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陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。  作者: 沢田美


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陰キャ、果てない地獄の先で ー活路を見出すー

 ――放課後。


 俺は教室の机に突っ伏していた。


「高一くん、まーた溶けてる」


 浅葱が覗き込みながら笑う。


「……脳が限界を超えたんだ」


「まだテストまで一日あるじゃん!」


「一日“も”あるんだよ……」


 机に額を押し付けたまま呻く俺の背中に、誰かの影が落ちた。


「高一くん、頑張ってるみたいね」


 聞き慣れた声。瀬良先輩だ。


「放課後、特別補習をしようと思って」


「い、いやぁあああああ!」


 思わず叫んだ俺を見て、教室がざわつく。


「なに? 瀬良先輩の補習? 羨ましすぎる……」

「マジかよ、あの瀬良先輩と二人っきりとか勝ち組すぎ」


 ……違う。勝ち組じゃない。地獄組だ。


「ふふっ。そんなに嫌そうな顔しないで。ね、不知火さんも?」


「うん! わたしも一緒に教える!」


 なんであんたら当然のように俺のクラスにいるんだよ。瞬間移動やめろ!


「トリプル地獄構成!?」


 浅葱が爆笑した。


「高一くん、完全に逃げ道ないじゃん」


「笑いごとじゃねぇ……」


 俺は半泣きになりながら鞄を掴む。


「……で、どこでやるんですか?」


「もちろん、文芸部室で」


 瀬良先輩が微笑んだ。


 俺の敗北が決定した瞬間だった。


 ※ ※ ※


 文芸部室。机の上には参考書とプリントの山。


「では、まず数学から始めましょうか」


「え、ちょっと待って。せめて休憩を――」


「そんな時間はないわ。はい、この問題」


 瀬良先輩がプリントを突き出す。


 横では不知火先輩がにこにこしながら言う。


「私は英語担当ね! さっき間違えた単語、全部書き出して!」


「浅葱は何担当……?」


「応援担当!」


「お前だけ自由かよ!」


 教室に笑い声が広がる。けれど、俺の心には余裕がない。


 それでも、いつの間にか手は動いていた。  頭の中に、瀬良先輩の説明が染み込んでいく。


 ふと、不知火先輩が微笑んだ。


「ね、高一くん。最初の頃よりずっと良くなってるよ」


「え?」


「集中力も上がってるし、間違いも減ってる」


 瀬良先輩も頷く。


「ええ。あなた、もともと出来ないタイプじゃないのよ。ただ“逃げてた”だけ」


「逃げてた……」


 その言葉が、胸に刺さった。


 俺は、ずっと自分を“敗者”だと決めつけてた。  努力しても報われないって、勝手に諦めてた。


「……俺、間違ってたかもしれないっすね」


「そう。それでいいの」


 瀬良先輩の微笑みは、さっきまでの“悪魔”じゃなくて――

 ちゃんと、“優しい先輩”の笑顔だった。


 ※ ※ ※


 夜。家に帰って、机に向かう。


「……よし、やるか」


 今度は誰に言われたわけでもなく、自分の意志で参考書を開いた。


 柚葉がドアから顔を出す。


「お兄、まだ勉強してるの?」


「ああ。明日、ちょっと見せたいものがあるんだ」


「ふふっ、頑張ってね!」


 ドアが閉まる音がして、静寂が戻る。


 この世界に勝者も敗者も関係ない。

 あるのは――諦めるか、立ち向かうかだけだ。


「……俺は、立ち向かう方を選ぶ」


 そう呟いて、鉛筆を握り直した。


 ――陰キャ、自論が覆された夜だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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