19 このたびギルドに加入しました
「はっはっは。いやー、負けたぜ!」
「ドナド君、笑いごとではないのですがね」
試験終了後、フランはドナドロンドによって、冒険者ギルドの最上階へと連れてこられていた。
中で待っていたのは、ヒョロッとした金髪の優男だ。耳を見れば、エルフだという事がわかった。一見すると弱そうだが……。
名称:クリムト 年齢:136歳
種族:ウッドエルフ
職業:大精霊使い
状態:平常
ステータス レベル:67
HP:180 MP:616 腕力:87 体力:89 敏捷:138 知力:259 魔力:333 器用:98
スキル
詠唱短縮:Lv7、鑑定:Lv5、弓術:Lv3、採取:Lv5、樹木魔術:Lv6、精霊魔術:Lv7、大地魔術:Lv6、調合:Lv5、土魔術:LvMax、毒耐性:Lv3、麻痺耐性:Lv4、水魔術:Lv5、薬草知識:Lv7、料理:Lv4、魔力操作、森の子供
ユニークスキル
精霊の恩寵
称号
ギルドマスター、アレッサの守護神、樹木術師、土術師
装備
老神桜樹の杖、分体創蛇の鱗服、若風竜翼の外套、月兎の跳靴、身代りの腕輪
ドナドを超える実力者だった。魔術スキルがやばすぎだな。それに精霊魔術とか、レアそうだし。さすがギルマスだ。
「まずは名前を聞かせてもらいましょう」
「フラン」
「年齢は?」
「12歳」
フランの言葉に、ドナドが唸り声を上げた。
「何? 本当に見た目通りだというのか!」
ああ、そういう事か。フランの実力を見て、実は凄い高齢の長命種だと思ったんだろう。じゃないと、この外見で、この実力は考えられないもんな。
「ドナドくん」
「あ、すいません」
ギルマスに窘められて、首をすくめるドナド。全然可愛くないな。しかし、試験前と態度が全然違う。あの時は完全にフンヌー! な感じの人だと思ったが、今は気の良いおっちゃんにしか見えない。
「しかし、彼の気持ちもわかります。僅か12歳で、中等剣技を使いこなし、レベル10の火魔術を無詠唱で発動させる? 何の冗談です」
ギルマスが、眉間に皺を寄せている。その眼は、フランの底までを見透かそうとするかの様に、鋭い。
「しかも、鑑定遮断スキルまで持っていますね?」
そういえば、この人は鑑定を持ってたな。それで、フランの言葉に嘘がないか、見ようとしたのだろう。だが、俺は鑑定遮断を持っている。
こんな時のために、自己進化ポイントを消費して取得していた甲斐があったというものだ。このスキルの良いところは、他のスキルと違い、俺を装備しているフランにも、その効果が与えられるという事だ。
鑑定遮断:自身に向けられた鑑定を阻害する。この能力を持つ装備品は、装備者にも鑑定遮断の効果を与える。
ただ、そのせいで変に疑われているみたいだけど。
「言葉通り、12歳の少女だとして、どこからやってきたのですか?」
「秘密」
「……それで済むと?」
「黙秘」
「……はぁ。厄介な」
うーん、ちょっと心配になってきたぞ。フランに探りを入れさせよう。
「合格? 不合格?」
「ドナド君と渡り合う様な猛者を、不合格にするわけにはいかないでしょう」
「じゃあ、ギルドカードを頂戴」
「分かっています。今用意させますよ。この書類に必要事項を記入してください。文字が書けないのであれば、代筆させますが?」
「平気」
フランは両親の教育が良かったのと、奴隷として付加価値を付けるために、読み書きの勉強をさせられていた。
「腕のいい冒険者は大歓迎だぜ! ねぇ、ギルドマスター」
「はぁ。そうですね。精霊も騒いでいませんし」
「精霊?」
「キョロキョロしても、精霊使いにしか見えませんよ」
「精霊が、何を教える?」
「精霊は感情に敏感ですからね。邪心や悪意を抱いている者を、判別してくれるんです」
精霊って便利だな。俺もぜひ使ってみたいぞ。問題は、魔獣で精霊魔術を使う奴がいるかなんだが。
「魔獣とかも精霊魔術を使う?」
「邪悪な心を糧とする精霊もいますので、魔獣でも稀に使う者がいますね。残念なことに」
ほほう。それは朗報。探してみる価値はあるな。
「ギルドマスター、準備ができました」
「そうですか、では行きましょう」
ギルマス自ら案内してくれたのは、カウンターの横にある小さな部屋だった。部屋の中には祭壇の様なものがあり、そこには水晶玉が安置してある。
「これに触れてください。すぐに済みますので」
「ん」
ギルマスの言う通り、一瞬で済んだ。どうやら、フランの魔力を登録したらしい。横で、受付嬢が対になる水晶玉をいじっている。そこにカードを押し当てて、完成なようだ。
「あとは職業の選択ですね」
「職業?」
「ええ。人によって、適性が違うけど、選んだ職業によって、色々な恩恵があるわ」
そう言えば、ランデルさんは商人だったな。ドナドが大戦士で、ギルマスが大精霊使いか。
「フラン様の選べる職業は……えっ?」
「どうしましたかネルくん?」
「いえ、適性職業が、ちょっと凄いんですけど」
「ほう?」
ギルマスの後ろから、画面をのぞいてみる。
戦士、剣士、拳士、魔剣士、瞬剣士、魔術師、火炎術師、白術師、召喚術師、魔獣使い、隠密師、薬師、解体師、料理人
多いな。どうやら、今フランが装備しているスキルに左右されているようだ。俺は槍術や槍技ももっているが、それっぽい職業はないし。料理人や解体師とかいう職業もあるし。
「これは……」
ギルマスさえも絶句している。もしかして、不味かったかな?
