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其の伍拾玖 子供達の家

「それで、何か用?」

「ウム。これと言って大きな用事では無いのだが、主の住まいが気になっての」

「え……何ソレ……ストーカー?」

「“すとおかぁ”とな? 何かしらの役職か?」

「えーと……当事者の観点からして職業と言えば職業かもしれないけど……本当に何の用なの?」


 目的を告げたが、ミル殿の表情が逆に強張る。

 すとおかぁの意味は分からぬが、確かに自宅を探られたらこの様な表情になるのも頷ける。

 補足を加えるよう、ヴェネレ殿が話した。


「ミルちゃんがどこに住んでいるのか気になってね。ストーカーじゃないよ? そうだね……好奇心? まあそれはそれで迷惑だと思うけど、何か忙しそうだし何か力になれないかなってね」


「つまりお節介で来たって事。そんなの要らないよ」

「アハハ、やっぱりそんな感じだよね」


 その言葉に返され、ヴェネレ殿は苦笑を浮かべる。

 断られるのは予想の範疇。理由は前述したようにあまり素性を知られたく無さそうであるからだ。

 拙者はヴェネレ殿へ話す。


「致し方無し。なれば帰るとしよう。このまま居座ったとしても邪魔になってしまう事だろう」

「うん、しょうがないね。まあ、景色を見ながらキエモンと一緒に行けたのは楽しかったかな」


 諦めは良い。ヴェネレ殿は元より他人の迷惑になるような事はせぬお人ゆえ。

 帰ろうとした時、ミル殿は己の髪を指先で巻くように弄り、横目で見ながら話し掛けた。


「べ、別に来ないでとは言ってないよ。手伝いとかお節介とかが要らないだけで……」


 成る程。彼女は拙者らに苦労を掛けたくないように思うておるだけで、家に行く事自体は否定せなんだ。

 なればお言葉に甘えるのも良いかもしれぬ。


「そう? ありがと! じゃあお邪魔させて貰うね!」

「すまぬの。唐突に押し掛けてしまい」

「良いよ別に。家の仕事と魔法の修行くらいしかする事無いし……」


 小声で言い、許可が降りる。

 彼女とは敵対した仲に御座るが、通してくれるとなればまた少し距離が縮まったのかもしれぬな。

 拙者らは寂れた森を進み、ミル殿の家へと向かった。



*****



 ミル殿の案内の元、その家へと向かう道中、拙者は彼女へ気になった事を質問する。


「まことや(※そう言えば)、ミル殿。何故この森には他の動物がおらんのだ?」


「まことや? ……さあね。私自身が追い出したりもしてるけど、それ自体の頻度は少ない。少なくとも物心付いた時から他の動物達は居なかったかな。来るのはキエモン達が私を見つける切っ掛けになったマウンテンベアーとかのように、一つの縄張りで主になれるような存在だけ」


「成る程の」


 どうやら昔から動物は居なかったらしい。

 来るには来るが、いずれもB級以上のヌシ並みの存在だけ。面妖に御座るな。

 だが、何となく気配を感じる。かつて暴れた妖でも居たのか、この場には不思議な気配が漂っておる。

 警戒心の高き獣ならば容易には近付くまい。


「言われてみればそうに御座るな。至る所から何かを感じる。他者を寄せ付けぬような、そんな気配。かつてそう言ったモノの縄張りだったのかもしれん」


「……へえ、そう言う気配とか分かるんだ。意外でも無いかな。キエモンには底知れない感じがあるし。ヴェネレも?」


「私は気配とか分からないなぁ。魔力は関知出来るんだけどね。極限まで研ぎ澄ました上でほんのりと何かを感じるかどうかくらいかな」


 拙者の感じた気配に興味を示すミル殿。

 感じると言っても大きなモノでは御座らん。小さく、今にも消え入りそうなもの。

 過去に何かがおり、それの残り香によって獣が近寄らぬという事だけである。既にもう関係は無くなっている。


「ま、それがどうあってもそのお陰で魔物や動物に荒らされる事も無いから楽なんだけどね。ここがそんな私の家だよ」


「「……!」」


 話ながら進み、森を抜けて辿り着いたその場所。拓けた場所に古びた大きな建物が一つ。


「此処は……」

「教会。兼、孤児院。私……私達、親無しなの」


 ──教会。

 建物は大きいが、歪な修繕の痕や穴などが空いており、全体に行き渡っていない様子。おそらく直す為の金銭も無いのであろう。

 成る程の。ミル殿は孤児で御座ったか。それならば此処を離れられぬのも納得がいく。

 外に何人か遊んでいるわらべらがおるが、年齢的にはまだ幼いミル殿が最年長の様子。面倒を見る為に離れられぬのだろう。


「あ! ミルお姉ちゃん!」

「帰ってきたー!」

「知らない人が2人……」

「だれだれー?」

「お客さんー?」


 拙者らに、というよりはミル殿と拙者、ヴェネレ殿に気付いた童らが駆け寄る。

 特に警戒もしていない様子。ミル殿が居るからこそ解いているのだろう。


「ふふ、そうだよ。みんな。国のお姫様と騎士さんかな」

「「「へえー!」」」


「「…………」」


 子供らに向け、拙者らには向けなかった明るい口調と笑顔で話す。

 初対面の時はミル殿に子供らしさを感じたが、随分と印象が違う。此処では上の立場としてしっかりしているので御座ろう。


「子供達ばかり……神父さんやシスターは居ないの?」

「そうだね。だからこの子達の面倒は一番上の私が見てるの。騎士や冒険者になったら誰もこの子達を守れなくなる。だから私がやらなきゃ」

「そうだったんだ……」


 神父。拙者の国で言うところの住職は不在。本当に頼れる者が無く、ミル殿が一人でこの者達を護っている様子。

 何となくではあるが、拙者自身への既視感があるの。拙者も子供達や村を一人で護っていた。共に誓いを立てた仲間達は既に亡いからの。拙者もあの子達から離れる結果となり、少しばかり胸が痛む。


