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其の玖拾漆 騎士会議

「まずは早めに話が終わりそうなキエモン達からだ。班の何人かは既に帰宅している為、キエモンとエルミスが纏めてくれ」


「御意。では率直に申そう」


 おそらく解決した……と思われる火の国の遠征結果を先に報告。

 既に概要は伝わっているが、改めて話そうと言う次第。故に拙者は説明した。

 火の国“フォーザ・ベアド・ブーク”にて騎士団長に匹敵する者達、“炎六団”が集まっていたのは祭事の為という事。そしてその国ではネクロマンサーと思しき存在が暗躍していたという事。

 拙者が見た限りの国内の様子も話、王に怪しい箇所が無い事も告げた。


「宝で装飾された死骸に祭典……聞く限りの性格だと火の国を疑っていたのは杞憂だったか」


「拙者もそう思うのだが、何となく解せん部分もある。本元のネクロマンサーとやらの全貌が掴めておらぬからな。他者を操る魔法もある故、念の為警戒はするに越した事も無かろう」


「そうだな。報告ご苦労だった。では今回の本題とも言える事……“変異種”についてだ」


 拙者らはあくまで調査とその報告。懸念があっても可能性の話にしかならぬ。

 その為、本題は実害も出ているファベル殿とリュゼ殿が対処した変異種とやら。


「ここからは僕が。季節の変わり目に吹く風のようにざっと情報を纏めておいたよ」


「「「…………」」」


 相変わらずリュゼ殿の例えば分かりにくいの。季節の移り変わり……その時に吹く風は次の季節を持ってくる。即ち新しい情報という意味で御座ろうか。

 ブランカ殿が居てくれれば円滑に進むのだがな。然し周りがそうしているように何となくのニュアンスだけで理解し、黙認するとしよう。


「僕達が相対した魔物は“ゴブリン”、“オーク”、“スライム”。まあ、新人の騎士や新米冒険者でも倒せるようなC級モンスターだ」


 先ずは基本となる知識から。

 拙者もこの数ヶ月で何度か戦った事もある。大した強さはなく、迷惑はするが一般の者達でも数人居れば一匹は片付けられる程度のもの

 さて、此処からだの。


「で、僕達が目の当たりにした力は普段とは全くの別物だったよ。基本的に小さな棍棒を武器にするゴブリンは大木を引き抜いて周囲を薙ぎ払っていたし、色んな意味で食用旺盛のオークは草木や他の動物。口に入る物はなんでも食べてた。粘着質なスライムは消化液から毒、水っぽい成分に鉄分と肉体の性質を変化させて周りの物全部丸飲みにしてた。その種族の長なら可能な範囲だけど、ボスよりも遥かに強かったね」


 変異種というだけあり、その力は常軌を逸していたとの事。

 だが、然し、フム。


「リュゼ殿。山河を吹き飛ばす結果になったと言っていたの。その程度では到底不可能に思えるが」


「良い質問だね。穏やかな春風くらい良い質問だ。今回の一番の部分はそこにある」


 春風のような質問とは。

 気にせぬ方が良いの。今の拙者の質問が肝となるのなれば静聴するに限る。


「ただ強いだけの魔物なら群れのボスとして、数は多くないけどそこそこ居る。僕達がそれを変異種と断定した理由は──その場で(・・・・)進化する(・・・・)という部分からだ」


「進化?」


 進化する。真価を発揮するなどとは違う意味だの。リュゼ殿の言葉に周りもざわめきが起こり、片手で制して更なる言葉を綴った。


「そう、進化。つまり成長。それ自体は別におかしくはないけど、その速度が異常に早い。僕達が最初に戦ったのは通常よりも力持ちなゴブリン。基本的に初歩的な風魔法の“風刃”で一撃だけど、それを受けて耐えたかと思ったら傷が癒え、持ち上げた大木に風の魔力を纏わせて振り回して来たんだ。つまり“風刃”への耐性を付け、学習してそれを扱えるようになったという事。知能の低いゴブリンとかは魔法を使う事が出来ない筈なのに見事にエレメントを顕現させられたよ」


