとか。その結果、現在この村に鍛冶師が居ないのだ。


 それだと、俺たちが渡した武具を使えるようになるまで、結構時間がかかるんじゃないか?


(師匠)

『なんだ?』

(わたしたちで何とかする)

『ふむ……』


 せっかく育てた鍛冶スキルの使い所だ。俺のメンテにしか使ってないからな。いい経験だろう。


『そうだな。それもいいかもな』




 宴会の後。


「ここが鍛冶場ですじゃ」

「ん」

「本当に手伝いはいらないのですか?」

「いい。秘伝の技だから」

「おお! それは申し訳ございませぬ」


 フランは村長の家に泊らず、村の端にある民家に移ってきていた。ここは鍛冶師が住んでいた家である。中を見ると、きっちり鍛冶場も併設されていた。


「掃除だけはさせていただきましたので。ご自由にお使いください」

「ありがとう」

「そんな! 我らのためになさって下さるのではないですか! 礼を言うのは我らの方です!」


 感激屋の村長が去った後、俺たちは早速鍛冶に取り掛かった。スキルがあるので、スムーズに動ける。


 まずは、補修さえできないガラクタをインゴットに戻す作業からだ。実はここに来る前に、武具を選別していた。


 軽く掃除すれば使える物は黒猫族たちに渡してある。皆で手入れをしているのですぐに使える様になるだろう。


 残った物は、補修すれば使える物と、ガラクタに分けた。ガラクタを鋳潰した材料を使って、補修を行うのだ。


『じゃあ、頑張るか。フランは寝てていいぞ』

「へいき」

『そうか? じゃあ、最初だけは一緒にやるか』

「ん」


 と言う事で、フランが眠気に負けて船を漕ぎ始めるまで、一緒に鍛冶作業をしたのだった。


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― 新着の感想 ―
保護者=お父さん、なのです。
師匠ってお父さんみたいやな
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