陰キャ、孤高に生きる男 ープライドは捨てるべきもなのか?ー
もうボッチを貫かなくても良い……か。俺はいつからぼっちというアイデンティティに自信を持って、誇りに思ってきたんだろうな。
そんなことを寝る前の自室で考えてしまう。
ただ俺の中には過去に自分が歩んできた道のり――ぼっちとしての生き様がある。それを切り捨てるのは俺のプライドを消すのと同義だ。
でも、今日一日を思い返すと、あの賑やかさも悪くなかったと思ってしまう自分がいる。
「小説でも書くか」
眠気がない。瀬良先輩の膝で眠ってしまったのが原因なのか、妙に頭が冴えている。
ベッドから立ち上がり、勉強机に座る。
デスクライトを点けると、散らかった机の上が浮かび上がった。教科書、漫画、ペットボトル。そして、いつも持ち歩いているアイデアノート。
ノートを開き、白紙のページにペンを走らせる。
ギャグ小説……俺に向いてないかもな。
ふと、手が止まる。
机の上には、書きかけのネタが散乱している。
どれも中途半端で、オチもない。まるで俺の人生の縮図みたいだ。
「俺って……何がしたいんだろうな」
小さく呟いて、回転椅子の背もたれに身を預ける。
窓の外、街灯の光がカーテン越しに差し込んで、部屋の中を薄く照らしている。
静かすぎる夜。
昔の俺なら、この静寂こそが居場所だった。
誰にも邪魔されず、誰とも関わらず、自分だけの世界に浸っていられる時間。
でも今は、少しだけ寂しいと思っている自分がいる。
――変わってしまったのか、俺。
そう思った瞬間、スマホが光った。
通知音が静かな部屋に響く。
画面を見ると、差出人は不知火優花。
『今日楽しかったよ! また次も遊ぼ!』
絵文字付きのメッセージ。いかにも彼女らしい。
その下には瀬良先輩からのメッセージ。
『今日のあなたの寝顔可愛かったわ。また眠くなった時は私に身を預けていいよ』
……なんだこのメッセージは。
顔が熱くなるのを感じながら、スマホを持つ手に力が入る。
そんなことを思っていると、ふとスマホに新たなメッセージが届く。
送信者は浅葱三鶴。
そう彼女とは『ラウンド・カースト』で遊んだ際にLINEを交換した――いや無理やりされた。
『今日めちゃくちゃ楽しかったよ! また遊べる日があったら私も誘ってよ♡』
ハートマークまで付いてる……どういう意図だよ。
三人からのメッセージを見返しながら、俺は小さくため息をついた。
でも、それは嫌なため息じゃない。
むしろ、少しだけ嬉しいと思っている自分がいる。
「……返信、どうしよう」
既読にはしたくない。でも、無視するのも違う気がする。
結局、どれにも返信できず、スマホを机の上に置いた。
そして再び、俺は勉強机に向き直り、ペンを握る。
ノートの新しいページを開き、ゆっくり書き始める。
『孤高のぼっち、群れの中で目を覚ます。
逃げる理由を失ったとき、人はどうなる?』
ペンを走らせながら、今日のことが次々と浮かんでくる。
映画館での気まずい空気。
フードコートでの賑やかな昼食。
瀬良先輩の膝で眠ってしまったあの感覚。
「……どうなるんだろうな」
自分でも分からない問いを残して、ペンを置いた。
気づけば夜更け。
時計の針が二時を指している。
窓の外では風が鳴り、少しだけ開けた隙間から冷たい空気が入り込む。
俺は風に当たりながら、ぼんやりと天井を見上げた。
瀬良先輩の微笑み。
不知火先輩のまっすぐな視線。
浅葱の軽口。
それらが交互に浮かんでは消える。
頭の中が騒がしいのに、不思議と心地よい。
「……ほんと、めんどくさいな。俺」
そう呟いて、デスクライトを消した。
部屋が再び暗闇に包まれる。
ベッドに潜り込み、布団を被る。
暗闇の中で、瞼の裏に残るのは、三人の笑顔。
――もしかしたら、ぼっちじゃなくなるのも悪くない。
そんなことを思いながら、俺は静かに眠りへ落ちていった。
スマホの画面だけが、未読の返信を待つように、小さく光り続けていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。
応援が次回更新の励みになります!




