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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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69.魔女の家

 霧が一部晴れていく。

 周囲は未だ濃い霧に包まれ視界が悪い。

 しかし眼前の一か所だけはよく見えるようになった。

 左右に霧が避けていくような感じがする。

 決して大きくはない湖の辺に建つ一軒の小屋。

 街の中に紛れていたら、きっと見向きもしないほど普通の小屋だ。

 なのにどうして、こんなにも興味を惹かれるのだろうか。

 まるで小屋の方から、こっちへおいでと誘っているようじゃないか。


「――!」


 私は一歩踏み出し、そこで立ち止まった。

 引き寄せられるように足が出たことに驚き、咄嗟に三歩後ずさる。

 

「なんなのこの家……」


 少しの恐怖心が芽生える。

 ユレン君たちと逸れた心細さと、未知の世界への畏怖。

 二つが混ざり合い、恐れが増す。

 明らかにおかしい。

 森の中に小屋があること普通かもしれないけど、こんな場所にあるなんて不自然だ。

 魔物が多く生息していて、人が近寄らない森の中。

 四方を見渡せない霧に囲まれて、ここだけ霧がかかっていない。


「やっぱり戻ったほうが――でも……」


 どう戻れば良いの?

 振り返った後ろは霧に包まれていて先が見えない。

 仮にこの場所を離れたとして、また霧の中を彷徨うだけだ。

 ユレン君たちの声も聞こえなかったし、それだけ遠くに離れてしまっているのかも。

 だとしたら下手に動くのは逆に危険かもしれないな。

 それに一応、いざという時の備えも用意してあるし。


「……行ってみるかな」


 私は意を決して、目の前の小屋に近づくことにした。

 不思議なことに行くと決めた途端、すっと心の奥の不安が和らいだ。

 そんな気がする。

 お陰で足取りは軽やかに、小屋の近くまでたどり着いた。

 入り口は一つだけ。

 古いけど手入れされた扉の前に立つ。


 トントントン。


 三回ノックをしてから、大きな声で中に呼びかける。


「すみません。誰かいません――」


 最後まで言い切る前に、扉がギコーっと音を立てて開いた。

 ひとりでに、誰かが引いたわけでもなく。

 空いた扉の先には誰もいない。

 ただ奥に、一人の女性が腰かけていた。


「いらっしゃいお嬢さん。どうぞ中へお入り」


 声も清流のように綺麗だった。

 私が今まで会ってきた中で一番と言えるほど美しい。

 妖艶、というべきなのだろうか?

 薄紫色の髪に、瞳は濃い青色をしている。

 肌はちょっとの日差しで赤くなってしまいそうなくらい白く、華奢な身体だ。

 何より雰囲気が、同じ人間とは思えない。


「どうしたの? いつまでも外にいないで中にお入りなさい」

「あ、あの……」

「大丈夫よ。私は貴女にお願いがあるだけ。それを話したらすぐに他の方々とも再会できるわ」

「え、他って、ユレン君たち!?」


 彼女は知っているの?

 ユレン君たちが今、どこにいるのかを。

 彼の名前の引っ張られるように、私は小屋の中に足を踏み入れていた。

 身体が完全に入ると、また勝手に扉が閉まる。

 ガチャリという音に反応して振り向くと、そこには誰もいない。

 もちろん私が閉めたわけじゃない。


「驚かせてごめんなさいね。でも外は危ないから、お話は中でしましょう」

「危ないって、ユレン君たちに何かあったんですか!」


 不安がよぎる。

 私の知らない所で、彼らに不運が起こっていないか。

 彼女がそれを知っているのかと、問い質したくなる。

 すると彼女は、穏やかに答える。


「ユレンという名前なのね。心配しなくても彼らも無事よ。私の霧の中にいるうちは、危ない場所へはいけないの」

「私の……霧?」

 

 どうしてそんな言い方をするのだろうか。

 それじゃまるで、この霧を発生させているのが自分だと言っているようだ。

 急激な気温低下によって発生する霧は、あくまで自然現象。

 小さなものなら再現できるけど、森を包むほど大規模な霧を発生させるなんて出来ない。

 少なくとも私たち人間には。

 もし、そんなことが出来るのだとしたら――


「魔法?」

「そうよ。私がこの霧を作ったの」


 彼女はニコリと微笑む。

 思い出したきっかけはアッシュ殿下のことだ。

 彼は魔法使いの力を持っているという。

 話に聞く魔法なら、人知を超えた力なら、この現象も起させるかもしれない。

 でも……


「貴女は……」


 それともう一つ、思い出したことがあった。

 私がユレン君の王宮で働き始めた頃、周囲の人々に呼ばれていた名前。

 目の前の女性に、私は恐る恐る問う。


「あ、貴女は……何者なんですか?」


 もし、私が思い描いている存在なのだとしたら。

 彼女がそうなのだとしたら。

 私は、最悪を覚悟しなければならない。

 額から汗が流れ、喉が渇く。

 乾いた喉を潤ったと誤魔化すように、大きくごくりと息を飲む。


 そして――


「私はネーベル。むかーし昔、霧の魔女と呼ばれていたわ」


 彼女は答えた。

 迷いなく、ハッキリと。

 私が想定した最悪の存在の名を。


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