表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/56

陰キャ、文化祭を無双する ー自分はもう陰キャなのか?ー

 最初のお客さんは、中学生らしき女の子二人組だった。


 物珍しそうに部屋を見回している。その目には、期待と好奇心が混ざり合っている。


「いらっしゃいませ」


 瀬良先輩が優雅に微笑む。


 その笑顔に、二人は一瞬見惚れていた。やはり、瀬良先輩の美貌は強力だ。


「謎解きゲーム、挑戦したいんですけど……」


「もちろんよ。ルールを説明するわね」


 瀬良先輩が丁寧にルールを説明する。


 部屋の中に隠されたヒントを探し、問題を解いていく。全ての問題を解けば、景品がもらえる。制限時間は15分。


「分かりました! やってみます!」


 二人は元気よく答えた。


 そして――ゲームが始まった。


 俺は部屋の隅で、様子を見守っている。浅葱と不知火先輩も、静かに観察している。


 二人は真剣に問題に取り組んでいた。


 最初は戸惑っている様子だったが、徐々にコツを掴んできたようだ。ヒントを見つけ、推理し、答えを導き出していく。


 その様子を見て、俺は――少しだけ、嬉しくなった。


 自分たちが作ったものを、楽しんでくれている。


 それが――たまらなく嬉しかった。


「できた!」


 二人が歓声を上げた。


 全ての問題を解いたらしい。時間は、12分。なかなか優秀だ。


「正解よ。おめでとう」


 瀬良先輩が微笑んで、景品を渡す。


 文芸部特製のオリジナルしおり。瀬良先輩が書いた短編小説のミニ冊子も付いている。


「わー! 嬉しい!」


「ありがとうございます!」


 二人は満足そうに、部屋を出ていった。


 その後ろ姿を見送って――俺は、安堵のため息をついた。


「……良かった」


「うん、上手くいったね」


 浅葱が嬉しそうに言う。


「でも、これからが本番よ」


 瀬良先輩が言う。


 その言葉通り――次のお客さんが、もう扉の前で待っていた。


 ※ ※ ※


 それから、怒涛の時間が始まった。


 次から次へと、お客さんがやってくる。


 カップル、親子連れ、高校生のグループ。様々な人々が、謎解きに挑戦していく。


 俺たちは休む暇もなく、対応に追われた。


 ルールを説明し、問題用紙を渡し、時間を計り、答え合わせをする。そして、景品を渡す。その繰り返し。


 気がつけば、もう昼を過ぎていた。


 途中、不知火先輩がバスケ部の用事で抜けた。代わりに、クラスの出し物が一段落した生徒が何人か手伝いに来てくれた。


 部室の前には、常に行列ができている。


 それだけ、人気があるということだ。


「すごい人気だね!」


 浅葱が興奮している。


「ええ。予想以上だわ」


 瀬良先輩も満足そうだ。


 俺は――少し疲れていたが、充実していた。


 自分たちの企画が、こんなに多くの人に楽しんでもらえている。


 それが――何よりも嬉しかった。


 その時、扉が開いた。


 また新しいお客さんかと思ったら――。


「よう、高一」


 クラスメイトの男子だった。


 隣には、別のクラスの女子が一緒だ。どうやら、カップルらしい。


「お前、こんなことやってたんだな」


「ああ……まあ」


「すごいじゃん。評判いいぞ」


「そ、そうか……」


 俺は照れくさかった。


 クラスメイトに褒められるなんて、思ってもみなかった。


「じゃあ、俺たちも挑戦するわ」


「おう、頑張れよ」


 二人は謎解きに挑戦し始めた。


 その様子を見ながら、俺は――思った。


 昔の俺なら、こんな会話すらできなかった。


 クラスメイトと笑い合うなんて、想像もできなかった。


 でも今は――。


 自然に、話せている。


 笑い合えている。


「……変わったな、俺」


 何度目かの独白。


 でも、もう――違和感はなかった。


 この変化を――俺は、受け入れていた。


 ※ ※ ※


 午後3時を過ぎた頃。


 ようやく、行列が途切れた。


 一時的な休憩時間だ。


 俺たちは、部屋の隅で座り込んでいた。


 疲れた。本当に疲れた。


 でも――充実していた。


「お疲れ様」


 瀬良先輩がペットボトルの水を配ってくれる。


「ありがとうございます……」


 俺は一気に飲み干した。


 喉が、カラカラだった。


「すごい人気だったね」


 浅葱が満足そうに言う。


「ええ。予想以上だったわ」


「高一くんの企画、大成功だよ!」


 浅葱が俺の肩を叩く。


「い、いや……みんなのおかげです」


「謙遜しなくていいのよ」


 瀬良先輩が微笑む。


「あなたが考えたから、こうして成功したの」


 その言葉に――俺は、少しだけ胸が熱くなった。


「……ありがとうございます」


 素直に、そう言えた。


 その時、扉が開いた。


「よう、お疲れ」


 不知火先輩が戻ってきた。


 手には、何か袋を持っている。


「バスケ部の出店で買ってきたよ。焼きそば」


「わー! ありがとう!」


 浅葱が喜ぶ。


 四人で、焼きそばを分け合って食べた。


 疲れた体に、焼きそばの味が染み渡る。美味い。めちゃくちゃ美味い。


「そういえば、優花。試合の応援、いつだっけ?」


 瀬良先輩が聞く。


「明日だよ。来てくれる?」


「もちろん」


「私も行く!」


 浅葱も元気よく答える。


「高一くんは?」


 不知火先輩が俺を見る。


 三人の視線が、俺に集中した。


「……行きます」


 俺は即答した。


 もう、迷わない。


「やった! じゃあ、明日も楽しみだね!」


 不知火先輩は嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て、俺も――笑っていた。


 ※ ※ ※


 文化祭が終わった。


 夕方、片付けを終えて、四人で校門を出た。


 空はオレンジ色に染まっている。一日の終わりを告げる、優しい色だ。


 校内からは、まだ片付けの音が聞こえてくる。生徒たちの声、笑い声。文化祭の余韻が、まだ残っている。


「楽しかったね」


 浅葱が満足そうに言う。


「ええ。とても」


 瀬良先輩も微笑む。


「また来年もやりたいね」


 不知火先輩が言う。


「……ああ」


 俺も頷いた。


 来年も、こうしてみんなと一緒に。


 何かを作り上げたい。


 そう思った。


「じゃあ、また明日ね」


「うん、また明日!」


 俺の日常は完全に変わっていた。ぼっちでも陰キャでもなんでもない、俺はただの学生になっていた。それが新たな一歩なのか、それともまた別の何かなのか。まだ分からない事ばかりだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