陰キャ、最強の武の女王の戦いを見る ー魅せられる最強ー
文化祭翌日、日曜日。
俺は再び、体育館の前に立っていた。
今日は不知火先輩の大事な試合。県大会の準決勝だ。ここで勝てば、決勝に進める。そして優勝すれば、全国大会への切符が手に入る。
体育館の周りには、すでに多くの人が集まっていた。選手の家族、学校関係者、バスケファン。前回よりも明らかに規模が大きい。
空は雲一つない快晴だ。秋の爽やかな風が吹いている。
俺は入り口の前で、浅葱と瀬良先輩を待っていた。
少し早めに来すぎたかもしれない。時計を見ると、集合時刻の10分前だ。
スマホを取り出して、何となく時間を潰す。
その時――。
「高一くん!」
浅葱の声が聞こえた。
振り向くと、浅葱と瀬良先輩が一緒に歩いてくる。
浅葱はいつものように元気いっぱいだ。明るい色のパーカーに、ジーンズ。カジュアルな装いだが、よく似合っている。
瀬良先輩は黒のタートルネックに、ベージュのロングスカート。シンプルだが、上品で洗練されている。その佇まいだけで、周りの視線を集めている。
「おまたせ」
「いや、俺も今来たところだから」
「嘘だ。絶対待ってたでしょ」
浅葱がニヤニヤする。
「……少しだけ」
俺は素直に認めた。
「ふふ、じゃあ入りましょうか」
瀬良先輩が微笑む。
三人で、体育館の中に入った。
※ ※ ※
体育館の中は、前回以上の熱気だった。
観客席は満員に近い。応援団の声が響き渡り、太鼓の音が会場を震わせている。試合前から、この盛り上がりだ。
俺たちは何とか席を見つけて座った。
観客席の中段、コートが見やすい位置だ。
「すごい人……」
浅葱が圧倒されている。
「準決勝だもの。当然よ」
瀬良先輩は落ち着いている。
俺は――コートを見つめていた。
もうすぐ、選手が出てくる。
不知火先輩が、あのコートに立つ。
心臓が、ドキドキと高鳴っている。
緊張しているのは、俺の方かもしれない。
その時、場内アナウンスが流れた。
「それでは、選手入場です」
会場がどよめく。
コートの両端から、選手たちが入場してくる。
青いユニフォームのチーム。それが不知火先輩のチームだ。
そして――。
不知火先輩が、コートに現れた。
背番号7。ポニーテールに結んだ髪。引き締まった表情。
その姿は、前回見た時よりも、さらに凛々しく見えた。
「優花!」
瀬良先輩が声を上げる。
不知火先輩が、こちらを見た。
そして――笑顔で手を振ってくれた。
「来てくれたんだ!」
その笑顔に、俺は――思わず手を振り返していた。
周りの視線なんて、気にならなかった。
ただ――応援したかった。
不知火先輩を。
※ ※ ※
試合が始まった。
開始早々、激しい攻防が繰り広げられる。
相手チームも強い。前回とは比べ物にならないくらい、レベルが高い。
ボールが目まぐるしく動く。パス、ドリブル、シュート。全てが高速で、目が追いつかない。
スコアは拮抗している。
一進一退の攻防。どちらが勝ってもおかしくない展開だ。
そんな中で――不知火先輩は、輝いていた。
相手のマークを振り切り、味方にパスを通す。ボールを奪い、速攻を仕掛ける。そして、確実にシュートを決める。
その動きは、まるでコート上の指揮者のようだった。
チーム全体を見渡し、最適な判断を下す。そして、自らも得点を重ねていく。
「すごい……」
浅葱が呟く。
「ええ。これが優花の本気よ」
瀬良先輩も感嘆している。
俺は――ただ、見入っていた。
不知火先輩のプレーに。
その姿に。
前半が終わる。
スコアは、不知火先輩のチームが5点リードしている。
でも――まだ分からない。
後半、相手チームが巻き返してくる可能性は十分にある。
「……頑張れ」
小さく呟いた。
その言葉は、誰にも届かない。
でも――願っていた。
不知火先輩のチームが、勝つことを。
※ ※ ※
後半が始まった。
相手チームが、明らかに戦術を変えてきた。
