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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

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31.脅迫状

ジャンル別1位ありがとうございます!

 何気ない日の朝だった。

 私は途中経過の報告のため、アトリエを出てラウラさんの研究室に足を運ぶ。

 アトリエの位置が庭の真ん中で、道という道に出るためには大回りする必要がある。

 私はそれが面倒だったから、木々が生い茂る間を通って抜ける。

 いつものことだった。

 アトリエにはイリーナちゃんが待っているし、早く済ませて作業に戻ろうと考えていた。


 その時だ。


 危ないよ?


「え?」


 小さな声が聞こえた気がした。

 私は咄嗟に立ち止まる。

 立ち止まって正解だったと、目の前を掠めた銀色の刃が語っていた。

 ストン、と木に突き刺さる一本のナイフ。 

 あと少し、止まるのが遅れていれば頭に刺さっていた。


「え、え?」


 意味がわからなかった。

 ここは王宮の中で、私にとって一番安全な場所のはずだ。

 命の危険なんてあるはずがない。

 そんな安心感があったから、目の前をナイフが掠めていった瞬間、全身から冷や汗が流れ落ちる。

 

「わ、私また……」


 狙われてる?

 でも、どうしてだろう?

 あの時みたいな恐怖は感じなかった。

 普通ならその場からすぐに立ち去るべきなのに、私は周りを見渡す余裕があった。

 周りには誰もいない。

 人の気配もない。

 ふいに突き刺さったナイフに視線がいく。


「白い……紙?」


 ナイフの柄の部分に白い紙が巻き付けられていた。

 おそらく手紙か何かだろう。

 私はゆっくりとナイフを木から抜き、巻きつけられた紙を開いた。

 そこに書かれていたのは……


 ユレン殿下に近づくな。

 お前は相応しくない。


「こ、これ……」


 脅迫状、と呼ぶべきなのだろうか。

 それで正しいと思った。

 書かれている文字から、私に対する恨みや怒りが感じ取れたから。

 私がユレン君と仲良くしているのが気に入らない人がいる。

 一体誰が……と考えていた所で時間の経過に気付く。


「さ、先に報告にいかないと」


 私はナイフと手紙をしまい込んで、急いでラウラさんの研究室に向った。

 駆け足で向かう。

 息を切らしながら駆け込んで、ちょっと強めに扉を開く。


「遅くなりました!」

「うーんお疲れーってどうしたの? 汗だくだけど?」

「あ、えっと走ってきたので」

「そう? 別に急がなくていいのに」


 呆れるラウラさんを前にして、私は乾いた笑い方をする。

 定期的な連絡と研究報告をしながら、頭の中で別のことを考える。

 さっきの手紙の内容だ。

 ラウラさんに見せて相談に乗ってもらうべきだろうか?

 手紙の内容的に、差出人がラウラさんというのは考えにくい。

 いやでも、もしもって可能性もゼロじゃ……ありえないか。

 

「どうしたの? 何か悩んでる顔だね?」

「え、あ……そうなんですよ。新しい素材が足りないなと」

「小麦の話?」

「はい」

 

 私は頭の中にあった別の話題に逸らした。

 相談するべきだったのかもしれないけど、ラウラさんは研究で忙しい。

 他事を考える余裕はないだろう。

 そうなると……


 報告を終えて、私はアトリエに戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさいお姉さま! 報告は無事済みましたか?」

「……はい。研究の続きをしましょう」


 ユレン君の妹に相談する、というのもなしだ。

 きっと彼女は凄く心配してくれる。

 親身になって話を聞いて、行動にもおこしてくれそうだ。

 それはそれで大事件になりかねない。

 王宮内が騒がしくなるのは、私だけじゃなくて他の人たちにも迷惑がかかる。

 

「ユレン君に……」


 私は消え入りそうな小さな声でぼそりと漏らした。

 イリーナちゃんには聞こえなかったようで、彼女は黙々とお手伝いを続けている。

 手紙の内容はユレン君に近づくな、だった。

 ユレン君が差し出し人ということは確実にないし、彼にも関係することだから相談するのは間違っていない。

 ただ……ユレン君に近づいてほしくない誰かが、私たちを見ているとして。

 私がユレン君に相談してしまったらどうなるのだろう?

 最悪、ユレン君にまで被害がいかないだろうか?

 それは嫌だ。

 私の所為で、ユレン君が傷つくのは絶対に嫌だ。

 

 となると、残る相談相手は……一人いる。


 仕事を終わらせたその日に、私は彼を探して王宮内を歩き回った。

 そして廊下を歩く彼の後姿を見つけ、声をかける。


「ヒスイさん!」

「ん? あーアリアか、お疲れさん」


 ヒスイさんは陽気に挨拶を返してくれた。

 ユレン君の側近であり、友人のような関係なヒスイさん。

 彼のことはユレン君たちと同じくらい信用している。

 何しろ、ユレン君が最も頼りにしている人だから。

 

「あ、あの、実は相談したいことが」

「相談? 俺にか?」

「はい。ちょっとその……ここでは……」

「わかった。場所を変えよう」


 私の反応を見て察してくれたのか、人がいない部屋に案内してくれた。

 部屋に入って一呼吸おいて、私は事情を説明する。


「なるほどな……」


 驚かれるかと思ったけど、彼は落ち着いていた。

 冷静に話を分析して、可能性を口にする。


「十中八九、王宮内にいる誰かの仕業だろうな~ もしくは頻繁に出入りする奴で、ユレンとも交流がある。どこかの貴族か?」

「あの……私はどうすればいいでしょう?」

「一先ずは普段通りで良いよ。変に怯えてると、他のみんなから心配される。相手も王宮の中で事件は起こしたくないだろうし」

「そ、そうですよね……」


 ホッとしたような、不安なような感情が胸を支配する。

 結局、差出人は誰なのだろうか。

 ヒスイさんにもわからないと言われてしまった。


「俺のほうで調べておくよ。一応、心当たりがなくもない」

「え、そうなんですか?」

「ああ、でも相手が相手だから、下手な予想では口に出来ない。しばらく待ってほしい」


 ヒスイさんの口ぶりからして、それなりの身分の人なのだろう。


「わかりました」

「おう。しっかし驚いたな、ユレンじゃなくて俺に相談に来るなんて」

「す、すみません。ユレン君に相談したら……彼も危険な目に合ってしまう気がして」

「あーそれはどうだろうな。まぁでも、俺の立場からしたら正解だよ。王子に余計なストレスはかけたくない。あいつに話したらきっと怒るからな」


 私もそう思う。

 ユレン君は優しいから。


「ユレンのことだし、俺に相談して自分になかったら、それはそれで怒りそうだがな。終わったら自分の口から話してやってくれ」

「はい」


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