其の漆拾肆 捜索
「では、各々でこの場所を目指す事に決定だの」
「そうだね。ヴェネレ様とセレーネちゃんはミルちゃんと教会で待機。私達でファベっち探し。こんなところかな」
「敵も多い。組み合わせはこの様な感じで良かろう」
話し合いを進め、先ずはファベル殿ら騎士仲間達を探す事に決定した。
元よりその方向で話を進めており、ある程度は絞り込めたので行動を開始するのだ。
組み合わせは拙者とフォティア殿が単独行動。マルテ殿とエルミス殿が二人一組にて行動。大きく分けて三方向。なので釣り合いは取れていないがこの組み合わせとなった。
「私も動けるよ……!」
「ヴェネレ殿は今現在、我らの将軍だ。取られては拙者らの敗北が確定する。故に拠点で待機。此処ならば見つかりにくく、逃げ場も作れよう」
「そうそう。ヴェネレ様はお疲れだし、ドンと構えてなよ。貴女様の部下を信じて!」
「キエモン……フォティアさん……」
「待機もまた戦いよ。ヴェネレ殿」
「……うん……!」
ただ待つだけと言うのが性に合わぬヴェネレ殿だが、待ってくれなければ拙者らの勝率が下がる。彼女は国の最後の希望なのだ。
決して無理はせず、待つ事も大事と告げ、本人も納得してくれた。
「では、早速参ろう。ファベル殿らも機会は窺っている筈。そこまで遠くは行っていないやも知れぬ」
「そうだね。生死不明と言っていたけど、生きてさえいれば味方になるのは確実。早いところ見つけて、国を奪還しよう!」
「はい!」
「ああ!」
「ウム」
発破を掛けるフォティア殿。
こう言った所も騎士団長らしく、他者を纏め上げる力があるの。
各々で分かれ、拙者らは教会を後にした。
*****
「フム、この辺りに御座るな」
少し経て、拙者は森の方へと来ていた。
“シャラン・トリュ・ウェーテ”近くの場所ではなく、また少し離れた所。領地的に言えば隣国に近いやも知れぬの。
仮にファベル殿らが居るとして、多人数で固まっていたとしてもこの広い場所から見つけ出すのは厄介に御座ろう。
「さて、彼らは何処に……」
集中し、気配を探る。
特定の者を見抜けずとも複数の気配さえあればそこに居るのはほぼ確定。即ち見つけ出せるという事。
然し問題もあり、多人数が必ずしも味方とは限らん。侯爵一派もファベル殿らを探している可能性があるからの。気配を見つけてもすぐには飛び出さず、状況を確認した上で移るとしよう。
「……。向こうか」
そして、近場にて複数の気配を確認。
誰かは分からぬが決して少なくない数。さて、鬼が出るか蛇が出るか……人間が出るか。見てみなくては分からん。
なるべく音を立てぬよう気を付け、軽く踏み込み木を蹴って気配の方へと向かった。
「オイ、状況はどうだ?」
「ああ。狙い通り内輪揉めで既に内部分裂してる。攻め立てるなら近いうちだな」
「……。フム……」
木の上に乗り、葉へ隠れてその者達を確認。
会話の内容からするにファベル殿らでも侯爵一派の騎士でもなく、隣国の兵士のようだ。そして穏やかな会話でも御座らんの。攻め立てる……か。
何処の事を言っているのかは分からぬが、内輪揉めの時点で大凡の予想は付く。主君が居なくなれば土地や権力、人間。その他諸々を欲する者が出てくるのは必然。それが内乱状態であれば尚更だろう。この機を逃す方が勿体無い。
(このまま此処に居ても詳しい話は聞けなさそうだな。人数は二人。捕らえて連れ帰り、詳細を窺うも良し。だが、今はそれをしている暇もない。変に刺激して“シャラン・トリュ・ウェーテ”を戦場に変える訳にもいかなかろう。侯爵一派と敵国の兵士共を戦わせるか? 然し、事態を先伸ばしにするだけに御座るな)
