陰キャ、ダブルデート(修羅場)に召喚される ―命の保証はありません―
「はぁ……行きたくねぇ。マジで今、外に出たくない気分だ。」
陰キャ兼非リア代表の俺がそう嘆くのも当然だ。
今日は――よりによって、不知火先輩と瀬良先輩、文芸部とバスケ部の女王の二大巨頭に挟まれて遊ぶ日なのだ。
どう考えても気が重い。命の保証すら危うい。
「お兄、どこ行くの?」
声をかけてきたのは、中二の妹・柚葉。紫水中に通う、現役陽キャだ。
「ちょっとした戦場へ行ってくる。もし帰らなかったら、墓碑に俺の名と名声を刻んでおいてくれ……」
「朝から何言ってんの? あと“名声”なんてないでしょ。どっちかって言えば“悪評”――」
「行ってきますっ!! グスン!」
朝から妹に毒を吐かれ、泣き顔で家を飛び出した。
……まあ、確かに戦場ってのは比喩じゃない。
このあと俺が向かう場所は、社会的にも精神的にも修羅場だ。
「あの二人が揃うと、俺の寿命マジで縮むんだよな……」
アホ毛をいじりながら、俺は重い足取りで駅の北口へと向かった。
※
「あっ、高一くーん! こっちこっち!」
凛とした声に顔を上げると――
そこには、二人の天使が立っていた。
一人は、白を基調にしたワンピース姿の瀬良先輩。風にスカートが揺れて、まるで広告ポスターみたいな美しさ。
もう一人は、不知火先輩。黒と青のスポーティな服装に、羽織っている青ジャージ。カッコよさと可愛さを両立したタイプだ。
「なんだあの二人……」
「可愛すぎ」
「芸能人?」
「撮影かなんかじゃないの?」
周囲の人々がざわつく。
その視線を浴びながら、俺の気分はどんどん沈んでいった。
「こういうの、本来はラブコメ主人公がする役なんだよな……俺じゃない。」
呟きながら二人に近づく。
もし数学で例えるなら、先輩二人がプラスなら俺は完全にマイナス。
普通なら合わせたら負の数になるはずなのに、あの二人のオーラが強すぎて全部プラスに上書きされる。
――俺にもそのバフが欲しい(切実)。
「今日は小説のネタ探しに行くんでしょ?」
不知火先輩が楽しげに言い、瀬良先輩が小首を傾げた。
「ネタ探し……なのね?」
「そのつもりですけど、なんかもう既に命の危険を感じてるんですが。」
周囲の男たちの視線が痛い。明らかに殺気を帯びてる。
そんな俺の怯えをよそに、不知火先輩は胸を張って言い放つ。
「まぁ、私たち可愛いからね!」
「そういうことは軽々しく言わないの、優花」
瀬良先輩が苦笑まじりにたしなめる。
……と、次の瞬間。不知火先輩が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「え、え!? な、何のつもりですか!?」
「決まってるじゃん。遊びに行くんだよ?」
無邪気に笑う不知火先輩。
その光景を見た瀬良先輩の表情が、ほんの少し曇る。
そして――彼女も、反対側の俺の腕にそっと手を回した。
「な、なんなんだこの状況っ!!」
両腕を挟まれ、完全にフリーズする俺。
周囲からの殺気と嫉妬がさらに増す。
もはや、この場にいるだけで命の危機を感じる。
「あ……俺、今日絶対に死ぬわ。」
薄れゆく意識の中で、俺は確信した。
青春ラブコメの神様って、絶対に優しい神じゃない。
たぶん――悪意と悪戯でできた厄病神だ。
「死ンダラ祟ルゾ! 夏油!!」
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