「はあ、今更です。ドナド君との戦闘の様子を聞けば、魔剣士や魔術師は予想していましたし」
お、大丈夫そうだ。多分、向こうも驚き慣れたんだろう。
「では、どうされますか?」
『おススメを聞いてみろよ』
「どれがいい?」
「そうですね。アドバイスするなら、魔剣士、瞬剣士、火炎術師は中級職なので、珍しいですね。恩恵も強いですし。魔法と剣を併用するなら魔剣士、剣重視なら瞬剣士、魔術重視なら火炎術師でしょう」
なるほど。どうするか……。
『フランはどれがいい?』
(魔剣士かっこいい)
『じゃあ、魔剣士にしとくか』
ただ、1つ聞いておかないといけないことがある。
「職業は、変更できる?」
「ええ。ギルドに来ていただければ、いつでも。ただ、セットしてある職業の効果しかないので。魔剣士から瞬剣士に変更すると、ステータスが変動しますよ」
まあ、それは予想してたから構わない。変更できるなら、とりあえず魔剣士でいいか。
「じゃあ、魔剣士」
「では、これでギルドカードができました」
見た目はただの青銅色のカードだな。フランの名前と、登録したアレッサギルドの名前、職業、Gという冒険者ランクの記載がある。
「ギルドカードは身分証明書となり、再発行は5000ゴルドかかります。本人の魔力が登録されており、本人しか使えないですが、なくさない様に気を付けることをお薦めします」
その後、ギルマスから注意点や、ギルドの利用法などの説明を聞かされる。普通は受付嬢の仕事の様だが、完全に目を付けられたようだ。全て、ギルマス自ら引き受けてくれた。
まとめると以下の様なものだ。
ギルドの依頼は、冒険者ランクに応じた依頼しか受けられない。具体的には、上下1つ差のランクの依頼まで。ある程度依頼をこなすと、ランクアップ試験が受けられる。カードの色は、G、Fが銅、E、Dが黒、C、Bが銀、Aが金、Sが白金、となっている。素材の買取りなどは、ランク関係なし。年会費などはかからないが、一定期間、ランクに応じた依頼を受けないと、降格や除名の処分がある。冒険者ギルドを裏切る様な行為をすると、最悪粛清されるので、注意するように。また、冒険者同士のいざこざに、ギルドは関知しないので、気を付けること。
最後の忠告は、フランのための物だろう。まあ、絡まれフラグは立ちまくっているしな。
「これで君は冒険者となったわけです」
「ん」
「他に聞きたいことなどはありますか?」
聞きたいことというか、お願いしたいことは有るな。
「試験内容は、公表されるの?」
「いえ。冒険者の能力に関することにも繋がりますので、無暗に触れ回るようなことはありませんが」
「ならいい」
「目立ちたくありませんか?」
「悪目立ちはしたくない」
「ならば、お約束しましょう。私と、ドナド君、そして受付にいたネル君の三人が、このことを口外することはありません。まあ、その方がこちらとしても都合が良い。一応、これでもドナド君は、有事の際に前線で冒険者をまとめる立場なのでね。なめられる要素は少ない方がいい」
「俺は納得いかん。だが、お嬢ちゃんが内緒にしたいと言うのであれば、了解した」
「ただ、貴女の実力であれば、直ぐに注目を浴びることになると思いますがね……」
うーむ。反論できん。まあ、一応上手くいったのかね?




