陰キャ、入学初日でフラグ建築士になる ―逃げ場なしの高校生活―
文芸部の絶世の美少女――瀬良由良。
そして、校内一の運動神経を誇るバスケ部のエース――不知火優花。
そんな二人に挟まれている俺、高一賢聖は、完全に固まっていた。
心臓がドクドクうるさい。呼吸の仕方すら忘れそうだ。
パソコン室の中はやけに静かで、空調の音だけが響いている。
俺はできるだけ冷静を装っていたけど、両脇から突き刺さる二人の視線が、完全に集中を奪ってくる。
「え、えっと……そろそろ用事を思い出したというか、他の部活も――」
「ふーん、じゃあ男子バスケ部のところに来る?」
不知火先輩が柔らかく笑いながら、見事に俺の逃げ道を塞いできた。
その横で、瀬良先輩が眉をひそめて抗議する。
「ちょっと、この子は文芸部に来るんだけど?」
「いやいや、この子、見た目は地味だけど意外と運動神経良さそうじゃない?」
「いえ、こういう“静かな雰囲気”の子こそ文芸向きなの」
「……二人とも、軽く俺をディスるのやめてもらえます?」
俺のぼやきに、二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
……やめろ、その笑顔反則だろ。
あまりに自然で綺麗すぎて、顔が勝手に熱くなる。
いや待て、これは違う。
これはラブコメじゃない。現実だ。俺は今、現実に生きている。
「ねえ、高一くん? 聞いてる?」
「はいっ! 聞いてます!!」
反射的に背筋を伸ばす俺。
……もはや返事のテンションすらおかしい。
結局、「まずは文芸部を見学する」ことで話はまとまった。
ただし、不知火先輩がにやりと笑って言い放つ。
「そのあとで男子バスケ部ね。約束だよ?」
「え、ちょ、待って――」
「決まり!」
――なぜこうなった。
俺のぼっち計画、どこ行ったんだ。
抵抗する気力すら、もはや残ってなかった。
※
放課後。
文芸部の部室――兼パソコン室。
俺と不知火先輩は並んで椅子に座り、ホワイトボードの前に立つ瀬良先輩の説明を聞いていた。
彼女は丸縁の眼鏡をかけ、少し真面目な雰囲気をまとっている。
白髪が照明を受けて輝いていて……なんというか、知的で綺麗すぎる。
いやもう、教師というより美人家庭教師だ。
「それでは、文芸部の活動内容を説明します――」
その瞬間、ふと疑問が頭に浮かんで、つい口にしてしまった。
「そういえば、なんで部室に他の部員がいないんですか? 瀬良さんがいるのに人手不足って……」
その言葉に、瀬良先輩の表情が一瞬だけ陰る。
……あ、これ地雷踏んだパターン?
焦っていると、不知火先輩が吹き出した。
「あはは、そこ気になるよね〜」
「不知火さん?」
「ん〜、みんな怖がって入ってこないの。由良がいると“変な噂”が立つらしくて」
「変な噂?」
「勧誘した男子が、翌日から赤点取ったとか、急にモテなくなったとか」
「それ、呪いの文芸部じゃないですか!?」
俺のツッコミに、瀬良先輩が小首を傾げる。
「そうかな? 私、そんなことした覚えないんだけど」
「まぁ、由良の可愛さに嫉妬した人たちが勝手に言ってるだけだけどね」
不知火先輩が肩をすくめた。
……あぁ、なるほど。
これは確かに面倒な噂の立ち方だ。美人は美人で苦労してるんだな。
瀬良先輩は気にする素振りもなく、淡々と活動内容を説明し始めた。
文芸部では小説・詩・エッセイ・俳句などを創作し、コンテストや文化祭で発表するらしい。
……健全じゃねぇか。どこに赤点要素あるんだよ。
心の中でツッコミを入れつつ、俺は説明を聞いていた。
瀬良先輩がときおり不知火先輩に「ね?」と視線を送るたび、不知火先輩が微笑んで頷く。
二人の息の合い方が自然すぎて、ちょっと羨ましい。
一時間ほど経った頃、瀬良先輩が棚の方へ歩いていった。
「これ、私が書いた小説。読んでみる?」
そう言って取り出したのは、薄い冊子。
俺が興味本位でページを開いた瞬間――
いきなり濃厚なキスシーンが飛び込んできた。
息が止まる。
横から覗き込んでいた不知火先輩が、「わぁお」と漏らす。
「こ、これって……」
「うん、官能小説かな!」
「「わぁお」」
声がシンクロしてしまった。
慌てて冊子を閉じる。顔が熱い。絶対真っ赤だ、俺。
「な、なんでこんなの書いてるんですか!?」
「え? だって面白いじゃん」
……天然か!? これのせいで赤点とる奴いるだろ! あったわ赤点要素。
平然とした顔で近づいてくる瀬良先輩。
距離が近い。近すぎる。
この距離感、理性が焼き切れる。
「ねぇ、どう? 文芸部、入ってみない?」
「――却下で!」
「えぇ!? なんで!?」
驚く瀬良先輩の横で、不知火先輩はお腹を抱えて笑っている。
「あはは、由良、フられてるよ〜」
「笑わないでよ優花!」
頬を膨らませる瀬良先輩が、また可愛い。
見てられなくなって、思わず視線を逸らした。
「じゃあ次は男子バスケ部ね!」
不知火先輩が俺の腕を掴んで、体育館方向へ引っ張る。
……柔らかっ!?
「ちょ、ちょっと!」
その背中に、瀬良先輩の声が飛んできた。
「待って! このままだと廃部になっちゃうの!」
その声に、思わず足を止めた。
振り返ると、瀬良先輩は潤んだ瞳で俺を見ていた。
さっきまでの妖艶さが消えて、ただの必死な女の子の顔だった。
「じゃ、じゃあ……不知火さんのバスケ部を見学したあとで、ちゃんと考えます!」
そう叫ぶと、瀬良先輩の表情がパッと明るくなった。
「本当!? 約束だよ?」
「は、はい……」
――なんで俺、こんな展開のど真ん中にいるんだ。
ぼっち生活、どこいったんだよ……!
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