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第47話 遠い呼び声

 言い争う両者を背に、エルフの女王は俺に向き直った。


「迷子になったドラゴンの子を探したいのはやまやまですが、我々は『精霊の森』の護りを任されているのみ。精霊王の許しがなければ、深部へ立ち入ることはできません。精霊王は、精霊の森の中心にある世界樹の中で微睡んでいます。そしてその眠りを醒ませるのは、『鶏鳴のハープ』か、異世界より来たりし勇者さまのみ。『鶏鳴のハープ』が失われた今、頼れるのは貴方さまのみなのです。どうか、お力を貸していただけないでしょうか」


 たおやかに両手を組み、膝をつく。その姿はこの世のものとは思えないほどに神聖で壮麗だった。――背後で喧々諤々しているドラゴンとエルフの姿がなければ。


「つまり、『世界樹』に行って、精霊王に子ドラゴンの行方を訊けばいいんですね」


 俺が請け合うと、ドラゴンがふんと鼻を鳴らした。


『人間如きに、あの精霊王が扉を開くとは思わんがな。せいぜい魂を抜かれるのがオチだ』


「黙らっしゃい!」


 女王がドラゴンに一喝し、潤んだ瞳で俺を見つめる。


「どうか、よろしくお願いいたします」


 エルフたちが一斉に頭を下げ――ふと、女王がサーニャを見て目を見開いた。


「あら? あなたは……」


 サーニャが首を傾げる。


 女王は優しく目を細めて首を振った。


「いいえ。世界樹のもとに行けば、おのずと分かることでしょう」



******************************



 『精霊の森』。


 自然の化身である精霊たちが憩う、神聖な場所。


 深い森に一歩足を踏み入れて、俺は思わず呟いた。


「すごい魔力だな」


 森全体が光を帯びている。


 大地だけではない、空気や草木の一本一本に至るまで、潤沢な魔力が通っている。


 そして豊かに茂った木々の間に、光の粒子が漂っていた。


 目を懲らさなければ見えない微細なものから手のひら大のものまで、風に乗ってふわふわと浮遊している。


「これが精霊か」


 集まってくる精霊を見上げながら、リゼが「はい」と目を輝かせる。


「精霊は、生き物や自然、万物に宿る精気。普段は目に見えませんが、ここはよほど大気中のエーテルが濃いのでしょう」


 この精霊たちを司り、自然を統べるという精霊王。


 エルフやドラゴンたちは、口を揃えて「気難しい」と表現していたが、いったいどんな人なんだろう。


 最深部を目指して、木々の間を歩く。


 どの木も大きくて、まるで自分が縮んだような錯覚を起こす。


 森にはたくさんの動物たちがいた。


「見て、うさぎだぁ!」


 草むらから飛び出したうさぎを見て、ティティが声を弾ませる。


 うさぎは待ちかねていたかのように、サーニャの足元に纏わりついた。


「リスも来たわ、可愛いわね」


 サーニャの肩によじ登ったリスに顔を寄せて、フェリスが微笑む。


 歩を進める内に、サーニャの元にたくさんの動物たちが寄って来た。


 鳥にネズミ、キツネ、モグラに小鹿、果てはイノシシまで。


 ちょっとしたパレードだ。


「相変わらずモテるなぁ」


 『精霊の森』という土地柄か、いつも以上に大盛況だ。


 俺はサーニャの頭を撫でて笑い――だが、笑っていられるのもそこまでだった。


 精霊の森に入って三十分ほど経った頃、リゼが声を上げた。


「あの、サーニャさま、光ってませんか……?」


「え?」


 振り返る。


 サーニャが、ぼんやりと光を帯びていた。


「!? だ、大丈夫か、サーニャ」


 慌てて魔力回路を調べてみるが、特に異常は見当たらない。


 むしろ魔力は潤沢、溢れんばかりに光り輝いて絶好調だ。


 本人もいつもと変わらない顔をしている。


「何か異変を感じたら、すぐ言うんだぞ」


 サーニャが頷いたのを確かめて、再び進む。


 やけに精霊たちが集まってくるなと思っていると、今度はティティが呟いた。


「ねえ、サーニャちゃん、浮いてない?」


 振り返る。


 サーニャが、地面から五センチほど浮いていた。


「ど、どうしたんだ、サーニャ」


 本人もよく分からないようで、釈然としない表情でふわふわと浮いている。


 他に異常は見当たらないのだが、風に攫われてしまいそうだ。


 念のため飛ばされないよう、手を握って進む。


 心配そうにサーニャに寄り添っていたフェリスが、辺りを見回す。


「精霊が……」


 いつしか空が霞むほどの光の粒子が、俺たちを取り巻いていた。時に高く舞い上がり、時に軽やかに渦を巻き、まるでダンスを踊っているようだ。


 精霊たちの光に合わせて、サーニャの魔力回路が明滅する。


「精霊が呼応してる……?」


 進めば進むほど謎が深まる。


 サーニャの身に、一体何が起こっているんだろう。


 金色の光が楽しげにサーニャにまとわりつく。まるで歓迎するように、あるいは誘うように。


 サーニャが、俺の手を握る手にぎゅっと力を籠める。


 俺もその小さなぬくもりを強く握り返した。


 妙に胸が騒ぐ。この手を離してはいけない。サーニャを繋ぎ止めなければいけない――何故かは分からないが、そんな気がした。


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