閑章二 海中ダンジョン 14
『地上に戻ってきたな!』
「ん」
「オン!」
マスターが倒されたことで休眠したダンジョンを脱出した俺たちは、すぐ近くにある無人島へと上陸していた。
バルボラに戻ってもいいんだが、まずはフランたちを休ませてやりたかったのだ。
『フラン、体は大丈夫か?』
「ちょっと痛いけど、へいき」
初めて俺が神剣として力を発揮した、レイドス王国での戦い。あの時、フランは長時間神獣化を使用していたが、戦後の反動はほぼない状態だった。
邪神の童心が、反動や消耗の多くを引き受けてくれたからだ。勿論、疲労や傷は残ったが、それもあれだけ激しい戦闘を行った後にしては非常に軽いものであった。
だが、今回のフランにはかなりの反動と消耗が見て取れる。特に全身が筋肉痛になっているようで、動きがややぎこちない。
多分、足跡の絆の有無によるものだろう。あのスキルは今まで出会った多くの人々から、力を貸してもらうスキルだ。
皆のフランを想う心が、フランを守る力となる。つまり、ただの強化ではないのだ。集う力は優しく暖かい。
その力がフランを害することはあり得ず、それどころか神獣化の消耗すら上回るほどの癒しと守護が与えられているのだろう。
邪神の童心やアヴェンジャー、フェンリルさんたちが反動を引き受け、足跡の絆が消耗を癒す。それが、フランが限界を超えた全力全開で戦闘をしても、ピンピンして居られた理由だった。
『回復魔術をかけるか?』
「へいき。それよりおなかへった」
『はいはい。じゃあ、食事しながら休憩しようか』
「ん! シーフードカレー!」
期待に満ちた顔で、俺を見るフラン。修行と同じくらい、シーフードカレーのために頑張ったんだもんな。
『じゃあ、ちょっ早で作っちゃうから、待っててくれ。先に何か摘まんでおくか?』
「カレー食べて待ってる」
『シ、シーフードカレーの前に、カレー食べるの?』
「こっちは牛肉のカレーだからだいじょぶ」
フラン的には、牛肉カレーとシーフードカレーは全くの別物であるらしい。道中でミノタウロスを見てから、口が牛の口になっていたんだろう。
「ウルシと静かなる海も、これ」
「オン!」
「おお! カレーだな!」
差し出された皿には山盛りのカレーがよそわれているが、狼コンビには全然小さい。しかし、2人は体を小型化させると、全身にカレーが飛び跳ねることも厭わず、カレーにむしゃぶりついた。
体の大きさが自由自在だと、コスパがよくて羨ましいね。
『む? 外に出たいのか? あ、ちょ、勝手に出るなよ! 邪神ちゃんもこいつの味方するんじゃありません!』
「ふははは! 巫女よ! お久しぶりです! おはようからおやすみまで、いつでもあなたの下僕、死にぞこないのアヴェンジャー登場でございます!」
登場1秒でうるせぇ。
「死にぞこない。久しぶり」
「おお! 巫女よ! 本日もよき猫耳っぷりでございますな! ダンジョン攻略なんぞするのであれば、我を肉盾として使い潰してくださればよいものを!」
「それじゃ修業にならないから」
「かぁぁ! さすが巫女! その無限の向上心! 見習いたいものですな!」
アヴェンジャーがいたらダンジョン攻略が捗ったことは間違いないだろう。罠の解除に、何度も復活する肉盾役に、未知の敵に対する特攻隊長と、その役割は多彩だ。
ただ、フランが言った通り、便利過ぎて修行にならないんだよね。あと、こいつの最大の武器である毒が、狭いダンジョンとは相性が悪いのである。
そういう理由から、今回はこいつを呼んでいなかった。それが不満というわけではなく、単純に出番が全く無くなりそうだったから勝手に出てきたんだろう。
「な、なんだこいつは! 凄まじい邪気ではないか!」
「ん。仲間のアヴェンジャー」
「仲間! 巫女が我を仲間と! 何とも素晴らしい響きではないですか! しかし、我のことは仲間ではなく、下僕、もしくは都合の良い肉壁として扱ってくださいませ!」
「……こいつは、大丈夫なのか?」
静かなる海さんがドン引きしているな。慣れてたからこういうもんだと思ってスルーしてたけど、普通はこういう反応だよね?
いや、静かなる海さんは強者の余裕があるからこんなもんで済んでるけど、もっと弱い相手だったら精神攻撃と邪気酔いで恐慌に陥っているかもしれん。やはりこいつの召喚は、場所を考えねばならないな。
「死にぞこないも、はい」
「おお! これは神の料理、カレーではないですか! よろしいのですか?」
「ん」
「おっほぉ! ではいただきましょう!」
え? アヴェンジャーって食事できるんだっけ?
「うままぁぁい! 美味いですぞ! 刺激的かつエレガント! これぞまさに神の料理に偽りなし!」
「ふふん」
普通に食べているな。どうやら味覚もあるらしい。食人鬼なんて言われるように、物を食べる機能は元々残っている種族だ。高位のアヴェンジャーなら、普通に食事可能であってもおかしくはないだろう。魔力さえあれば、食べなくてもいいはずなんだが……。
「うほほほぉい! おいすぃー!」
『……たんと食べろよ』
「食べますともぉ!」
アヴェンジャーの食いっぷりを見て、狼コンビも我慢ができなくなったらしい。自分たちの分まで食べられては敵わないとばかりに、カレーに飛びついた。
「もぐもぐ! うむ! 疲れた体にスパイスの刺激と滋味が染み込むな! 疲労回復効果もありそうだ! うまい! もぐもぐ!」
「オンオン!」
「ほう? この漬物か? もぐもぐ。おお! 美味いぞ! なるほど! 漬物の酸味と甘みが味を変えてくれるのか!」
「どれ? 我も一つ……ほほぉ! 確かに、これは最高ですなぁ!」
「うむ!」
神獣の眷属と、邪神の眷属。仲良くカレーを喰っとるね。まあ、本人たちが気にしてないならいいんだけどさ。
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