第百三十五話 阻止
群列の前進は止まっている。その内部を掻き回すよう、脚と顎を掻い潜りつつタコワサは舞う。
これ以上数を減らすことは難しい。だが、進ませぬようにすることは、できるはずだ。
銛を振るう。それは討ち倒すための動きではなく、牽制するための動きだ。群れの後方は、戦士たちが上手く潜り込んだのか、混乱の兆しが見える。このままであれば、ミズ族集落に籠っていたものどもすべてが逃げのびるまでの充分なときを得られるはずであった。
だが。恐ろしいことに、この長き殻どもの群れは、ただの群れではない。
ざわりとした感覚と同時に、群れの顎先が変わった。
頭の進む先が、二方に分かれている。分断。いや、戦士たちがしたものではない。マ族の戦士たちの目的は、敵の群れをすべてまとめてここに留め置くことだ。
ならばこれは敵がそれを判じて、群れを分けたものだ。
一群が飛び出し、戦士やタコワサを無視して走り出す。その一群でもって、逃げ行く集落のものどもを追うつもりだ。
水中に泳ぎ、跳びあがった。
広がる墨の上から遠くを望む。集落の外。ほぼすべての族民が、すでに脱出を果たしたように見える。
だがいくつかの群れは、いまだ集落から遠く離れぬ場所を、ゆっくりと泳いでいる。
幼生を抱える雌。卵を抱える雌。様々な道具を運んでいるミズ族。
そして、倒れたオドリグイを守り、運んでいる一群。
最も遅れているのが、オドリグイを運んでいる群れであった。
そのミズ族たちの群れに向けて、クルマ族の群れが走る。数は八頭。多くはないが、柔らかきものどもにとっては大いなる脅威だ。
その顎先を変えようと、三頭のマ族戦士が回り込むように泳ぎ追う。だが。
間に合わぬ。そう判じた。
オドリグイに集まっていた守りが解け、そこから二頭が飛び出す。マ族やミズ族より大きく、丸く、黒くて、全身に棘持つもの。
二頭の棘持つものどもだ。彼らはいつも離れることなく、オドリグイに侍っていた。その彼らが、オドリグイから離れ、クルマ族の群れへと対峙する。
ぶつかり合った。
水の揺れはここまでは届かぬ。だが大きく揺れたであろう。そう思わせるぶつかり合いだった。
棘持つものどもは、ただそこにあり、ぶつかり合うだけで武具となる。そういう種族だ。その身にまとう棘は殻持つものどもの甲殻に劣らず硬く、寄るものを鋭く貫く。強大なクルマ族であろうとも、それは例外ではないだろう。
クルマ族の進撃が止まるのを、タコワサは目にした。だが。
止まった群れがさらに分かたれた。二頭。棘持つものどもの横を潜り抜け、必死で逃げるオドリグイたちに向かう。




