表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/280

其の捌拾玖 王位継承

 ──“翌日”。


 内乱から数時間が経過し、遺体の埋葬や国民への情報散布。その他諸々の作業に現在取り掛かっていた。

 拙者の提供した情報の元、次の火種となりうる国を割り出す。候補としては西方の“海の島”を除いた三方を囲む三つの国家が挙がる。


「考えられる線は

──南方にある火の国、“フォーザ・ベアド・ブーク”。

──東方にある森の国、“フォレス・サルトゥーヤ”。

──北方にある星の国、“スター・セイズ・ルーン”。

……この三つ。火の国は全体的に気性の荒い者が多く、可能性が一番高いな。森の国は穏やかな者達が住んでおり、争い事は好まない。そして星の国は全貌が不明。他国との交流もなく、独自の文化を発展させているらしい」


 基本的な進行役はファベル殿。一番纏める事に適しており、話も分かりやすい。この場には全騎士団長が揃っているが、基本的にはファベル殿へとお任せしている。


「フム……これまた難儀な名よ。“ほーざべあどぶーく”に“ほれすさるとうや”。そして“すたあせいずるうん”か。言いにくいが、しかと覚えねばならぬな。隣国故、縁があるやも知れぬ」


「ウム、それはそうだな。一応この“シャラン・トリュ・ウェーテ”と争っている訳ではない。今現在の時点ではな。だが可能性があるとすればこれらだろう」


 候補の三国は以上の通り。

 名で覚えるのも大変故、火の国。森の国。星の国と異名で覚えるのも良かろう。

 然し、火の国か。何となく聞き覚えのあるものよ。


「偶然だが、拙者の国にも火の国を謳われる場所があった」


「ほう? キエモンの故郷にか。なんとなく興味なあるな。念の為に聞かせてくれ」


「ウム。火国とは肥後と言う国の名であり、暗闇を照らす火の事を示しておる。詳しく話せば長くなり申すが、おそらく此処に置いての火の国と火国は違うだろう」


「そうか。国が違えど同じ名を持つ場所がある。これもまた不思議な因果だ」


 話を戻す。

 可能性が高いと言うはその火の国。この世界のように表すのならば、炎魔法が盛んなのやも知れぬの。

 森の国は除外してもいいとし、不明である星の国が最も怪しく思える。


「拙者としては星の国が気になるの。全貌が分からぬのもそうだが、“星”と言う部分が気になり申す」


「それは我らも同じよ。国を奪還し終えた今、一番の目的は“月の国”。どうにも“星の国”と関係があるように思えて仕方無い。だが閉ざされた国だからこそ遠征にも出せない。困ったものだ」


 星と月。年端も行かぬ子供でも関係があると分かりそうなそれら。

 何らかの情報はほぼ確実にあるのだろうが、入れぬならば仕方無いの。私情で国の秩序を乱す訳にもいかぬ。


「まあ取り敢えず、これらの国について磐石の体制で挑まなきゃならないね。“シャラン・トリュ・ウェーテ”程じゃないけどそれなりに発展している。今回は国自体を乗っ取った侯爵が暗殺されたけど、ヴェネレ様も狙われる可能性は高い。本格的な宣戦布告は既に始まっているという事だ」


