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陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。  作者: 沢田美


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陰キャ、その先にあるものを見つけようとする ーそれは幸せか絶望かー

 陰キャ――ボッチ、孤独の先には何があるのだろうか。ふとした疑問が俺の脳裏を過ぎる。

 

 俺は何を持ってしてここまで一人で生きてきたのだろうか。

 

 自分を敗者と決めつけて、生きてきた。この物語の青春群像劇のモブキャラとして生きてきた。

 

 なのに、それなのに今、俺は満たされている。

 

 不知火先輩、瀬良先輩、浅葱。三人の女の子からのアプローチに、俺はなんと言うべきなのだろうか。

 

 答えは、まだ出ない。


 そんな独白を考えながら、俺はテストが終わった後の放課後、浅葱とどこかへ向かう準備をしていた。

 

 決してデートではない!

 

 絶対に違う!

 

 これは――えっと、なんだ? 友達として遊びに行くだけだ。そう、それだけだ。


「おまたせ! 高一くん!」


 そんなことを自分に言い聞かせていた時、浅葱が元気よく俺の前に現れた。

 

 いつもの制服ではなく、私服だった。

 

 白いワンピースに、薄手のカーディガンを羽織っている。髪は少し巻いているようで、いつもより大人っぽく見える。


「……っ」


 思わず息を飲んだ。


「どう? 変じゃない?」


「い、いや……その、似合ってる」


「ほんと!? やった!」


 浅葱は嬉しそうに笑った。

 

 その笑顔が、妙に眩しい。


「高一くんも私服なんだね」


「ああ……まぁ、制服で遊びに行くのもアレだしな」


「ふふ、高一くんの私服、初めて見た」


「そ、そうか?」


「うん。なんか新鮮」


 浅葱はそう言って、俺の服装を見る。

 

 黒いTシャツに、デニムのジャケット。無難な格好だ。


「じゃあ、行こっか!」


「お、おう」


 こうして、俺と浅葱の――決してデートではない外出が始まった。


 ※ ※ ※


 駅前の繁華街。

 

 俺たちは、ゲームセンターの前に立っていた。


「ここ! ここに来たかったの!」


「ゲーセンか……」


「うん! 高一くん、ゲーム好きでしょ?」


「まぁ……嫌いじゃない」


 というか、陰キャの趣味といえばゲームだ。


「じゃあ、入ろ!」


 浅葱は俺の手を引いて、ゲームセンターの中に入った。

 

 その手の感触が、妙に柔らかい。


「うわー! 色々あるね!」


 浅葱がはしゃいでいる。

 

 その姿が、なんだか子供みたいだ。


「高一くん、あれやろ! UFOキャッチャー!」


「UFOキャッチャー?」


「うん! 私、あのぬいぐるみ欲しいの!」


 浅葱が指差した先には、大きなクマのぬいぐるみがあった。


「あれか……」


「取れる?」


「……やってみる」


 俺はUFOキャッチャーの前に立った。

 

 100円を入れて、クレーンを操作する。


「頑張れー!」


 浅葱が応援してくれる。

 

 俺は集中して、クレーンを動かした。


 一回目――失敗。

 二回目――失敗。

 三回目――。


「あ! 動いた!」


 クマのぬいぐるみが、少しだけ動いた。


「もう一回! もう一回やってみて!」


「お、おう」


 四回目のチャレンジ。

 

 俺は慎重にクレーンを動かす。


 カチッ。


 クレーンがぬいぐるみを掴んだ。

 

 そして――。


「取れた!」


 浅葱が歓声を上げた。

 

 ぬいぐるみが、取り出し口に落ちている。


「すごい! 高一くん、すごい!」


「ま、まぁな」


 照れ隠しに顔を背ける。

 

 浅葱はぬいぐるみを抱きしめた。


「ありがとう! 大切にするね!」


「お、おう……」


 その笑顔が、本当に嬉しそうで。

 

 俺も、少しだけ嬉しくなった。


 ※ ※ ※


 ゲームセンターを出た後、俺たちはカフェに入った。

 

