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14.部屋に二人

「泊めてもらうのに文句を言うわけじゃあないんですけど……」


マンションに戻ったリードが自宅ドアの鍵を開けているとき、部屋番号を見たショウはなんともいいがたい微妙な表情を浮かべて表札横のプレートを指さした。


「……部屋、四〇四号室なんですか」

「他の部屋より家賃が五千円安い」

「はあ」

「加えて両隣も事故物件。誰も住んでないから超静か」


建物のオーナーによっては不吉な数字を嫌って「四階」も「四番」も飛ばして表記することもある(これは昔の二ホン特有のものだともいうし、逆に六や十三を嫌がったりする人も見てきたが)。

わざわざ住処にしていることを得意げに言うなんて少々変わっているのかもしれない。と、今更ながらに思う。

ショウも特別迷信深いというわけではないが、黒猫が前を横切ったときなどはやっぱり少し一日の運勢を気にしたりはしてしまう。その程度なので不吉な番号の部屋に問題はないのだが、不謹慎なリードの態度に不安を煽られる。


「それに、これもちょっと……」


と、次はドアポストの様子に顔を引きつらせてしまう。

ギュウギュウに詰め込まれてるせいで隙間が見当たらないどころか、一枚抜いただけで雪崩が起こりそうな有様なのだ。

ズボラで済ませていい範囲を超えている。こっそり他の部屋を見渡してもせいぜい数枚がペロンと垂れ下がっているだけ。ライトの部屋だけがあからさまに生活態度が悪いことを物語っていた。

世話になると決めた以上、数日間はこれから続くであろう同居生活に早くも不安を感じるショウだったが、それも部屋の状態を認識して現実のものとなってしまう。


「ふ、ええ……これって……」


シンクには山積みの汚れた食器。機能していないクローゼット。はみだした先はソファーの上に収まらず、床にまで散らばる丸まった服。

玄関を開けたら二秒で地獄。靴箱前に放置されてほのかに異臭を放ち始めているゴミ袋は一つ二つでは済まされていない。

その様相はまさに絵にかいたようなゴミ屋敷と言えた。

ショウの想像の超え方を段階的にもう少し詳しく説明するのならば、まるで泥棒が散々引っ掻き回したあとのようなスーパーゴミ屋敷である。

やる気がなくなっていてベッド以外を衣類で埋めていた自分に言えることではないと最初は思ったが、限度というものの遥か上を見せつけられた。

あまりもの惨状。顔を真っ青にし失神しかけたショウは俗にいう「超汚部屋製造者」に指を突きつけ思いの丈を叫ぶ。


「きいいいいいっったない!!!! 虫が出ます! 黒い鉄砲玉が群れをなして来襲しますよこれ!」

「えらい言い方するなって……」


他人事のように溜め息をつくリード。今の「えらい」は「大げさな」と「疲れる」のダブルミーニングだろう。

大声でわめくショウの頭から近所迷惑なんて文字はすっぽり抜け落ちていた。案の定、右隣の住人にドンと壁を殴られて抗議され即座に「ごめんなさい!」と壁向こうの相手に頭を下げた。リードも「ここ集合住宅なんだけど」と顔を歪める。


「あれ? でもお隣さん、誰もいないんじゃなかったですっけ……?」

「住んでないけどたまに音はする」


しれっと付け加えられる新情報にショウが震えると、ワンテンポ遅れて話が戻る。


「四階だから出ないでしょ、虫」

「そういう問題じゃないから! 私の中のライトさんのイメージを返してください!」

「知るか」


きっと、小洒落た部屋で観葉植物に挨拶なんかしながら出勤するのだろうな。クラシックを聴きながら料理なんかもして。ほややんと笑顔を浮かべた清楚なお兄さん像を打ち砕かれ、頭を抱えるショウの隣でリードは堂々としていた。

現にまだこの部屋に入ってきた黒い悪魔は一匹も見ていないのだから問題なんて何もないのだと主張をして。


「毎日忙しくて片付けてらんないんだよね。シャワー好きに使っていいよ。じゃ、俺は先に寝る」


散乱する荷物をザカザカと足で掻き分けて退かし道を作ったリードは、動揺するショウに「風呂場と洗面台はあっち」と顎でしゃくって、外出した服も着替えずゴロリとベッドへ寝転んだ。

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