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9.助手

「そのままの意味だよ。ほら着いたぞ。ここで待ってるか?」

「いいえ降ります」


ライト改め謎の男ことリードの登場からこれまでを振り返る間もなく仕事場に着いた。

車に一人でいたままのほうが考え事をし過ぎてしまう気がして、ショウは突っぱねるように返事をする。降車するのに手を貸してくれないどころか側にいてくれさえもしないリードの背を追うと、彼は車のキーを遠隔でかけてさっさと先に行ってしまった。


「うええ……」


ボスから「刑事としての一線から退いて探偵のような仕事をするようになった」と聞いていたから、仕事関係で連れていかれるならば依頼人のお宅だとか、聞き込み相手のところを訪問するだとか、ショウの頭の中ではそういった展開がくるものだと想像していた。

お手伝いできる範囲で協力させられるのだとしても、せいぜいペットの犬猫の捜索や浮気調査くらい(それらでさえ今はチップの埋め込みが一般的になっているから簡単に終わりそうなものの)に考えていたのに。


着いた先は規制線が張り巡らされた事件現場。レンガ街の裏通りは唖然とする物々しさで溢れていて、ショウは思わず両手で口を覆った。


「まさか殺人事件の捜査なんですか……」

「じゃまするなら車戻ってろ。吐きそうな顔されるのもいちいちうざいし」

「あなたはいちいち言い方がうざいです。女の子が隣で気分悪そうにしてるのに優しさのかけらもないじゃないですか」

「今は女扱いされたいわけ? 遺体(ホトケ)の前で? なに、どういう趣味?」

「だからあ……」


不満をこぼすショウを鼻で笑うリード。ああ言えばこう言うの問答には腹を立ててもしようがなくなってきた。

ショウは言い返すことを辞め、諦め半分で彼を追いかける。

警官たちが慌ただしく動き回る中を通り抜けた先に探偵まがいを呼び出した人物はいた。近づくショウとリードの姿を視認すると、彼は部下への指示出しを中断させた。


「よう、早かったな。俺らもいま来たところだ」

「化粧の濃い女だな。こいつ娼婦?」


あからさまな皮肉を飛ばすボスを無視し、遺体のそばにしゃがみ込んだリードが無遠慮な感想を漏らす。

近寄ることも逃げ出すこともできなかったショウはボスの広い背を利用してギリギリ遺体が目に入らないところに落ち着いた。


「探偵っていうか、こういうのって検視官とかの仕事じゃないの……?」


現場でただ一人置いてきぼりにされたショウをよそに、ボスの部下らしき歳若い男も交えた三人の大人たちは話を進めていく。


「こいつぁ突発的な物取りか?」

「まあ、そうかもね。なにかを探して乱暴に漁ってる感じかな」

「財布とか時計とか、金目のものはぜーんぶ持ってかれてますねえ」


各々が初見を述べていく中、ようやく事件現場に不似合いな女の子が佇んでいることにボスの傍の若い男が気づく。


「むっ! むむむむう? そちらのお嬢さん、よもや一般人では? すみませんねえ、今テープ張ってるとこなんで……」

「あ、いかん。ショウちゃん」


背後のショウを振り返ったボスの顔は、「すっかりショウの存在を忘れていた」とばかりにバツの悪そうな顔をしていた。

自分がライトに会いに行かせた手前、出ていかせることもできないのだろう。

そんな事情なんて欠片も知らない若い男は職務への正義感から部外者を追い出しにかかる。


「え、えっとその……」


まごつくショウの腕を、パッと横から伸びてきた手が掴んで引き寄せた。

突如バランスを崩された体は慣性に従ってリードの胸に倒れ込む。

図らずも想い人(の体)に抱きとめられ真っ赤になるショウの頭上で会話がポンポン飛び交う。「ラブシーンなら他所でやってくださいよ」と、そんな言葉が聞こえて来そうな、若い警官の呆れた視線が密着する二人に注がれる。


「こいつは俺の助手だよ」

「はあ。助手、ですか?」

「ライトお前、ショウちゃんを助手だなんて、いってえどういう風の吹き回しだ?」

「ついさっき来る途中金で雇ったの。ホームズだって雑用にホームレスの少年団使ってたでしょ。あれと同じようなもんだよ」

「お前がロンドンのフィクションを引き合いに出すのか?」

「えっ、助手……?」

「ショウちゃん、空気読んで合わせとけ」


知らないうちに助手にされていたことに驚いてリードから体を離し、きょとんとしたまま助けを求めたショウの耳にボスが囁く。新米刑事の懐疑的な目がショウを上から下までじろりと往復する。気持ち悪い視線をくらって鳥肌が立ちそうだ。


「そ、そうです。助手です。ライトさんからちゃあんとお給料頂く契約してるんで! ドブさらいでもなんでもしますよ! わたしっ!」

「ふうん。こんな若い娘さんが、なんでもって、ねぇ……」


言い切って堂々と胸を張るショウの顔と胸に多く目を止めて相槌をうつ若い警官の視線に、身の危険を感じて体をビクつかせる。

ボスがセクハラを見咎めて部下に拳骨を叩き込んでいる間、ショウは安堵するでもなく不安げに辺りを見回していた。

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