 窓際の席に座り、飲み物を注文する。


「楽しかったね」


「ああ……まぁな」


「高一くん、UFOキャッチャー上手だね」


「昔、よくやってたからな」


「へぇ、そうなんだ」


 浅葱は嬉しそうに笑った。

 

 そして、少し真面目な顔になる。


「ねぇ、高一くん」


「ん?」


「テスト、お疲れ様」


「お、おう。浅葱もな」


「ふふ、大変だったね。瀬良先輩のスパルタ」


「マジで死ぬかと思った……」


 俺は遠い目をした。

 

 浅葱はクスクスと笑っている。


「でも、頑張ったよね」


「まぁ……頑張った」


「結果、どうだった?」


「……まだ返ってきてないけど、多分……平均点は超えたと思う」


「すごいじゃん!」


 浅葱が嬉しそうに言う。


「瀬良先輩たちのおかげだな」


「高一くんが頑張ったからだよ」


 浅葱は優しく微笑んだ。


「……ありがとな」


「どういたしまして」


 そんな会話をしていると、店員が飲み物を持ってきた。

 

 俺はアイスコーヒー、浅葱はカフェラテ。


「ねぇ、高一くん」


「ん?」


「今日、楽しい?」


 浅葱が少し照れくさそうに聞く。


「……まぁ、悪くない」


「悪くない、か」


 浅葱は少し不満そうに頬を膨らませた。


「じゃあ、『楽しい』って言ってよ」


「え?」


「『楽しい』って」


「……楽しい」


 俺は素直に言った。

 

 浅葱の顔がパッと明るくなった。


「ふふ、良かった」


 その笑顔が、本当に嬉しそうで。

 

 俺は――少しだけ、胸が温かくなった。


「浅葱」


「ん?」


「その……今日は、ありがとな」


「え? 何が?」


「誘ってくれて」


 俺がそう言うと、浅葱は少し驚いた顔をした。

 

 そして――優しく微笑んだ。


「こちらこそ。来てくれて、ありがとう」


 その言葉に、俺は何も言えなかった。

 

 ただ、アイスコーヒーを飲んで、誤魔化した。


 ※ ※ ※


 カフェを出た後、俺たちは駅に向かって歩いていた。

 

 夕陽が街を照らしている。


「ねぇ、高一くん」


「ん?」


「また遊びに行きたいな」


「……ああ、まぁ……時間があればな」


「じゃあ、約束ね」


 浅葱は笑顔で言った。


「……約束」


 俺も頷いた。


 そして、駅の改札前で別れることになった。


「じゃあ、また明日」


「ああ、また明日」


 浅葱が改札を通っていく。

 

 その時、浅葱が振り返った。


「高一くん!」


「ん?」


「今日、本当に楽しかった! ありがとう!」


 その言葉を残して、浅葱は改札の向こうへ消えていった。

 

 俺は――その背中を見送った。


「……俺も、楽しかったよ」


 小さく呟いて、俺も改札を通った。


 ※ ※ ※


 帰りの電車の中。

 

 俺はスマホを取り出した。

 

 通知が来ている。


 瀬良先輩からだった。


『テスト、お疲れ様。結果が楽しみね』


 そして、不知火先輩からも。


『お疲れ様、高一くん。今日は浅葱ちゃんと遊んだんだって? 楽しかった?』


 俺は少し考えて、返信した。


『お疲れ様です。楽しかったです』


 送信ボタンを押して、俺はスマホをしまった。


「……陰キャ、ボッチの先には何があるのか、か」


 窓の外を見ながら、俺は呟いた。


「……今なら、少しだけ分かる気がする」


 孤独の先には――繋がりがあった。

 

 一人じゃないということ。

 

 誰かと一緒にいることの温かさ。


「……悪くないな」


 そう呟いて、俺は笑った。


 陰キャの俺に、青春ラブコメが訪れるなんて思ってもみなかった。

 

 でも――それでいい。

 

 これが、俺の青春なんだ。


 電車が次の駅に到着する。

 

 俺はゆっくりと立ち上がった。


 明日からまた、賑やかな日々が始まる。

 

 それが――少しだけ、楽しみだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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