不知火先輩を徹底的にマークする。ダブルチーム、トリプルチーム。とにかく、不知火先輩にボールを持たせない作戦だ。
それは――効果的だった。
不知火先輩の得点が止まる。
代わりに、他の選手がシュートを打つが、なかなか入らない。
徐々に、点差が詰まってくる。
5点差が、3点差に。
3点差が、1点差に。
そして――同点に追いつかれた。
会場が、どよめく。
明らかに、流れが変わった。
「……ヤバい」
浅葱が不安そうに呟く。
「……大丈夫よ」
瀬良先輩はそう言うが、その表情にも不安が見える。
俺は――拳を握りしめていた。
どうする、不知火先輩。
このままじゃ、逆転される。
その時――。
不知火先輩が、動いた。
マークを振り切る。味方のスクリーンを使って、フリーになる。
そして――ボールを受け取った。
一瞬の静寂。
会場中の視線が、不知火先輩に集中する。
不知火先輩は――迷わず、シュートを放った。
3ポイントシュート。
ボールが、綺麗な放物線を描いて飛んでいく。
時間が、ゆっくり流れているように感じる。
そして――。
シュッ。
綺麗に、決まった。
会場が、沸いた。
「やった!」
浅葱が叫ぶ。
「さすがね!」
瀬良先輩も立ち上がる。
俺も――思わず、拳を突き上げていた。
「よっしゃ!」
声が出ていた。
周りなんて、気にならなかった。
ただ――嬉しかった。
不知火先輩が、決めてくれた。
※ ※ ※
その後、試合は不知火先輩のチームのペースになった。
不知火先輩の3ポイントシュートが、流れを変えた。
チーム全体に勢いが戻り、次々と得点を重ねていく。
相手チームも必死に食らいつくが、もう届かない。
最終的に――15点差で、不知火先輩のチームが勝った。
ピッ、ピッ、ピー!
終了の笛が鳴る。
会場が、大歓声に包まれた。
選手たちが抱き合って喜んでいる。
不知火先輩も、チームメイトとハイタッチしている。
その顔には、最高の笑顔が浮かんでいた。
「やったー!」
浅葱が飛び跳ねる。
「素晴らしかったわ」
瀬良先輩も拍手している。
俺も――拍手していた。
手が痛くなるくらい、叩いていた。
「……かっこよかった」
小さく呟く。
不知火先輩。
本当に、かっこよかった。
最強だった。
※ ※ ※
試合後、コートの脇で不知火先輩を待った。
他の観客が帰っていく中、俺たちは残っている。
しばらくすると、不知火先輩が出てきた。
汗を拭いて、少し疲れた様子だが、笑顔は輝いている。
「由良! 浅葱ちゃん! 高一くんも!」
不知火先輩が駆け寄ってくる。
「お疲れ様、優花」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様! すごかったよ!」
三人が口々に言う。
「ありがとう! みんなが来てくれて、力になったよ」
不知火先輩は嬉しそうに笑う。
「これで、決勝だね」
瀬良先輩が言う。
「うん! 絶対勝って、全国行く!」
不知火先輩は自信満々だ。
その姿が――眩しかった。
「……応援してます」
俺は素直に言った。
「ありがとう、高一くん」
不知火先輩は優しく微笑んだ。
「じゃあ、お祝いしよう! みんなでご飯行こうよ!」
浅葱が提案する。
「いいわね」
「賛成!」
こうして、四人でのお祝いが決まった。
体育館を出ると、空はすっかり夕暮れに染まっていた。
オレンジ色の空。秋の冷たい風。
でも――心は、温かかった。
みんなと一緒にいる。
それだけで――幸せだった。
「さ、行こっか」
不知火先輩が元気よく言う。
「ああ」
俺も頷いた。
四人で、駅に向かって歩き出す。
その道のりが――とても楽しかった。
陰キャの俺が、友達と一緒に歩いている。
笑い合って、話し合って。
これが――青春なんだ。
そう思った。
俺の青春ラブコメは、まだまだ続く。
そして――これからも、楽しい日々が待っている。
そんな予感がしていた。
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