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陰キャの俺、なぜか文芸部の白髪美少女とバスケ部の黒髪美少女に好かれてるっぽい。  作者: 沢田美


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陰キャ、妹に翻弄される ー青春ラブコメの神様はどこまでも俺を翻弄するー

「お兄、そろそろ起きたら? 学校遅刻しちゃうよ?」


 暗闇の中で聞こえてくる、我が妹の呼び声。

 そして、その言葉の意味を理解した瞬間、俺は勢いよく飛び起きた。


「が、学校!? 遅刻!?」


 ベッドから跳ね起きると、焦っている俺を冷めた目で見下ろす妹――柚葉がいた。

 

 こいつ、もしや……。

 

 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 慌ててスマホを手に取り、日付を確認すれば――土曜日の午後一時。


「……おい、何の用だ。陰キャにとって土日ほど貴重な時間はないんだが」


「お兄、そういうこと言ってるからいつまで経っても彼女どころか友達もできないんだよ」


「は? い、いるし! イマジナリーフレンドなら両手の指に収まらないほどいるし!」


「それ友達って言わないから」


 柚葉は呆れたように溜息をつく。

 

 くそ、妹にまで哀れみの目を向けられるとは。

 しかも実の妹。これは精神的ダメージがデカい。


「それで、何しに来たんだよ」


 俺の問いかけに、柚葉は何食わぬ顔でこう言った。


「私に今日一日付き合って!」


「――断る」


 即答だった。

 

 想像すればすぐ分かる。柚葉は現役バリバリの陽キャ――つまり、そんな柚葉が「一日付き合って」ということは、どこかに出かけるということを意味する。

 

 陰キャ=吸血鬼。太陽の下に晒されると死ぬ。これ常識。

 

 そんな俺の心配など気にも留めず、柚葉はむすっとした顔をする。

 まあ、可愛い顔してても、お兄は行きたくないんだよ。


「じゃあ、いいよ」


「おや? 柚葉にしては引き際がいいじゃねえか」


 と、油断した瞬間。


「その代わり、お兄が瀬良さんと不知火さんっていう二人の女の人と怪しいLINE交換してるって、お母さんに言いつけるから」


「おい待て、なんでそれを知ってる? お前まさか――」


「見たよ。お兄が全然起きなかったから、ついでに」


「人の携帯を勝手に見るなよ……」


 これは完全に人質を取られた。

 

 しかも、母さんに知られたら確実に面倒なことになる。瀬良先輩や不知火先輩のことを根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えている。

 

 いや、それどころか「お母さんも会いたいわ!」とか言い出しかねない。絶対阻止しなければ。


「……分かったよ。どこ行くんだ」


 俺は渋々、妹の要求を呑んだ。


「美術館だよ!」


「美術館? なんでまた」


「学校の宿題であるの。美術館か博物館みたいなところに行って、感想文を書くっていうやつ。それで一人だとつまんないから、お兄も一緒に、って」


「はいはい、美術館ね……」


 こうして俺と妹は美術館に行くことが決まった。

 

 引きこもりは無闇に外出したくないものだが、仕方ない。

 そんなことを考えながら、俺は柚葉が部屋から出た後、重い腰を上げて着替え始めた。

 

 鏡に映るのは、ボサボサに乱れた髪と、寝起きの冴えない顔。陰キャこと引きこもりとしては完璧なビジュアルだ。

 

 ……いや、完璧じゃダメだろ。少しはマシにしろよ、俺。

 

 適当に髪を整え、最低限人前に出られる格好をして、俺は準備を終えた柚葉と共に家を出た。


              *


 電車を乗り継ぎ、街から少し離れた場所までやってきた。

 目の前にそびえ立つのは、思っていたよりずっと立派な美術館だった。

 

 意外とデカいな……。

 

 そんなことを思いながら、俺たちは美術館の中へと足を踏み入れる。

 館内は思った以上に広く、見渡せばそれなりの人がいた。休日だからか、カップルや家族連れの姿も目立つ。

 

 リア充の巣窟じゃねぇか……。

 

 俺は心の中で呟きながら、柚葉の後をついていった。

 

 受付で入館料を払おうと――財布を出そうとしたら、柚葉が先に学生証を出していた。


「お兄の分も出しとくから」


「……おう、サンキュ」


 妹に奢られるとは。情けない兄である。

 

 俺たちは展示室へと向かった。


 名画や抽象画、彫刻作品など、様々な展示物が並んでいる。

 普段こういう場所に来ることなんてないから、正直どう反応していいか分からない。

 

 でも、なんとなく……悪くない。


「すごいね、こうして見ると」


 柚葉が感心したように呟く。


「そうだな。帰っていいか?」


「なんでお兄は毎回そんなこと言うの。まだ帰らないよ」


「はいはい」


 渋々柚葉の後をついていこうとした、その時。

 俺の視界の端に、見慣れた後ろ姿が映り込んだ。


 ――え。


 おいおいおいおい!

