1231 冒険者たちの正体は?
「は? 金カード、だと?」
「なんじゃ? 気づいておらんかったのか? やはり三流だな。黒猫族で魔剣を背負った少女なんぞ、そうそう多くはないと思うがな?」
エイワースが冒険者たちを煽る。あえて怒らせつつ、フランがランクAだったことを思い知らせてビビらせようというらしい。
「は、はったりだ!」
「そうだそうだ!」
「だ、だいたい! 黒雷姫がこんなひなびた村にいる訳がねぇ!」
まあ、信じないよなぁ。
リーダーだけじゃなく、背後の男たちも否定の言葉を口にし始める。
詐欺師だからこそ、相手も同じように嘘を吐くと思っているのかもしれない。
「に、似た背格好のガキにそれっぽい装備かぶせてるだけだろ?」
「なるほど! そうだ! そうに違いねぇ!」
「ぎゃははは! 上手い手考えるじゃねーかよ! じじい!」
このままだと、信じてもらえそうにないな。仕方がない。
『フラン。ちょっとだけ実力を見せてやろう』
(ん。わかった)
俺としては、威圧して分からせようって言ったつもりだったんだけど――。
「汚い手でさわるな」
「げぼぉぉ!」
フランに向かって手を伸ばそうとしていた男が、腹を殴られて悶絶していた。屠殺前の家畜のような悲鳴は、周囲の恐れを煽る。
しかも、フランはそれで終わらせなかった。
「せい!」
「ぐばっ! おご! ぶばらっ!」
男を蹴り上げて浮かすと、顔面を殴りつける。血や他の液体を撒き散らしながらぶっ飛ぶ男を高速で追い抜くと、打ち下ろしのフックで地面に叩き付けた。
男は地面を何度かバウンドすると、ゴロゴロと転がって動きを止める。
し、死んでない? よかった、ぴくぴく動いてるし、ギリギリ死んでないな。八割殺しくらいだ。
「ふぅ」
「……」
どことなく満足げなフラン。多分、せっかくランクAになったのに頭から否定されて、イラっとしたんだろう。
怒りを発散して笑顔のフランに対し、周囲は完全に沈黙状態だ。冒険者たちは、何が起きたかもわかっていないかもしれん。
しかし、仲間が一瞬でボロ雑巾にされたことを理解し、段々と恐怖心が湧き上がってきたようだ。怒りの声よりも、声にならない悲鳴の方が多く聞こえている。
「私がランクAだって、わかった?」
「……ひぃ!」
リーダーの腰が完全に引けたな。急な暴力展開だからね。しかも、舐めていた相手が実はいつでも自分たちを殺すことが可能な怪物だったのだ。
生きた心地がしないんだろう。
『フラン。とりあえず、こいつにヒールかけとけ。死んじまうぞ?』
(ん。分かった)
冒険者たちが固まってしまっていて、助けようとする素振りがない。仕方ないので、グレーターヒールで回復させておく。
それを見て、こちらに殺意はないと考えたんだろう。冒険者たちの緊張感が少しだけ緩んだ気がした。それはリーダーも同じだ。
多少落ち着きを取り戻したことで、再び口を開いた。
「お、おいおい! こっちが下手に出てりゃ、いきなり攻撃しやがって! 仲間が死にかけたじゃねぇか! 酷いことを! 俺たちがギルドに訴え出たら、降格は免れないぜ!」
土下座して許しを請うか、尻尾巻いて逃げておけばよかったものを……。そんな男を見て、エイワースが笑い始めた。
「くくくく」
「な、なんだジジイ!」
「お主ら、何者じゃ? 冒険者ではなかろう? しかも、この国の者でもないな? ランクAのいない国の者ならば、その恐ろしさを理解できておらんでもおかしくはないからな」
「て、適当なこと言うな!」
「ふん。ランクA相手に恫喝紛いの交渉? あり得んわ。少々危機感が足らんぞ? その娘がその気になれば、お主らなんぞ5秒で皆殺しだ」
こういういい方はあれだが、ランクA冒険者は隔絶した力を持っている。口が上手い相手に交渉が不利に進んでいたとしても、最後は武力という全てをひっくり返す手札を使える存在だ。
勿論、そんな真似をするランクAは少ないだろう。審査の上でランクアップしているわけだし。でも、やろうと思えば、できてしまうことは間違いないのだ。
そんな相手を恫喝する? 確かに、有り得ないだろう。
「べ、別動隊がいるんだよ! そいつらが情報を持って帰る!」
「くはははは! だとしても、愚かだ。ギルドに訴える? 降格は免れない? 何も分かっていないな! ランクAともなれば、少々の殺し程度で咎められたりせんわ! のう? 黒雷姫よ?」
フランに同意を求めるんじゃない! それはエイワースだけだから!
「お主らのような胡乱な馬鹿どもであれば、猶更よ! ランクA冒険者が白と言えば、黒も白になる! それが冒険者ギルドというものだ!」
まてまて! それは言い過ぎだろ! そもそも、エイワース自身が手配されたりしてるんだぞ? 過激なことを口にするな! フランが「へー、そうなんだ」的な顔しちゃってるじゃないか!
「それにしても……他国の人間が、この村のことをどうやって知った?」
確かにそうだ。これは、少し詳しくお話を聞く必要がありそうだった。
「とりあえず、捕まえる」
「殺すでないぞ?」
「分かってる。尋問しなきゃいけない」
「くくくく! モルモットの数は、多い方がいいからな」
エイワースが獲物を狙う目をしながら、ニヤリと笑った。
この男たち、死んだ方がましかもな。最近お行儀良くし過ぎて、エイワースも色々と鬱憤が溜まっているのかもしれない。
きっと、犯罪者相手じゃなきゃできないような、非人道的な実験を計画しているのだろう。その眼はギラギラと暗く光っていた。
「や、野郎ども! 殺せ!」
「ふはははは! やはり愚かだ! 貴様らごときでは、どれだけの奇跡が起きたとしても我らを殺せるわけなかろうが! 捕らえて、有効利用してやろう!」