様子を見、思案する。
潰し合わせるのも一つの手だが、攻め込められる可能性は高まる。少なくとも敵が勝利する可能性がある以上、一度内乱を終わらせてから改めて受けた方が良いだろう。
拙者らヴェネレ殿一派が勝利するのは決定事項。拙者が自らそう決めた。故に戦力を整え、迎え撃つ形が理想だの。敵も直ぐには攻めて来るまい。
(一先ず保留。報告だけし、今はファベル殿らの捜索を急ぐか)
これからどうするか。直ぐに決めた。
悩んでいる暇もない。仮に内乱と敵国からの侵略活動が同時に行われた場合、拙者が敵を全てを斬り伏せれば良いのでそちらの方が勝率は高まろう。
勝手に潰し合わせ、町の方に侵攻されては元も子もない。拙者が動けるうちに片を付けなくてはな。
(……。南西に複数の気配……今度こそ味方であると良いな)
再び集中して気配を探り、人を見つけた。
音を立てぬよう忍び足で木から跳び、迅速に移るようその場を離れる。なるべく音は立てておらぬが、はてさて大丈夫で御座ろうか。
「ん?」
「どうした?」
「いや、遠くで鳥か何かが飛んだみたいだ。ちょっとした小さな物音が遠方から聞こえた気がした」
「まあ、森の中だしな。おかしくはない」
既にあの場に拙者はおらぬ。故に彼奴等があの後に如何様な反応を示した分からぬが、例え気付かれても誰も居なければ問題無かろう。
物の数分で拙者は南西へと到達した。
「……。居ないか?」
「今日も異常無しだ」
「ったく。なんで俺達がコソコソしなきゃならねえんだよ」
また少し離れた場所の木にて人を確認。あれは見覚えがあるの。初日に立ち合ったカーイ殿、マーヌ殿、セーダ殿らに御座る。
彼らがどちら側かを確かめる。見たところ周囲への警戒は何かから逃れるように思えるの。会話は遠くて聞こえぬが、挙動不審。即ち逃避行の最中と見て良さそうだ。
そう考え、拙者は木から飛び降りた。
「誰だ!?」
「拙者だ」
「テメェはサムライとか言うキエモン……!」
「サムライとキエモンが逆じゃね? けど、あの時以来だな」
「遠目からは互いにちょくちょく映ってたがな」
どうやら拙者の事は覚えていた様子。
さて、それなら良し。後は話を聞くだけだ。
「単刀直入に申す。主ら三人、どちら側に御座るか?」
「それはこっちのセリフだな。テメェはヴェネレ様と共に遠征に行っていた筈。何日か連絡も何もなかったが、どこで何をしていた?」
互いに互いを警戒し、探り合いが始まる。
そうは言われても難しいところよの。まだ敵か味方か分からぬ以上、変に答える事は出来ぬ。向こうも考えは同じようだ。
「拙者は“海の島”にてヴェネレ殿らと共に情報を集めていた。そして今日帰って来、町を追われたばかりの身に御座る」
「「「…………」」」
相手は無言。面識のある者達だが、もし敵であれば容赦無く切り捨てる気概はある。覚悟は彼方も同等で御座ろう。
後は向こうがどう返すか。それが問題よ。
「俺達は元よりヴェネレ様一派だ。現在はファベルさんを筆頭に革命軍……義勇軍? ……的な立ち位置に数日前からなっている」
「ああ。厳密に言えば侯爵はまだ正式な王じゃないが、向こうはもうその気だからな。強ち間違ってねえだろ」
彼らの言い分には一理ある。そしてどうやら味方の様子。
だがそれが嘘である可能性を考慮し、拙者は続けるように話す。
「ならばファベル殿の元へと案内してくれ。出来るであろう?」
「んじゃ、お前もヴェネレ様の居場所を吐け。ファベルさんはまだ完全に傷が癒えてないからな。敵の可能性が少しでもあるのなら明かす訳にはいかない」
