番外編 三 二人、歩く
ヴィティとフィグ様がいなくなった未来のヘルベチカのお話です。
※完全なる私の自己満足な一話のため、読まなくてもまったく問題ありません!
なんでも許せるよ、という方向けです。
四つの国に囲まれた内陸国ヘルベチカ。
他国からの侵略や度重なるクーデターによって、今は、その名もスウェースと改められました。
長きに渡る戦いに疲弊した当時の国王が、周辺の国と同盟を結ぶことで、ようやく落ち着きを取り戻したのがおよそ百年前のこと。
四つの国に囲まれていることに変わりはありませんが、その地の利を活かし、今は観光業を中心に多くの人で賑わっております。
特に、スウェースの北に位置する名峰ホルンは、スウェース国民であれば誰しもが知る神聖なる場所。どれほどの戦火にも荒らされることなく、国を幾度となく守り抜いたその地は、現在、スウェースにとどまらず、大陸全土に名をとどろかせています。
さて、この名峰ホルン。
実はいくつかの伝承が残っているのですが、その伝承は様々です。
『国を守る神様が住んでいた』という説もあれば、『国を破滅へと導いた悪魔が住んでいた』という説もあります。
スウェース一のアカデミータウン、ツュリでは、多くの学者たちがそれらの真相を究明しようと躍起になっています。
とりわけ、伝承の中でも有力なものが『その神や悪魔はドラゴンだった』という話です。
「料理長! ドラゴンだって!」
「お嬢さま、よだれが……」
「えへへ、この間のドラゴンの唐揚げのことを思い出しちゃってつい」
「ほんと、お嬢さまは食べるのがお好きですね」
「スウェースのドラゴンはおいしかったんですかね?」
「いくら伝承とはいえ、神様や悪魔として扱われているドラゴンを食べるのはどうかと」
「でも、食べたら強くなれそうじゃないですか? むしろ、私が神的な」
「……お嬢さまのそういうところ、ちょっとうらやましいです」
「えへへ、もっと褒めていいですよぉ」
「えぇ、またいずれ。それより最後まで読んでくださいよ。せっかく買ったんですから」
「りょっ!」
「了解、を略さないでください」
「はーい」
「返事は伸ばさない」
「はい!」
ドラゴンについての伝承には、二つの有力な候補があります。
一つは、赤く燃え盛る山そのもの……つまり、自然災害がドラゴンに見立てられたというものです。
今は雪の多いホルンですが、その昔、ホルンは火山だったという説があります。大規模な噴火活動が、大昔の人にはドラゴンに見えたのではないかと言われています。
もう一つは、真っ白な氷のドラゴンが住んでいたというものです。
特別な力を持ち、国を守る神として祀られていたと言います。長い生涯のうち、たった一人の女性を愛し、女性と共にホルンの山で眠りについたという伝説は、今もなお、ホルンを神聖視させる要因の一つです。
スウェースの国旗を彩る赤と白は、この二つのドラゴンの伝承にちなんだものとされ、現在でもスウェースという国を表現する上で欠かせないものとなっています。
「だって。っていうか、二つ目、ちょっと地味じゃないですか?」
「そうですか? 僕は二つ目くらいの方が、夢があって良いと思いますが」
「そりゃまぁ、一人の女性を生涯愛する神様、なんてロマンチックですけど……。私は、やっぱりドカーンって感じの方がいいので、一個目が良いですかね!」
「お嬢さまらしい」
「あ、でも……一個目のドラゴンは食べられないですよね。残念!」
「噴火活動ですからね」
「続きは……あ! 見てください! これ、すごいですよ!」
スウェースには、国旗のほかにも、ドラゴンの伝説にちなんだ郷土料理がいくつも存在しています。
たとえば、ホルンの噴火をイメージした足長エビの火山焼きです。取れたての足長エビを山のように重ね合わせ、火山鍋を用いて蒸し焼きにします。甘辛いソースや酸味のあるソースをつけて食べるのがおすすめです。
「ほぇぇ! おいしそう……! 足長エビって炒め物に使われているイメージだったけど、蒸し焼きなんてあるんですね」
「足長エビは小さいものほど、身が引き締まっていますから。もしかしたら、蒸し焼きにしてホクホク感を出しているのかもしれません」
「炒め物のプリッとした感じもいいけど……ホクホク感ってのもいいですねぇ!」
「後で食べに行きましょうか」
「はい! でも、こっちも捨てがたいです!」
足長エビの火山焼きを食べた後は、氷のドラゴンをイメージした、とびきり甘いスイーツはいかがでしょうか。
スウェースの特産品、ブドウを凍らせてクリーム状にしたものに、乾燥させたイチジクを合わせたアイスは王家もうなる一品です。
氷のドラゴンの名前と、ドラゴンが愛した女性の名前をかけ合わせたと言われているロマンチックな一品に、氷のような心を持つあの人の心も溶けてしまうかも⁉
「こちらは氷をイメージしてるんですね。なるほど、これは食後にいただきましょうか」
「はい! スウェースにこれて良かったです。こんなにもおいしそうなものがいっぱいあるなんて!」
「チーズなんかも昔から有名だったみたいですし、他にも色々とありそうですね。ゆっくり見て回りましょう」
「ほんとだ! 次のページにいっぱいチーズを使った料理が書かれてます!」
「観光案内、買って良かったですね」
「はい! あ、これも素敵ですよ!」
「おお、珍しい! 青いシュガーローズじゃないですか!」
「えぇっと……? スウェースには、永遠の愛を誓う時に青色の花を送る風習があります。そんな愛の花をモチーフに、シュガーローズの改良が進められています、ですって」
「素晴らしい国ですね。いいですか、お嬢さま。料理を知るというのは、その土地の文化や歴史を知るということでもあります。このスウェースという国がこんなにも豊かな食文化をもつのは古くから歴史があるからでして……」
「わかりました! さ、行きましょう!」
「まだ、話の途中なんですけど……」
「百聞は一食にしかず! さ、レッツゴー!」
「お、お嬢さま!」
四つの大陸に囲まれた内陸国、ヘルベチカ。
今はスウェースと名前を変えましたが、国に根付いている多くの風習や文化、そして伝承は、はるか昔から大切に守られてきたものです。
国を守る神様に、恐ろしい悪魔、一人の女性に永遠の愛を誓ったドラゴンなど……。
まるでおとぎ話のようなこの国を、どうか、心行くまでお楽しみください。
スウェースを訪れた皆様の中に生まれた『新しい物語』が、素晴らしいものでありますように――
To be continue…?
なんでも許せるよ、ということでここまでお付き合いくださった皆さま。
本当にほんとうに、ありがとうございます!
最後の最後で、なんだこの終わり方は! と思われる方がほとんどなのではないかな、と正直思っています。これについては弁明の余地もありません。申し訳ありません……。
私の完全なる自己満足にお付き合いくださり、ありがとうございます。
ちなみに、おまけのあとがきもあります。
ここまで来たら仕方ない、付き合ってやるよ! と思ってくださった方、よろしければぜひ、そちらもお楽しみください!
本当にほんとうに、ありがとうございました!




