陰キャ、文化祭を無双する ー自分はもう陰キャなのか?ー
最初のお客さんは、中学生らしき女の子二人組だった。
物珍しそうに部屋を見回している。その目には、期待と好奇心が混ざり合っている。
「いらっしゃいませ」
瀬良先輩が優雅に微笑む。
その笑顔に、二人は一瞬見惚れていた。やはり、瀬良先輩の美貌は強力だ。
「謎解きゲーム、挑戦したいんですけど……」
「もちろんよ。ルールを説明するわね」
瀬良先輩が丁寧にルールを説明する。
部屋の中に隠されたヒントを探し、問題を解いていく。全ての問題を解けば、景品がもらえる。制限時間は15分。
「分かりました! やってみます!」
二人は元気よく答えた。
そして――ゲームが始まった。
俺は部屋の隅で、様子を見守っている。浅葱と不知火先輩も、静かに観察している。
二人は真剣に問題に取り組んでいた。
最初は戸惑っている様子だったが、徐々にコツを掴んできたようだ。ヒントを見つけ、推理し、答えを導き出していく。
その様子を見て、俺は――少しだけ、嬉しくなった。
自分たちが作ったものを、楽しんでくれている。
それが――たまらなく嬉しかった。
「できた!」
二人が歓声を上げた。
全ての問題を解いたらしい。時間は、12分。なかなか優秀だ。
「正解よ。おめでとう」
瀬良先輩が微笑んで、景品を渡す。
文芸部特製のオリジナルしおり。瀬良先輩が書いた短編小説のミニ冊子も付いている。
「わー! 嬉しい!」
「ありがとうございます!」
二人は満足そうに、部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送って――俺は、安堵のため息をついた。
「……良かった」
「うん、上手くいったね」
浅葱が嬉しそうに言う。
「でも、これからが本番よ」
瀬良先輩が言う。
その言葉通り――次のお客さんが、もう扉の前で待っていた。
※ ※ ※
それから、怒涛の時間が始まった。
次から次へと、お客さんがやってくる。
カップル、親子連れ、高校生のグループ。様々な人々が、謎解きに挑戦していく。
俺たちは休む暇もなく、対応に追われた。
ルールを説明し、問題用紙を渡し、時間を計り、答え合わせをする。そして、景品を渡す。その繰り返し。
気がつけば、もう昼を過ぎていた。
途中、不知火先輩がバスケ部の用事で抜けた。代わりに、クラスの出し物が一段落した生徒が何人か手伝いに来てくれた。
部室の前には、常に行列ができている。
それだけ、人気があるということだ。
「すごい人気だね!」
浅葱が興奮している。
「ええ。予想以上だわ」
瀬良先輩も満足そうだ。
俺は――少し疲れていたが、充実していた。
自分たちの企画が、こんなに多くの人に楽しんでもらえている。
それが――何よりも嬉しかった。
その時、扉が開いた。
また新しいお客さんかと思ったら――。
「よう、高一」
クラスメイトの男子だった。
隣には、別のクラスの女子が一緒だ。どうやら、カップルらしい。
「お前、こんなことやってたんだな」
「ああ……まあ」
「すごいじゃん。評判いいぞ」
「そ、そうか……」
俺は照れくさかった。
クラスメイトに褒められるなんて、思ってもみなかった。
「じゃあ、俺たちも挑戦するわ」
「おう、頑張れよ」
二人は謎解きに挑戦し始めた。
その様子を見ながら、俺は――思った。
昔の俺なら、こんな会話すらできなかった。
クラスメイトと笑い合うなんて、想像もできなかった。
でも今は――。
自然に、話せている。
笑い合えている。
「……変わったな、俺」
何度目かの独白。
でも、もう――違和感はなかった。
この変化を――俺は、受け入れていた。
※ ※ ※
午後3時を過ぎた頃。
ようやく、行列が途切れた。
一時的な休憩時間だ。
俺たちは、部屋の隅で座り込んでいた。
疲れた。本当に疲れた。
でも――充実していた。
「お疲れ様」
瀬良先輩がペットボトルの水を配ってくれる。
「ありがとうございます……」
俺は一気に飲み干した。
喉が、カラカラだった。
「すごい人気だったね」
浅葱が満足そうに言う。
「ええ。予想以上だったわ」
「高一くんの企画、大成功だよ!」
浅葱が俺の肩を叩く。
「い、いや……みんなのおかげです」
「謙遜しなくていいのよ」
瀬良先輩が微笑む。
「あなたが考えたから、こうして成功したの」
その言葉に――俺は、少しだけ胸が熱くなった。
「……ありがとうございます」
素直に、そう言えた。
その時、扉が開いた。
「よう、お疲れ」
不知火先輩が戻ってきた。
手には、何か袋を持っている。
「バスケ部の出店で買ってきたよ。焼きそば」
「わー! ありがとう!」
浅葱が喜ぶ。
四人で、焼きそばを分け合って食べた。
疲れた体に、焼きそばの味が染み渡る。美味い。めちゃくちゃ美味い。
「そういえば、優花。試合の応援、いつだっけ?」
瀬良先輩が聞く。
「明日だよ。来てくれる?」
「もちろん」
「私も行く!」
浅葱も元気よく答える。
「高一くんは?」
不知火先輩が俺を見る。
三人の視線が、俺に集中した。
「……行きます」
俺は即答した。
もう、迷わない。
「やった! じゃあ、明日も楽しみだね!」
不知火先輩は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、俺も――笑っていた。
※ ※ ※
文化祭が終わった。
夕方、片付けを終えて、四人で校門を出た。
空はオレンジ色に染まっている。一日の終わりを告げる、優しい色だ。
校内からは、まだ片付けの音が聞こえてくる。生徒たちの声、笑い声。文化祭の余韻が、まだ残っている。
「楽しかったね」
浅葱が満足そうに言う。
「ええ。とても」
瀬良先輩も微笑む。
「また来年もやりたいね」
不知火先輩が言う。
「……ああ」
俺も頷いた。
来年も、こうしてみんなと一緒に。
何かを作り上げたい。
そう思った。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日!」
俺の日常は完全に変わっていた。ぼっちでも陰キャでもなんでもない、俺はただの学生になっていた。それが新たな一歩なのか、それともまた別の何かなのか。まだ分からない事ばかりだ。
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