 魔法への耐性と学習からの応用。確かに成長が早いの。

 リュゼ殿の実力は高い。“風刃”で森を更地にする事すら可能に御座ろう。それを受けて反撃に転ずるとは物の怪の強さを表していた。


「それでまあ、何回か仕掛けて耐性を付ける種類って理解したからそれなりの魔法で粉微塵にしたんだ。貴重なサンプルとして生かしたまま、もしくは肉体くらいは残したかったけど、とてもそれが出来る状況じゃなかったんだ。それはオークとスライムも同等。かなり強かった」


 となるとオークとスライムも耐性と学習を身に付けているようだの。

 それ程までの相手なれば更地になるもむ無し。何度か攻撃を加える事となったのは捕獲の為だったので御座ろう。


「それでそんな魔物達が森の国と星の国の国境に現れた以上、この近隣に来る可能性もあるって訳だ。今度からクエストを受ける時は気を付けた方が良いかもね。勿論敢えてそれを受けてみる手もあるけど、見た目は通常種と変わらないから報酬は通常種並み。割には合わないかもね」


 それらについての注意喚起。拙者は割に合わぬ任務も進んで受けるが、他の者達がそう言う訳でもなかろう。

 ファベル殿とリュゼ殿が苦戦した相手。他の騎士や冒険者では最悪の場合命を落とす結果になるかもしれぬ。警戒は重要に御座る。


「だからまあ、念の為に気を付けてって注意書きを依頼書に記した方が良いね。ま、もうその手筈は終わらせてるから君達が手を煩わせる事もないよ。僕の方で残りを進めておく」


