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其の漆 問題解決

「赤き焔。その火球にて敵を討て! “ファイアバレット”!」

「新緑の風よ。敵を吹き飛ばす! “ウィンドバレット”!」


『ガァ!』


 拙者が着くや否や、妖術をもちいた兵士らが鬼を相手取っていた。

 兵の数は男女で合わせて二人。鬼は一体。火と風にて食らった鬼もただでは倒れず、その大きな体躯で二人の兵を押し潰さんとしている。

 鬼の武器は木の棍棒。金棒や刀では無い様子。されば余裕を以て打ち倒せそうだ。


『ウガァ!』

「離れろ!」

「……っ」


 妖術が掻き消され、棍棒が振るわれる。

 騎士達は飛び退くように離れ、地面が割れて砂塵を巻き起こした。


「なんつー馬鹿力……!」

「一撃でも受けたら即死だな……!」

「増援はまだか!?」

「私達二人だけでは苦労しかしないな……」


『ウオオォォォ!』

「「……っ」」


 二人の兵が話す間、巨体からは似付かぬ瞬発力で踏み出し、騎士達を棍棒が──。


「危のう御座る。騎士達よ」

「「……!」」


 ──迫った矢先、拙者が駆け付け騎士達を押し出し、鬼の棍棒を掌で逸らすようにいなした。

 そのまま二人の騎士は救い出し、近くに置いてあった農具を拝借。鬼へと向き直る。


「貴殿らは逃げ遅れた民を連れて下がってくだされ。ここは拙者に任されよ。鬼との戦いには慣れている」


「き、君は……」

「ほら、少し前にヴェネレ様が連れてきた浮浪者ですよ」

「成る程……伝達で国の正式な騎士となったと報告のあった……」


 どうやら拙者の事は存じている様子。

 それならば話は早い。戦闘の許可も貰っておろう。心置き無く戦える。


「オイ! 他の増援は!?」

「城にて呼び掛けておる。直にやって来よう。今は先に駆け付けた拙者だけだ」

「なんだと!? 一人の増援は不安しかないが、戦闘の方は大丈夫か!?」

「問題無い。拙者、前に居た国にてそれなりの鍛練を積んでいる」

「そうか。しかし、住人の避難は一人だけで良いだろう。私も力を貸す」

「相分かった」


「では、俺が住人達は避難させておきます。スピードには自信があるんでね!」


 迅速な対応にて女子おなごの兵が残り、男の兵は民らの避難を優先とする。

 拙者の国では女子供は戦線に出ないのだが、魔法という名の妖術を基本としたこの国。性別に関係無く、優れているのならば戦に赴くのだろう。


「こんな事を言っている暇は無いと思うが、大きな相手には意志疎通が不可欠だ。名を教えてくれ」


「拙者、天神鬼右衛門と申す。主は?」

「フォーコ=マルテだ。よろしく」

「ウム、よろしく頼み申し候」

「変わった言葉遣いだ」

「拙者からすれば主もそうであるぞ。マルテ殿」


 女子おなごの兵。名をフォーコ=マルテ。

 シュトラール=ヴェネレ殿よりは呼びやすい名であるな。

 赤い髪に赤いつり気味の眼が特徴的だ。

 現れた拙者を前に、鬼はまだ動かない。それを機と考えたのか、マルテ殿は拙者に訊ねた。


「私も向こうも様子見の途中……今のうちに確認しておきたい。私は主に火と土を使うが、キエモンが得意な魔法は?」


「拙者、妖術は使えぬ。故にこの農具をもちいて相対しよう」


「え!? あ……な!? よ、妖術って魔法の事だな!? ま、魔法が使えないのか!?」


「ウム。問題無い」

「大アリだ! そもそも……」

『グオギャア!』

「「……!」」


 マルテ殿が話そうとした刹那、鬼が地面を踏み蹴り、拙者らの眼前に迫って棍棒を振り下ろした。

 拙者とマルテ殿は避け、鬼へと改めて向き合う。


「今は話している暇じゃないか……」

「その様であるな」

「……(魔法を使えないのにこの国の騎士に……護るべき対象が一つ増えただけだな……しかし、騎士として必ず護り抜く……!)」

「……?」


 マルテ殿が何を考えているかは存ぜぬが、会話の余裕は無いようだ。

 仕掛けて来たのならば鬼が臨戦態勢となった証。刀ではなく農具故、拙者も気を引き締めて置こう。


『ゴガァ!』