「お姫さま! キラキラしたお洋服とか着るの!?」

「きし! どんな魔法使えるの!? ミルお姉ちゃんより強い!?」

「ねえねえ!」


「わわわっ……!」

「ウム。どの国でも子供は元気よの。それは何よりだ」


 姫君に騎士。憧れの立場である為、あっという間に拙者らは子供達に取り囲まれた。

 拙者の国もこの世界でも、子供の笑えぬ所もあるだろうからの。笑えておるならそれに越した事は御座らん。


「アハハ、うん。キラキラしたドレスは着るよ。だけど残念、今日はプライベートだから普段着なんだ」

「そうなんだ……」

「ああっ、ガッカリしないで。今度は着てくるから!」

「ホント!?」

「ホントホント! 私ウソ吐かない!」


「拙者、魔法は使えぬ。己の身一つで騎士としての務めを果たしておる」

「魔法が使えないの!? そんな人初めて見た!」

「すごーい!」

「凄いのか? いや、確かにある意味では珍しい存在よの。ウム、そうで御座るな」

「ござる?」

「ヘンなしゃべり方~」

「そうか? だがそれもまた良しよ」


 好奇心は旺盛。それも何より。

 拙者、場所が場所だった故に子供のあやし方は慣れておる。ヴェネレ殿は困っているようだが、此処は拙者がお力添えを承ろう。

 近くの木を拝借し、蔦をもちいて形を組み立てる。


「なにしてるの?」

「フッ、ある種の魔法みたいなモノに御座る。見ておれ」

「うん! 見てる!」


 組み合わせ、蔦で固定。

 軸に羽根となる枝を携え、少し削って薄めて工夫する。

 竹では無いが、しなやかで軽い枝を使うた。これなら上手く行くであろう。

 両手にて軸を挟み、擦るように弾いてお手製の竹トンボならず、枝トンボが空を舞った。


「「「おおー!」」」

「飛んだ!」

「風魔法?」

「やっぱり魔法使えるの?」


「いやいや、魔法は使えぬ。これは拙者の国あった玩具の一種よの。魔法を使えずとも、空舞う玩具くらいは造れるのだ」

「「「すごーい!」」」


 子供達から羨望の眼差しが向けられる。

 悪い気はせぬが、ちと大袈裟よの。風魔法を知っておるならこれ程まで驚く事も無かろうに。

 だが、楽しませられたのならそれが一番に御座る。


「スゴい……一瞬で子供達の心を掴んじゃった……」

「ね、凄いでしょ。キエモンは!」

「何でヴェネレが誇らしげなの……」


 胸を張るヴェネレ殿。

 ミル殿はそれに対して小首を傾げて肩を落とす。

 ともあれ、枝トンボが好印象を受けたのならば他にも色々と拙者の国に伝わる遊戯を教えるのは良いかもしれぬ。


「次は笹船でも作ろうかの。笹が無くとも、細長い葉があれば作れる」


「ささふねー?」

「なにそれ!」

「おふね!」


 また近くの木から拝借。葉を一枚取り、切り込みを入れて形を固定。

 手慣れた物で、すぐに船は作れた。


「後は浮かせられるような水溜まりでもあれば良いが」

「ボクできる!」

「アタシも手伝う!」


 そう言い、少年少女は杖を取る。

 ボロボロの杖よの。杖を買うにも金銭は必要。手に出来るのが限られているのであろう。

 だがそんな不自由何のその。二人は経を読んだ。


「──水のせいれいよ。青きその力をけんげんせよ! “ウォーター”!」

「──土のせいれいよ。にび色の力をけんげんせよ! “ホール”!」


 少年は土魔法にて穴を空け、少女はそこへ水を流す。

 それにより、簡易的な水溜まりが作られた。


「ほう。本当に誰でも魔法が使えるのだな。では、いざ参らん。行け! 船よ!」


「わー! 浮いたー!」

「ふつうに浮くよりおもしろーい!」


 普通に浮くとはなんぞ。然れど楽しんでくれているのなら何より。子供の笑顔は気持ちが軽くなるの。


「スゴいね。キエモン。ありがとう。あの子達をこんなに楽しませてくれて」

「いやいや。この者達は善き子供らよ。ミル殿も苦労はあるようだが、救われている部分も多かろう」

「……。まあね。取り敢えずキエモンとヴェネレ。教会に入る? 薄味のお茶くらいなら出せるよ」

「フッ、頂こう。喉が乾いた故」

「あ、私もー!」


 中へ誘われ、断る事無く拙者らは入る。

 ミル殿の家。そこは子供達の集まる所であった。

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