 その姿、俺昨日も見たぞ!?

 

 戸惑うのも無理はない。俺の視界の先には――瀬良先輩がいたからだ。

 しかも一人で、絵画の前に立ち止まり、じっと見入っている。

 

 白髪が館内の照明を受けて輝いている。私服姿の瀬良先輩は、制服の時とはまた違った雰囲気で――なんというか、大人っぽい。


「お兄? どうしたの?」


 柚葉の声に、俺はハッと我に返る。


「い、いや、何でもない」


「……嘘。お兄、今絶対誰か見てたでしょ」


 柚葉が俺の視線の先を追う。

 そして――瀬良先輩を見つけた。


「……お兄、あの人すっごい綺麗だね」


「あ、ああ……」


「もしかして、知り合い?」


「……まあ、な」


 俺が認めると、柚葉の目がキラリと光った。


「もしかして、LINEしてる人の一人?」


「……」


 俺の沈黙が、答えだった。


「じゃあ、声かけてきなよ!」


「は!? 無理無理無理!」


「なんで?」


「だって、俺が今ここで声かけたら、不審者じゃん! しかも妹連れで!」


「お兄、自意識過剰だよ。普通に挨拶すればいいじゃん」


 そう言いながら、柚葉は俺の背中を押す。


「ちょ、待て――」


 その時、瀬良先輩が振り向いた。

 

 俺と目が合う。

 

 時間が止まったように感じた。


「……あ」


「あ」


 間抜けな声が、二人同時に出た。


「高一くん? なんでここに?」


「そ、それはこっちのセリフです……」


 瀬良先輩は少し驚いた顔をした後、微笑んだ。


「偶然ね。私、この美術館好きでよく来るの」


「そ、そうなんですか」


「うん。一人でゆっくり絵を見るのが好きで」


 その時、柚葉が俺の横から顔を出した。


「はじめまして! お兄の妹の柚葉です!」


「え、妹……?」


 瀬良先輩は少し驚いた顔をして、俺と柚葉を交互に見た。


「高一くんに妹がいたんだ。知らなかった」


「まあ、話す機会もなかったですし……」


「そっか。よろしくね、柚葉ちゃん。私は瀬良由良。高一くんの先輩よ」


「やっぱり! LINEしてる人ですよね!」


「柚葉!」


 俺は慌てて妹の口を塞ごうとしたが、遅かった。

 

 瀬良先輩は少しだけ頬を赤くして、クスクスと笑った。


「ふふ、高一くん、妹さんに話してたんだ」


「い、いや、これは……」


「嬉しい」


 瀬良先輩はそう言って、優しく微笑んだ。

 

 その笑顔が、あまりにも綺麗で。

 俺は思わず顔を背けてしまった。


「ね、せっかくだし一緒に見て回らない? 私、この美術館詳しいから案内できるよ」


「え、でも……」


「お願い! 私も一人より、誰かと見た方が楽しいから」


 瀬良先輩がそう言うと、柚葉が俺の服を引っ張った。


「お兄、お願いだから。せっかくの機会なんだし」


「……わかったよ」


 こうして、予想外の三人での美術館巡りが始まった。


              *


 瀬良先輩の案内で、俺たちは様々な展示を見て回った。

 

 彼女は一つ一つの作品について、丁寧に説明してくれる。作者の背景や、作品に込められた意味、技法について――。

 

 正直、美術なんて全く興味なかったけど、瀬良先輩の話を聞いていると不思議と面白く感じた。


「この絵、好きなの」


 瀬良先輩が立ち止まったのは、一枚の風景画の前だった。

 夕暮れの空と、静かな海が描かれている。


「どうして?」


 俺が聞くと、瀬良先輩は少し考えるような顔をした。


「うーん……なんとなく、寂しいけど温かい感じがするから、かな」


「寂しいけど温かい……」


「変だよね」


「いや、なんとなく分かる気がします」


 俺がそう言うと、瀬良先輩は嬉しそうに笑った。


「高一くん、意外と感性豊かなんだね」


「そ、そうですか?」


「うん。小説書くのに向いてると思う」


 その言葉に、俺は少しだけ嬉しくなった。


 柚葉は少し離れた場所で、別の作品を見ている。

 気を利かせてくれているのか、適度な距離を保ってくれていた。


「ねえ、高一くん」


「はい?」


「今度、私と二人でまた来ない? 美術館」


 瀬良先輩の言葉に、俺の心臓が跳ねた。


「まぁ美術館ぐらいなら、俺でも耐性はある程度あるんで大丈夫ですけど」


「相変わらず素直じゃないわね」


「そ、そすかね……」


「うん、でも。私はそんな君に惹かれたんだろうね」


「……」

 

 どこまで青春ラブコメの神様は俺を翻弄してくるんだよ……!

 

 だけど――悪い気はしなかった。

 

 むしろ、少しだけ嬉しかった。


 こうして、予想外の休日は、予想外の展開で幕を閉じようとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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