 仕事が早いの。既に懸念への対処は終えているとの事。

 元々あまり人気の無かったC級任務が明日から更に減るの。と言うてもまだゴブリン、オーク、スライム等の任務を受ける者が減るだけであろうが。

 拙者は変わらず人気がなく誰も受けぬ任務をこなして日銭を稼ぐとしよう。


「以上だな。火の国は一時的に保留。C級の魔物全般に注意を払う。これらを他の騎士団員にも伝えておいてくれ。それ以外はいつも通りだ。では、解散!」


「「「はい!」」」


 皆の疲労も踏まえ、話自体はあっさりと終わった。

 後は自由行動。見張りの者は持ち場へと付く必要もあるが、基本的に各々(おのおの)で過ごせば良かろう。

 それから騎士達で湯浴みして疲れを取り、次第に今日が暮れて行く。

 さて、また明日から任務を受け、精進するとしようぞ。



*****



 ──“ギルド”。


「ウム、これは予想以上に皆警戒しているようだの」

「そうですね……普段は人気の無い調査や運搬などのクエストの方が受けられてます」


 翌日、任務を受ける為にギルドに寄った拙者の班は並ぶ依頼に目を通していた。

 C級の妖退治類は放置されており、別の任務の数が著しく減少しておる。

 それはそれで救われる者達が増えるので良いが、此処までだと偏り過ぎておる。一先ず目に付き、割に合わないと判断した任務依頼を受けた。


「承りました。“増えすぎたスライム退治”。“リザードマンの討伐”。“国境付近のオークの群れの討伐”の三つを受注しますね」


「ウム、頼んだ」


 受けたものは昨日の会議にも出てきたスライムとオークに加え、B級任務であるリザードマンの討伐。

 一番気になるのは態々(わざわざ)国境付近と書かれているオークよの。まさに昨晩の報告そのままではなかろうか。


「エルミス殿ら。今日は近場だけではなくそれなりの距離を移動する事になりそうだ」


「これだけ魔物被害のクエストが残っているんですから仕方無いですよ。それに、ちょっとした遠出くらいなら問題ありません!」


「そうですわ。ほうきでの移動も出来ますし、思っているより距離は問題じゃありません事よ」


「空飛ぶの気持ちいいしな!」


 複数の任務。それをこなすには何度かの移動が必要となるが、どうやら問題は無い様子。お三方にはほうきがあり、拙者も足がある。

 然し、空か。


「それは良かった。だが拙者も鳥のように空を飛んでみたいものよ。似たような景色は自身の足でも見れるが、また違うのだろう」


「……!」


 空を舞うという行為。天女の羽衣などが無ければ本来は行けぬ場所。そこから見える景色が如何様な物なのか、叶うなら一目見てみたいの。

 それにつき、エルミス殿が前に出てきた。


「そ、それならキエモンさん……その……一緒に行きませんか?」

「む? エルミス殿と? 迷惑では御座らんかの」

「い、いえ、そんな事ありませんよ!」


 彼女からの提案。だが口ではこう言っても迷惑だと思うがの。やはり此処は断っておくか。

 思うに、叶う願いの数は限られているで御座ろう。拙者の望みは天下泰平の世。こんな事で叶えられる願いの数を一つ減らしてはいかん。

 その様な事を思案していると、ブランカ殿とペトラ殿が隣に来て話した。


「良いんじゃないですの? エルミスさんもこう言っていらっしゃるのですから」


「そうそう。キエモンさんって基本的に他人優先で自分の望む事はしてないし、ここはお言葉に甘えよーぜ!」


「然しだな。もしそれが叶ってしまっては今後叶えたい願いが叶い難くなる気がするのだ」


「ハハ、なんだよそれ。ま、運にも波があるとかよく言われてるしな。んじゃ、願いじゃないって思えば良いんじゃないか? 願いは自分の力で叶えるモノだけど、頼み事って思えば願いの定義には当てはまらないかも!」


「フム、気の持ちようか。面白い。ではお言葉に甘えるとしよう」


 ペトラ殿の言葉には一理ある。

 例えばの話。王国に仕えたいと思う者も少なくないが、拙者がこの国に仕えているのは何も願いを叶えたからではない。偶々(たまたま)ヴェネレ殿に拾われ、偶々主君に救われただけ。完全なる偶然。

 即ち願い事や望みとは違く、拙者の叶えたい未来とも異なる。元よりこの世界に来た拙者は最初に会ったものに殺されるつもりだったのだからの。言うなればそれが一つの願いに御座った。

 話の受け取り方次第では望みもまた変わるという事よ。


「では、お気を付けて下さいませ」


 受付の女性が頭を下げ、外に出た拙者らは早速箒へと乗った。

 座ると言う形ではエルミス殿に触れる結果となってしまう。嫁入り前の娘が他の男に必要以上に接触されるのはあまりよろしくない。故に拙者は立ち、重心を整えて行く。


「ほう、此れが空を舞うと言う行為。受ける風が気持ち良いの。風を切って走るのともまた違う」


「ふふ、それは良かったです。キエモンさん」


 風を正面に受け、進み行く。心地好いものだ。

 エルミス殿も拙者の体を魔力にて固定して手伝ってくれている。それがなければ魔法の使えぬ拙者は箒の上で足踏みし続けなければならぬからな。かなり助かる。


「だが、エルミス殿も鍛練を怠っていないのだの。前までは二人乗りなど到底出来なかった筈だが」


「はい。最近は魔力の操作も上手くなってきたんですよ! 炎魔法と土魔法も初級ならいくつか使えるようになりました!」


 エルミス殿の成長は著しいもので、日々進歩している。

 あれ程の回復術を使えるのだ。他の魔法が使えなかったのが変だったくらいよ。拙者としても我が娘を見守るような感覚になるの。と言うても年齢は然程離れて御座らんか。


「近隣の沼地が見えてきたの。先ずはスライムの数を減らす。そして次は逆方向にあるリザードマンの討伐。最後にそこから真っ直ぐ国境に向かい、オークの殲滅だの」


「はい。頑張りましょう!」

「腕が鳴りますわ!」

「ちょちょいのちょいと片付けてやんよ!」


 沼地が下に見え、拙者はその場から飛び降りる。無論、魔力の拘束は解いて貰った。

 エルミス殿らも旋回するように回り込み、拙者ら四人は沼地へと入る。

 さて、これから連続討伐任務の時間よ。

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