「フム、これで受けるのは得策では御座らんな」


 棍棒を振り回し、農具では砕けると判断し、紙一重にてかわす。

 刹那に背後から火球が撃ち出された。


「彼を囮や陽動のように使うのは気が引けるが……攻撃のチャンスは潰さない……!」


『グゥゥ……』


 マルテ殿の火球。直撃したが、鬼は構わず続行。

 火を受けても攻撃を止めぬ様。何処の国でも鬼は頑丈であるな。


『グガァ!』

「…………」


 一撃を見切る。がら空きの胴へ農具を打ち込み、鬼は怯みを見せたがそのまま打撃による刺突を繰り出した。

 拙者はそれを見やって跳躍し、棍棒の上を駆け農具で顎をかち上げた。

 そのまま鼻先へ突き刺し、勢いよく仰け反らせる。


『グゥ……』

「体勢が崩れては動きにくかろう」

『……!』


 傷は浅い。今は武器か増援が来るまで時間を稼ぐのが得策。故に着地と同時に身を翻し、膝の裏へ農具を叩き付けてその身体を転ばせた。

 その上からマルテ殿がけしかける。


「赤き火球よ。数多に分かれ、対象を焼き払う! “火炎連弾”!」


『…………!』


 降り注ぐ火の雨。その全てが鬼を撃ち、一つの火柱となって熱気を散らした。

 先の炎妖術を扱うカーイ殿のよりも洗礼された術。マルテ殿はかなりの強者つわもので御座るな。

 鬼は暫し震えて止まり、シンと静まり返った。


「フム、武器が来るよりも前に終わってしまったか。ならばそれで良し。犠牲が出ず一件落着よ」


「キエモン。君は一体……どこで身に付けたんだ? その身体能力は……」


「……? 故郷の国で御座る。拙者の国に妖術使いは少ないが、その代わりかは定かではないが侍と云われる兵が居る。拙者もそのうちの一人だ」


「サムライ……良い響きだな。そうか、サムライか。今の時代、魔法の使えない者は居ないと思っていたが、世界はまだまだ広いな。君のような戦士が居るとは」


 トドメも含め、マルテ殿の成果であるが拙者の動きに関心を抱いていた。

 拙者は攻撃を見切ってかわしただけ。拙者の国ではよわい十二の頃から戦に駆り出されるからの。

 この様に、時折妖が現れる以外は平穏なこの国では拙者のような動きをする者が少ないのだろう。

 しかしヴェネレ殿曰く戦争はあるとの事。妖術にて遠方から仕掛ける為に自身の身体はあまり鍛えられぬのだろう。


「オイ! あそこだ!」

「いや、もう倒されているぞ!?」

「なんだって? 一体誰が……」

「あ! マルテさんだ! マルテさんがやったみたい!」

「成る程。マルテさんなら或いは……いや、その疑惑が確信に至っているのが今の状況か」

「ああ、流石のマルテさんだ」


 遅れ、増援が姿を見せた。

 しかしあの者達も理解しているよう、マルテ殿が全てを終わらせた。

 拙者の出る幕ではなかろう。


「おやお前は……新しく騎士となった者か。話は聞いている。まだ証は持っていないようだがな」

「アンタもこの場で戦闘を?」

「ウム。しかし、マルテ殿が殆ど終わらせた。故に、拙者は特に何もしておらぬ」

「成る程。まあそりゃそうだよね。入って早々オーガが相手なのは運が悪かったけど、マルテさんが居てくれて良かったね」

「ああ。マルテ殿様々だ」


「え? いやキエモン。待ってくれ。今回はどちらかと言えば君のお陰で助かったのだが……むしろ君を侮っていた私が……」

「流石のマルテさん!」

「凄いぜマルテ!」

「やるじゃないか!」

「いや、私は……」


 拙者は事実を述べたまで。故に必要の無い弁明をしようとしたマルテ殿だが、あっという間に取り囲まれ、その声は掻き消された。

 さて、拙者はまだ騎士登録とやらの最中であったな。厳密に言えばまだ騎士ではない。早くヴェネレ殿の元へ戻るとしよう。


「待ってくれキエモン!」

「では、御免」

「え!? なぜ謝罪を!? ちょ、ちょっと……!」


 名を呼ばれるが、会釈のみして下がる。

 今回の第一人者はマルテ殿。事実、拙者は農具で鬼を小突いたに過ぎない。

 それを近くの家に返し、ヴェネレ殿の元へと戻った。

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