「そうだな。エスパシオ。お前の力、頼りにしているぞ」


「分かっているよ。ファベル君。一時的にヴェネレ様を裏切り、敵側に付いたんだ。贖罪としてちゃんとお姫様を護るよ」


 此方としても侯爵一派との和解は早かった。

 不本意ではあるが、他国の者によって侯爵が暗殺された事が結果的に結束を固める事に繋がったので御座ろう。

 国は万全ではないにせよ、戦力など八割方戻りつつある。

 拙者は隣に居るヴェネレ殿へと話し掛ける。


「……して、ヴェネレ殿。今現在この様な状況であるが、誠に行うのか?」


「うん。こんな状況だからこそ私が前に出て国民達に話さなくちゃ。先の道を示すのが私の役目だから……!」


「なれば止めぬ。護衛の程は任せておれ。昨日の今日であってもエルミス殿のお陰で疲労は取れた。何者からもヴェネレ殿を御護り致し候」


「ありがと。キエモン!」


 他国についての情報は纏めるが、それはそれとしてヴェネレ殿の正式な王位継承も今日日きょうび行う予定にある。

 危険は本人も承知の上。故に拙者へ止める権利はなく、止めるつもりも御座らん。ヴェネレ殿の望むままに。


「では、会議は此方で行う。少人数で事足りるだろう。ヴェネレ様とキエモン。その他の者達は国民へ新たな“シャラン・トリュ・ウェーテ”としての在り方を伝えてやってくれ」


「相分かった。では、参ろうぞ。ヴェネレ殿。主の国、王位の継承を」

「うん、キエモン」


 会議室を発ち、ファベル殿と何人かを残して城のバルコニーへと向かう。

 既に他の騎士達が国民を集め、準備は終えている。

 ヴェネレ殿と拙者。その他の騎士達は此処を後にした。



*****



 ──“城、外門付近”。


 会議室を出た拙者らは待機する。彼女の人望もあり、外では人々が今か今かと待ちわびている。

 当のヴェネレ殿は何度も深呼吸をし、少し震えていた。


「うぅ……緊張してきた……私、本当に新しい王様なんて出来るかな……いや、王女様? 女王……は既婚者じゃないから名乗れないし……キエモンが言っていた、ヴェネレ御前……! あぁ! なんにしても私に務まるの~!?」

「何を今更。ヴェネレ殿なれば全てに置いて問題無かろう。胸を張り、自信を持て」

「全てに置いてって……私、そんなに優れた存在じゃないよ……」

「拙者からすればヴェネレ殿はそう言ったお方だ。己を信じよ」

「う、うん、頑張る……!」


 グッと小さく拳を握り、力を込める。

 聞こえる声は歓声。皆がヴェネレ殿を歓迎している事の証明。

 気負う事もない。もっと気楽に肩の力を抜いて取り組めば望む答えが返ってこよう。


「時間に御座る。健闘を祈る」

「うん! ……って、戦う訳じゃないよ。まあ、ある意味では闘いみたいなものだけど、頑張る!」


 時間が来、拙者も位置に付く。

 全方位の見張りを拙者や騎士達が担い、万全を期する。ヴェネレ殿はバルコニーへと立つ。それによって更に沸き上がる全体。

 不安そうな表情は変わらぬが、民達へそれは見せず凛とした面持ちになった。

拡声とやらの魔法を使い、その麗しき声が国中に届く。


《──皆様。私はシュトラール=ヴェネレ。この国の次期王位を受け継ぐ、皇女です》


 ワーワーと、名乗ると同時に周囲から更なる声が上がる。

 それは歓喜、悲しみ。二つの感情からなるもの。

 歓喜はヴェネレ殿の王位継承へ。悲しみは嘗ての主君の死がより鮮明になった事へ。

 然れど皆が皆、ヴェネレ殿へと期待をしており、受け入れている。これもまたヴェネレ殿の普段の行いが成せる技だろう。


《私の父にしてかつての王は数日前、病にて亡くなりました。しかし、その後は私が受け継ぎ、この国を未来永劫、支えて行く次第です!》


 王の死。それについて話す時、少し声が震えたの。ヴェネレ殿にしてみれば死に目に会えず、未だに実感は湧かぬだろう。

 だが死した現実は何者にも変えられない。死者が生き返るのならばそれには怨念が宿り、他者へ害を成す事になるのだから。あの主君はその様な事しなかろう。


《そして、非常に不本意ながら王の葬式に私が参列しなかったのは──》


 その後、ヴェネレ殿は国民達が疑問に思うているであろう事を話す。

 何故連絡が付かなかったのか。何故侯爵があの様な行動に出たのか。

 王の死期をいち早く感じ取った侯爵は手を回し、ヴェネレ殿を引き離す名目で遠征へと推薦した事。故に死に際に駆け付ける事が叶わなかった事。それに加え、元より侯爵は国を乗っ取るつもりでいた事。そして他国の者に暗殺された事。


