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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

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21.昼下がり、死の香り

 昼下がり。

 私は昼食を終えて身支度を整えた。

 小さなカバンにお金を入れて、宮廷付きの服から普段着に着替える。

 準備が出来たら部屋を出て、そのまま王城の出入り口まで歩いた。

 出入り口に差し掛かるタイミングで声がかかる。


「アリア」

「ユレン君?」


 振り返ると彼が駆け足で私のほうへ向かってきていた。

 私は立ち止まり、彼が来るのを待つ。


「どこか出かけるのか?」

「うん。ちょっと街のほうへ出ようかと思って」

「ふぅーん、今日は休みだったか? 午前中は普通に働いてたのを見かけたけど」

「ううん、休みじゃなくて仕事。街へ行くのも、錬成に必要な材料を集めるためなんだ」


 私が答えると、ユレン君は首を傾げる。

 錬成の素材は申告すれば準備してもらえる。

 わざわざ自分で集めに行く必要はないのだけど、私は違う考え方を示す。


「昔から素材はよく自分でとりに行ってたからね。準備してもらうのも有難いけど、自分で探すと新しい発見があったり、違う発想が浮かんだりするから」

「あぁーなるほど。それじゃもしかして、街の外にも出るつもりでいるのか?」

「え? うん、森とかもあるし、一度は何があるか自分の目で確かめたいと思ってたの」

 

 ラウラさんにもすでに了承は得ている。

 イリーナちゃんも今日は王女様としてのお仕事があるらしく、手伝いに来られない。

 依頼も一先ず区切りが見えて少し心の余裕も出来たところだ。

 だからタイミングとしては丁度良い。


「夕方には帰ってくると思う」

「そっか。うーん、よし! じゃあ俺も一緒に行くよ」

「え? ユレン君も」

「何だその顔は? 俺が一緒は嫌か?」


 ムスッとしたユレン君に、私はぶんぶんと首を横に振る。


「嫌じゃないよ」


 ただ驚いただけだ。

 ユレン君は仮にも王子様だし、簡単に城を出ていいものかと。

 しかしよく考えてみれば、今までも頻繁に抜け出していたことも思い出す。


「大丈夫なの?」

「別に平気だ。ちょうど予定も空いてたところ――」

「ユレーン! どこ行った~」


 大きな声でユレン君を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ヒスイさんの声だ。

 ユレン君はビクッと小さく反応して、嫌そうな顔で目を逸らす。


「呼ばれてるけど?」

「いや、気にするな。さぁさっさと街へ出るぞー!」

「え、ちょっ」

「いいから急げ! あいつに捕まると面倒なんだ」


 捕まるって、まさか逃げ出してきたの?

 と、私が聞くより早くユレン君に手を握られ、そのまま引っ張られる形で王城を出て行く。

 駆け足で風を感じながら。

 王城から続く坂を下り、王都の街並みが近くに見える辺りまで駆け下りて立ち止まる。


「ふぅー、ここまで来れば探せないだろ」

「はぁ、はぁ……」

「ん? 大丈夫か?」

「ユレン君が、い、いきなり走るから」


 息が上がってしまった。

 ユレン君は平気そうにけろっとしている。


「これくらい森を走り回ってた頃は平気だったろ? 宮廷勤めでなまったんじゃないか?」

「そ、そうかも……でも良かったの? ヒスイさん探してたよ?」

「良いんだよ。いつものことだからな」

「いつもなんだ……」


 要するに普段から今のように城を抜け出していると。

 一国の王子がそれで大丈夫なのかと、純粋に疑問を感じた。

 

「護衛もつけなくて平気?」

「俺は剣の腕もあるから護衛とかいらないの。むしろ護衛が必要なのはアリアのほうだぞ?」

「え?」

「期待の新人錬成師に何があったら困るだろ? だから今日は俺が一緒にいて、アリアを護衛するよ」


 そう言って自分の右胸をトンと叩くユレン君。

 任せておけ、という意思表示なのだけど、王子に護衛されるなんて恐れ多いと思ってしまった。

 ただ、この時から少しだけ……嫌な視線は感じていた。


  ◇◇◇


 街を一通り巡った後、私たちは森を残りの時間をかけて探索することにした。

 ちなみに街では良い発見は得られなかった。


「面白そうな素材はいくつかあったんだけどな~」

「うん。でも小麦の素材には向いていないかな」

「もう次を見据えてるのか。凄いな」

「そんなことないよ。まだ完成したのは一種類だけだしね」


 多湿に強い新品種を開発したのが五日前。

 現在は実際の環境に種を植え、順調に育ってくれることを祈るばかりだ。

 実験では成功していたし、特に問題はないだろう。

 他の新品種に関しては難航している。

 今日の素材集めも、小麦作りに使えそうな物がないか探すのが目的だったわけで。


「他にもやることはあるし、まだまだ頑張らないと」

「根詰めすぎるなよ? それで倒れられたら困るんだ」

「うん。わかってるよ」

「本当? そう言って知らない間に無理してそうな感じだけどなぁ。昔から頑張り過ぎるところあるし」


 ユレン君に疑いの目を向けられる。

 そう言われるとちょっと弱い。

 私は笑って誤魔化しながら、別の話題を振る。


「そういえば街の人、ユレン君が一緒なのに落ち着いてたね?」

「そりゃそうだ。いつものことだからな」

「いつも……どんな頻度で抜け出してるの?」

「大体三日に一回くらい」


 思ったよりも高頻度だった。

 これはヒスイさんも大変な思いをしているんじゃないか?


「何で――」


 抜け出すの?

 と聞こうとした時だった。

 私は背中が凍るような寒気を感じる。

 それが殺気だと気づいた時には、目の前に矢が飛んできていた。


「え――」

「伏せろっ!」


 ユレン君の手が私の頭を押さえる。

 咄嗟にしゃがみ込み、矢が頭上を掠めていく。

 ユレン君が腰の剣を抜き、私を庇うように立つ。

 状況が飲み込めない。

 混乱した頭でなお、私は死の恐怖を感じた。

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