55.第二王子
錬成台に乗せられた素材。
見知った素材に加えて、先日採取した七ノ葉草もある。
半分は栽培用に種に変えて、残りは錬成の材料に使っている。
といっても数が足りないな。
本当はもっと採取しに行きたいけど、この間の一件もあって、しばらくは王宮の外に出られないし。
「いつになったら許可出るのかな~」
「騎士を十人も連れて行けば許可も下りると思うぞ?」
「それはちょっと……ってユレン君!」
いつの間にかユレン君が隣にいた。
「お邪魔してるよ? アリア」
「もぉ~ 驚かさないでよ」
「いい加減慣れてくれ。いつものことだろ?」
それは確かにそうなのだけど。
不意に後ろとか隣にいたり、声をかけられるとビックリするよ。
今日は扉を開ける音も聞こえなかったし。
そんなユレン君はアトリエ内を見渡す。
「今日は一人か?」
「うん。フサキ君ならイリーナちゃんと一緒にいると思うよ?」
「そうなのか? 何か予定でもあったか」
「ううん。お休みなんだからお友達と遊んできなさいって、私からお願いしたの」
イリーナちゃんの純粋な思いを受けて、フサキ君も自分を大切にすることを決めたらしい。
そうは言ってもすぐには変わらないから、私も手伝えることはしようと思って。
仕事が休みの日くらいは、ちゃんと子供らしく遊んでもらわないとね。
今頃は二人でお話し中かな?
きっとイリーナちゃんも喜んでくれていると思う。
「フサキも良い方向に進んでくれたみたいだな」
「うん。イリーナちゃんのお陰だよ」
「そうだな。でも驚いたよ。俺よりも先に本人から事情を聞いちゃうんだからさ」
「あははははっ、あれは成り行きで」
知りたくなったから聞いてしまった。
ユレン君も別の日に、公爵様から話を聞いたそうだ。
「フサキの過去を考えたら、今みたいに自分を追い込むのもわかるんだけどな」
「そうだね。私なんて特にわかるよ」
「だろうな。だから心配だったのもあるんだろ?」
「うん」
心配だった理由は他にもあるけど、概ねそれで合ってる。
自分と似ていた、とか烏滸がましくて言えないな。
とにかく良かった。
彼が自分を大切にしたいと思えるようになって。
「……で? そんなアリアは休日もせっせとお仕事か?」
「うっ」
作業中の錬成台。
並べられた素材と、散らばった研究資料。
私が手に持っているのも、素材のチェックリストだったり。
どこからどう見ても仕事中。
ユレン君はちょっぴり意地悪な笑顔で言う。
「自分を大切にしてほしいってフサキには思っておいて、当の本人はどうなのかな~」
「うう……」
「確か俺、休日くらいしっかり休めって言った気もするんだが?」
「……そうだったね」
言われた記憶がある。
それも割と最近の記憶だったり。
「他人を心配する前に、まず自分も休まないとな」
「ご、ごめんなさい」
「アリアらしいけどな」
「そ、それを言われると返す言葉もないよ」
前から成長していないと言われているようなものだ。
自分ではわかっているつもりでも、誰かに言われないと止まれないこともあって。
私の場合は、ユレン君がよく気付かせてくれる。
「熱心なのは良いことだけどな。君がフサキを心配するように、君のことを心配に思っている人もいるんだ。俺とかな」
「う、うん。気を付けます」
「本当に気を付けろよ? 今日は休みなんだろ?」
「そうなんだけど、休みの日にすること……なくて」
言い訳になってしまうけど。
外にも出られないし、他にやることもなかった。
気付けば普段通りアトリエに足を運んでいて、最初は片付けでもする予定だった……ような?
「だったら俺が話し相手になるよ。ちょうどフサキとイリーナもそうしてる頃だろうしな」
「えっと、じゃあお願いしようかな」
◇◇◇
ユレン君に連れられ、王宮の談話室に移動して。
アトリエで話せば良いと思ったけど、ユレン君には……
「あそこで話してると仕事始めそうだからな」
「た、確かに」
その通りだったので移動することに。
初めて入る部屋だったから少し新鮮さもあった。
談話室というだけあって、机を挟んで椅子が向かい合うようにいくつも並んでいる。
大人数が一緒に話し合えるような造りだ。
今は私とユレン君しかいないけど。
「フサキ君が生まれた場所って、今はどうなってるのかな?」
「いきなり聞きたいことがそれか?」
「ごめん。なんだか気になって」
最初の話題としては重かったかも。
口にしてから反省する。
でもやっぱり知りたいことだ。
「別にどうもなってないけどな。元からあそこは人が平和に暮らせる場所じゃなかった。国同士の境になっていたし、争いは起きやすい」
「じゃあ今も変わってないの?」
「変わったかと聞かれれば、多少は変化したよ。今は俺の兄上が担当しているし」
「ユレン君のお兄さん?」
さっきより別の意味で気になる単語が飛び出してきた。
そういえばユレン君、お兄さんがいるんだよね。
第三王子だし、上に二人?
「そのお兄さんってどんな人、なのかな」
「うーん、アッシュ兄さんを一言で表すなら~ この国で一番強い人かな?」
セイレム王国第二王子、アッシュ・セイレム。
彼は王国一の剣士であり、魔法使いでもあった。






