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陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。  作者: 沢田美


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陰キャ、文武両道の女王に挟まれる ーここは地獄ですか?ー

 放課後。

 

 俺は文芸部の部室にいた。

 

 本来なら不知火先輩との約束があるのだが、その前に瀬良先輩からの「テスト勉強を教える」という約束を果たさなければならない。


「さあ、始めましょうか」


 瀬良先輩は教科書と参考書を山積みにして、俺の前に座った。

 

 その笑顔が、なぜか悪魔のように見える。


「え、えっと……そんなに量あるんですか?」


「当たり前でしょう? あなた、全く勉強してないんでしょう?」


「ぐ……」


 図星すぎて何も言えない。


「まずは数学から。この問題、解いてみて」


 瀬良先輩が差し出したのは、一見簡単そうな問題だった。

 

 俺はペンを持って、解き始める。


「……これって、こうですか?」


「違うわね」


 即答だった。


「じゃあ、こうですか?」


「それも違う」


「こ、これは……」


「全部違う。高一くん、基礎から分かってないわね」


 瀬良先輩はため息をついた。


「……仕方ない。一から教えるわ」


「お、お願いします……」


 こうして、俺の地獄の勉強会が始まった。


 ※ ※ ※


 一時間後。

 

 俺の頭は完全にパンク状態だった。


「次は英語ね」


「ま、まだやるんですか!?」


「当たり前でしょう? テストまで時間ないんだから」


 瀬良先輩は容赦ない。


「この単語、覚えてる?」


「え、えっと……」


「覚えてないわね。じゃあ、今から100個覚えましょう」


「100個!?」


「少ない方よ。本当なら500個覚えてもらいたいところだけど」


「500個とか無理ゲーすぎる!」


 俺の叫びに、瀬良先輩は微笑んだ。


「大丈夫。私が付きっきりで教えてあげるから」


「それが一番怖いんですけど!」


 その時、部室のドアがノックされた。


「どうぞ」


 瀬良先輩が答えると、不知火先輩が顔を出した。


「やっほー。高一くん、まだ勉強中?」


「あ、不知火先輩……」


「ちょっと待っててもらえる? まだ終わってないの」


 瀬良先輩が先に答える。

 

 その声が、少しだけ冷たい。


「えー、でも私、高一くんと話したいことがあって……」


「それは分かってるけど、今は勉強中だから」


「由良、意地悪だよ〜」


「意地悪じゃないわ。高一くんの将来を考えてるの」


 二人の間に、火花が散る。

 

 俺は二人の間に挟まれて、完全に身動きが取れない。


「あの……俺、そろそろ……」


「「ダメ」」


 瀬良先輩と不知火先輩の声が重なった。

 

 逃げ道が完全に塞がれた。


「じゃあ、私も手伝うよ!」


 不知火先輩が突然言った。


「え?」


「勉強教えるの。私も手伝う。そしたら早く終わるでしょ?」


「……いいわよ」


 瀬良先輩は少し不満そうだったが、承諾した。


 こうして、俺は二人の美少女に挟まれて勉強することになった。


 ※ ※ ※


 さらに一時間後。

 

 俺の脳みそは完全に溶けていた。


「この問題は、こうやって解くの」


 瀬良先輩が右から教える。


「こっちの公式も覚えておいた方がいいよ」


 不知火先輩が左から教える。


「「分かった?」」


「わ、わかりません……」


 俺は正直に答えた。

 

 二人は顔を見合わせた。


「……高一くん、本当に大丈夫?」


「大丈夫じゃないです……」


「じゃあ、もう一回説明するわね」


「ま、まだやるんですか!?」


「当たり前でしょう? あなた、平均点以下だったら私の言うこと何でも聞くって約束したでしょう?」


 瀬良先輩の言葉に、俺は絶望した。


「……そうでした」


「だから、頑張りましょう」


 瀬良先輩は優しく微笑んだ。

 

 でもその笑顔が、今は悪魔にしか見えない。


「ねぇ、由良。そろそろ休憩しない? 高一くん、疲れてるよ」


 不知火先輩が助け舟を出してくれた。


「……そうね。10分だけ休憩しましょう」


「やった!」


 俺は思わず声を上げた。


 ※ ※ ※


 休憩中。

 

 俺は机に突っ伏していた。


「お疲れ様。これ、飲む?」


 不知火先輩がスポーツドリンクを差し出してくれた。


「あ、ありがとうございます……」


「ふふ、頑張ってるね」


「頑張ってないと死にます……」


 俺の言葉に、不知火先輩はクスクスと笑った。


「高一くんって、面白いね」


「面白くないです。必死なんです」


「そういうところが面白いんだよ」


 不知火先輩はそう言って、俺の隣に座った。

 

 距離が近い。


「ねぇ、高一くん」


「はい?」


「今日、体育館裏で話したかったこと――」


「休憩終わり」


 瀬良先輩の声が響いた。

 

 不知火先輩は「あ」と小さく声を漏らした。


「由良、まだ5分しか経ってないよ」


「10分経ったわ。私の時計では」


「絶対嘘だよ!」


「嘘じゃないわ。ほら、高一くん、続き始めるわよ」


「は、はい……」


 俺は重い腰を上げた。

 

 不知火先輩は少し不満そうな顔をしている。


「……じゃあ、私も手伝う」


「ええ、お願いね」


 二人の間に、また火花が散った。


 ※ ※ ※


 さらに二時間後。

 

 外はすっかり暗くなっていた。


「今日はここまでにしましょう」


 瀬良先輩が教科書を閉じた。


「お、お疲れ様でした……」


 俺はもう動く気力もない。


「明日も続きやるから、覚悟しておきなさい」


「明日も!?」


「当たり前でしょう? テストまであと一週間なんだから」


 瀬良先輩は笑顔で言う。

 

 その笑顔が、恐怖でしかない。


「じゃあ、私たちも帰ろっか」


 不知火先輩が立ち上がった。


「そうね。高一くん、ちゃんと復習するのよ」


「は、はい……」


 三人で部室を出る。

 

 廊下を歩きながら、不知火先輩が口を開いた。


「ねぇ、高一くん」


「はい?」


「明日のお昼、一緒に食べない?」


「え?」


「私も勉強教えてあげるから」


「それは助かりますけど……」


「じゃあ、決まり!」


 不知火先輩は嬉しそうに笑った。


「ちょっと、優花。ずるいわよ」


「ずるくないよ。正当な権利だよ」


「どこが正当なのよ」


「だって、私も高一くんの勉強見てあげたいもん」


 二人がまた言い合いを始める。

 

 俺はその間に挟まれて、ただため息をつくしかなかった。


「……俺の青春ラブコメ、どうなってるんだ……」


 そう呟いた時、スマホが震えた。

 

 浅葱からのメッセージだった。


『明日も一緒にお昼食べよ! あ、お金はもう大丈夫だから安心して! ガチャ引いたら限定キャラ出たの!』


「……こいつは本当に……」


 俺は深いため息をついた。

 

 そして――少しだけ笑った。


 賑やかで、うるさくて、疲れる。

 

 でも――悪くない。


 そんな日々が、これからも続いていく。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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