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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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66.戻らない部隊

「姉さん! ユレン殿下! アッシュ殿下が戻られたそうですよ!」

「兄上が!」


 錬成台に向き合う私は反応が少し遅れる。

 部屋に駆け込んできたフサキ君から報告を聞いたユレン君は、作業の手を止めて私に言う。


「アリア、一度兄上の所へ行こう。あの件を話しておかないと」

「……うん」

「気乗りしないのはわかるよ。でも」

「大丈夫だよ。私はまだ諦めてないから」


 これまでに取り組んだ十三のパターンは、残念ながら全て目立った成果を得られていない。

 一時的な症状緩和には繋がるものの、根本の完治には程遠かった。

 しいて成果を言うならば、症状緩和の効果時間が伸びていることくらいだろう。

 アッシュ殿下の留守を頼まれた私としては、一人でも多くの人を助けたかったけど、現実は目の前で何人も死んでいく。

 だけど落ち込んではいられない。

 この病気と闘うのは、私にしか出来ないことなんだから。


「行こう。ユレン君、フサキ君」

「ああ」

「了解ですよ」


  ◇◇◇


 帰還されたアッシュ殿下は医務室にいるという。

 私たちは速足で彼の元に向かった。

 ユレン君がノックもなしに豪快に扉を開ける。


「兄上!」

「ん? おおユレン、アリアとフサキも一緒か」


 医務室にいる、ということは怪我をしたということ。

 だから私たちも急いで駆けつけたのだけど、当の本人は元気そうだ。

 椅子に座り、お医者さんに包帯を巻いてもらっている最中。

 見たところ全身切り傷や打撲はあるみたいだけど、大きな傷はない様子。

 

「兄上、怪我は大丈夫なんですか?」

「見ての通り軽傷だよ。死ぬような怪我じゃないから安心しろ」

「そうですか」


 ユレン君がホッとして胸をなでおろす。

 私も心配していたけど、やっぱり兄弟である彼が一番心配していたようだ。


「でも珍しいですね。兄上が怪我をして戻ってくるなんて」

「いやー今回のやつが結構暴れ回りやがってな。思ったより苦戦しちまったんだ」


 話ながら自分の頭をポンポン叩き、軽い雰囲気で笑うアッシュ殿下。

 魔物がどれほど恐ろしいのか知らない私でも、そんな風に笑えるとは思えない。

 それだけ強い人なんだと再認識させられる。

 

「あの、アッシュ殿下」

「ん? なんだ?」

「もしよければこれを。傷を治癒するポーションです」

「お! 貰って良いのか?」


 私はこくりと頷く。

 元々そのつもりで持ってきていた。


「ありがとな。助かるよ」

「いえ」


 私からポーションを貰い、アッシュ殿下が一気に飲み干す。

 すると瞬く間に効果が発揮され、身体中の傷や打撲が回復していく。


「おー凄いな。俺って薬とかの効きが悪いんだけど、こいつは一瞬だな。やっぱ特別なポーションなのか?」

「いえ普通のポーションなんですが……」


 効果は通常通り発揮されている。

 彼の言うように、薬が効きにくい人は少なくない数いて、ポーションも同様に効果に個人差が現れたりする。

 一般的に薬が効きにくい人は、ポーションの効きも悪かったりするんだけど。

 見た感じその様子はなさそうだ。


「そうなのか? まぁいいや。とにかくありがとな」

「はい」


 回復したアッシュ殿下は確かめるように両腕をグルグル回す。

 違和感がないことを確認して、よしと一言口にした。


「そんで、そっちの首尾はどうだ?」

「そのことなんですが……」


 ユレン君が私に目配せをする。

 私は頷き口を開く。


「私から説明します」

「聞こう」

「はい」


 その後、私はアッシュ殿下に彼が不在の間に判明した情報、起きたことを話した。

 具体的には死者数、新たなポーション開発の難航、そして……


「魔物……か」

「はい。亡くなられた方が口にしていた言葉です」

「そうか」


 アッシュ殿下は俯きながら考え始める。

 意識不明瞭な状態での寝言。

 あまり信憑性の高い話ではないが、魔物という単語が出て来た以上ありえない話でもない。

 今の話を聞いて、アッシュ殿下はどう考えるだろう。

 代表してユレン君が尋ねる。


「どう思いますか? 兄上」

「……そうだな。魔物が関係してるってことならゼロじゃない。前にも話したが、ここのところ魔物の凶暴化が目立つ。無関係じゃないとしたら……」


 殿下は話し途中で口を紡ぐ。

 まだ考えがまとまっていないのだろうか?

 私たちは彼の回答を待つ。


「……実はな? 今回の探索中に行方不明になった部隊があるんだ」

「行方不明? どういうことです?」

「偵察目的で部隊を分けたんだ。選りすぐりのメンツだったから、魔物と遭遇しても逃げきれる想定があった。だがある方向へ向かった部隊は未だ戻らない」


 アッシュ殿下の話によると、構成人数は八人。

 いずれもベテランの騎士たちで、魔物相手でも連携で対応できる強さを持っていたという。

 だからこそ信頼して偵察を任せた。

 結果的に別の部隊が魔物を発見して、殿下はそちらの対処に向かったそうだ。

 しかし、一方の部隊は戻らなかった。


「それもあってすまん。魔物の死体も用意する暇がなかったんだ」

「いえ、仕方ありませんよ」


 そんなことをしていられる状況じゃなかったみたいだ。

 私のお願いよりも、いなくなった人たちが心配だな。

 

「俺も探しに行きたかったんだが、不甲斐なくも負傷しちまってな。部下たちに止められたんだよ」

「そうだったんですか。いや、部下たちの判断は正しいですよ」

「わかってるよユレン。だが放ってもおけない。これから確認にいく予定なんだが、もし魔物がこの病に関係してるのなら……」


 私はこの時点で、殿下が何を考えているのか察した。

 殿下は強い。

 魔物にも負けないくらいに。

 だけど強いだけじゃ、病気には勝てない。

 病気に対抗できるのは……その術を持っているのは。


「アリア。お前にも同行してもらえないか?」

「――はい」


 私だけなんだ。

 だから質問の回答は「はい」しかない。

 元より私も、断るなんて選択肢は選ばなかっただろう。


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