「主と同意見よ。主らが敵である可能性を思い、現在の主であらせられるヴェネレ殿の元へはそう簡単に行かせる訳にもいかず、会わせられる事もなかろう」
「そうだな。お互いに信用出来なきゃ敵対するだけだ」
互いに会わせられない理由あり。敵か味方か不確かな為、そう上手くもやれないように御座る。
一番の証明はファベル殿とヴェネレ殿に会わせる事であるが、前述したような現状、牴牾しいモノよ。
「とどのつまり、今現在の拙者らと主らに敵対する理由はあれど、協力する理由は無いという事だ」
「そうだな。ヴェネレ様とファベルさん。どちらかがこの場に現れて証明出来なければ、仮にお前がこちら側だったとしても戦わなくちゃならねえ」
「そう言うことに御座るの。難儀なものよ」
三人が杖を構え、拙者も刀を構える。
既に臨戦態勢に入っている。さて、後は如何様な対応に出るべきか。
呼吸が早まり、拙者と三人は一歩踏み込んだ。
「居たぞ! ファベル一派とヴェネレの護衛だ!」
「掛かれェ!」
「「「オオオォォォォッ!」」」
「どうやら決まったようだの」
「チッ、あん時の鬱憤と雪辱と怨みをを晴らせると思ったんだけどな」
「拙者を憎み過ぎよ」
「互いに狙われている。つまりキエモンもこちら側か」
「じゃあさっさと終わらせてやる!」
現れたのは侯爵一派。それがこの三人と拙者を狙っている時点で互いの無実は証明された。
感じた気配は何も三つだけではないからな。複数の気配を感じて拙者は此処へ来たのだ。
そんな複数人に取り囲まれ戦況は、
「終わりに御座る」
「んなっ……俺が魔法を放つよりも前にコイツ……」
「相変わらずの力だが……味方なら頼もしいか」
「チッ……」
既に切り捨てた。
だが、情報を吐かせる為に生かしてある。
動こうとしていた三人は杖を降ろして攻撃を止め、打ち倒した騎士達を捕らえる。
「んで、ヴェネレ様は無事なのか?」
「ご無事に御座る。ファベル殿は?」
「当然無事だ。あんまり舐めんなよ」
お互いの無事を確認。ファベル殿も負傷はしただろうが、回復魔法があれば傷を負っても早めに完治する事が可能。
生きていると分かれば話も早い。
「では、先ずはファベル殿と合流をしよう。ヴェネレ殿は現在とある場所におり、皆を集めてから事を進める方向になっておる。確実に国を落とす為にの」
「そうかよ。ま、ヴェネレ様が捕らえられたら終わり。仕方ねえか」
「オイオイ、良いのかよ? 何より先にヴェネレ様の場所が優先じゃないのか?」
「そうだぜ。第一目標はヴェネレ様だ」
「考えてもみろ。コイツの言葉に乗るのは癪だが、どこに見張りや刺客が居るかも分からねえんだ。それに、コイツがここに居てファベルさんと会おうと考えてんならヴェネレ様は本当に無事なんだろ。そっちの方が得策だ」
「そーかよ」
「しゃーねー」
マーヌ殿とセーダ殿の二人は腑に落ちない様子。然しカーイ殿は渋々乍らも案に乗ってくれた。
拙者が教会へ行った時は敵の気配が無かった故に安全だったが、此処まで敵が来ていた事を思えば見張りの数は更に増えている事だろう。
なれば戦力を整えてから行動するそれに異論は無い様子。
「して、ファベル殿は何処に?」
「“裏側”だよ。つか、コイツらに聞かれてねえか?」
「意識は無い。周りに気配も無い。大丈夫であろう」
「そうか。んじゃ行くぞ」
ファベル殿の居場所は裏側。確かに彼処ならば町以外には隠れる場所も多く、行動もしやすかろう。
三人と合流した拙者はファベル殿の居場所を知り、そこへと向かい行く事とした。