《だけど、彼には彼なりの考えがあったのでしょう。まだ20にもなっていない私に国を任せるのは様々な懸念が生じます。けれど私は──》


 だがそこは流石の手腕。侯爵を完全なる悪とは断定せず、自分に足りぬものが多いからこその謀反むほんと告げる。

 本来なれば全ての責任を死者に押し付け、憂いなく王位に付くのが基本的なやり方。勝てば官軍。負ければ賊軍。どの国でも同じようなものよ。

 全てを尊重するヴェネレ殿だからこそ侯爵の顔も立てておる。まさに王の器。その人柄に拙者が惚れ込んだだけはある。


《──私が新たなる王として不足の無い様志し、確かな国を成す事をここに誓います!》


「「「ヴェネレ様ー!」」」


 その後、数十分程にてヴェネレ殿の王位継承の全てが終わった。

 意思や新たなる国の在り方。それを終えたヴェネレ殿へ更に大きな歓声が上がる。人望も変わらず健在。暗殺者なども現れず、無事成功を収めた。


 それからヴェネレ殿が参列する王の国葬を終える。元より終わっているのだが、改めて実行したのだ。

 そして埋葬されている墓に寄り、改める。そこには白い石へ王の名と美しき花が備えられていた。

 フム、拙者の国の墓地ともまた違う造りよの。この中にあの豪快であり、人柄も良く拙者を受け入れてくれた主君が眠られている。


「今までお世話になり申した。王よ。拙者は主君の後を継ぐヴェネレ殿をしかと支え、御護り致しまする。ゆっくりとお休みくだされ」


「キエモン……」


 キンッと、鍔に当てて誓いを立てる。椀に酒を注ぎ、墓の横へと置いて手を合わせた。

 先程まで凛々しい面持ちであったヴェネレ殿の目には美しき雫が溜まっており、頬を伝うように落ちる。

 拙者の意思は変わらぬ。これからまた戦になるやも知れぬ現状、彼女を御護りする事が拙者の努め。武士に二言はない。


「お疲れ様でした。お父様。貴方が築いた国の平和は私が守って行きます……!」


 花を添え、ヴェネレ殿も手を合わせる。

 弔いに置いて手を合わせると言う行為。それはこの国でも同じようで御座るな。

 立ち上がり、ヴェネレ殿は空を見上げて目に溜まった雫を拭い取った。


「ここまで同行してくれてありがとう。キエモン。街のみんなには悪いから私だけで来ちゃったけど、キエモンが来てくれてなんだか安心する」


「そうか。それは喜ばしい事よ。護衛も兼ねている故、厳密に言えば拙者一人では御座らんがの」


「アハハ……それもそうだね」


 ヴェネレ殿が苦笑を浮かべ、周りに身を潜め護衛している騎士達を横目で見る。

 その笑顔と共に太陽を隠していた雲が晴れ、彼女を中心に円が広がるよう日光が射し込んだ。


「御天道様もヴェネレ殿を祝福しておられる」

「偶然だよ。きっとね♪」


 今日は泰平日本晴れ。然れど不穏な影は去る事を知らず、今も尚ヴェネレ殿を狙っておろう。

 だが拙者は護り抜く所存。今はこの平穏な一時を楽しみ、噛み締めるとしようぞ。


 拙者とヴェネレ殿。そして“シャラン・トリュ・ウェーテ”の人々。その結束は高まり、より洗礼される。まさに向かうところ敵無し、何者であろうとお相手致す。

 だが今はまだ、束の間の平和を皆で過ごすのであった。

 めでたし、めでたし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