其の伍拾捌 人探し
──“ギルド”。
「お疲れ様でした。キエモン様パーティの皆様。B級任務、達成おめでとうございます」
ギルドへと戻り、受付の女性に祝福される。
ちと大袈裟だが、それもまあ良かろう。大袈裟であっても実感する事で自信に繋がる。拙者も褒めて伸ばす方針には賛成よ。
「サベル殿らにも連絡は付いた。今しがた骨の処理へ向かわれたぞ」
「そうですか。では、これで今日のクエストは終了ですね!」
「そうであるな。既に夜。皆、ゆっくりと休むと良い」
「「「はい!」」」
任務を終え、拙者とエルミス殿。ブランカ殿とペトラ殿で各々の居場所に帰った。
そんな城までの道中、言い忘れていた事を一応エルミス殿へ話す。
「そう言えば、帰り道の途中でミル殿に出会ったぞ」
「ミルさんにですか? あの辺りに住んでるんですね」
「その様だな。買い出しか何かの途中だったらしく、荷物を抱えていた」
「家業で騎士や冒険者はやれないと言っておりましたもんね。日々の生活が大変なのかもしれません」
それはミル殿の事。拙者の国でも家の仕事で忙しい者達は大勢居た。彼女もそうなのだろう。
ブランカ殿らには明日報告するとしよう。何かと気に掛けておるからな。
ヴェネレ殿らには……今教えておくか。
「やっほー! キエモン! エルミスちゃん!」
「おかえり……」
いつものように、空からヴェネレ殿とセレーネ殿が出迎えた。
来る事は分かっておる。話す機会はいくらでもあるので御座る。
「へえ。ミルちゃんがねぇ。どんな事やってるんだろう。明日辺りサプライズで行ってみる?」
「多少は心を開いたとは言え、急に距離を詰めては迷惑ではないか? そもそも深く詮索はせぬようにだな」
「だから手伝いにね! 無論、詮索とか相手が嫌な事はしない! それなら迷惑にならないでしょ?」
「フム、確かにそうであるが……それもまた別方面で迷惑な気がしないでもない。そもそも拙者は明日も非番ではなかろう」
家業の手伝い。
有り難い事ではあると思うが、世には有り難迷惑という言葉もある。加え、拙者は騎士としての役目がある。休む訳にはいかぬだろうて。
ヴェネレ殿は肩を落として話した。
「キエモン。この国に来てからずっと休み取ってないじゃん。一ヶ月間、ずっと働き詰め。キエモンの国ではそれが普通だったのかもしれないけど、流石に休まないと体に毒だって」
「だがの。エルミス殿らの鍛練もある故」
「私達は大丈夫ですよ。基本的に班長を交えたスリーマンセルですけど、個人で行動している人もおりますし、余程の任務で無ければ攻略出来ると思います! ブランカさん達もそう言いますって!」
「フム……」
確かに休みは大事であり、必ずしも隊長格やそれに準ずる者が必要という訳でもない。
一騎士風情でありながら姫君からの折角のお誘いを無下にするのも問題か。
「ならば行ってみるとするかの。個人的に気にもなっておる」
「OK! 迷惑そうにされたならすぐに帰れば良いし、それで決定! ま、厳密に言えば休みとはまた違うかもしれないけど!」
確かに手伝いに行くのならば休みにはならぬな。
然し休みと言っても何をすれば良いか分からぬ故、拙者の性には合っている。
その後拙者らは城へと戻り、食事等を終わらせてその日を終えた。
*****
──“翌日”。
「では、今日はお暇を頂く。エルミス殿、ブランカ殿、ペトラ殿。主らなら三人だけでも大抵のB級任務は受けれよう。くれぐれもお気をつけよ」
「分かりましたわ」
「はい!」
「任せてー」
次の日、準備を終えた拙者はギルド前でエルミス殿らに話した。
昨日の場合は例外であり、しかと確認すればB級以上も難なく遂げられる実力も有しておろう。
「と言うてもすぐに帰される可能性もある。ミル殿はあまり他人と関わりたからぬようだからの」
「アハハ、それはあるねぇ。ま、その時はその時。大人しく帰るとしよっか!」
もし帰されたのならそれはそれとして割り切る。一先ず確認をしたいようだ。
心配性な姫君であるが、お節介でもある。人は好いのだが、それを苦手と考える者も居る事であろう。拙者は嫌いじゃないが。
「じゃ、行ってくるね~!」
「では、行って参る」
ヴェネレ殿は箒に乗り、拙者はその後ろを付いて参る。
速度は緩やか。別に急ぎの用事でもないからの。景色を見ながらの散歩もまた乙なものよ。
「そう言えばキエモンと2人きり……」
「如何した?」
「あ、いや……こんな風に2人だけで行くのってキエモンがここに来た当初以来だなって……」
「確かにそうであるな。今回セレーネ殿は城にてマルテ殿と過ごしておる。ヴェネレ殿と共に行くのも久しき事よ」
「そ、そうだね……」
変な様子よ。いつもの活発さが無くなっている。
先程までは普段通りだったが、急にしおらしくなったの。一体何があったのか。心情は複雑に御座る。
「ヴェネレ殿。熱などは御座らんか?」
「え!? だ、大丈夫! 大丈夫!」
気になり、隣で低く飛ぶヴェネレ殿の額に触れる。
若干の体温は高いかもしれぬが、本人は大丈夫と告げた。女性は基本的に体温が高いとも聞くが、心配にはなる。
「ならば良いが、もしもの時もある。あまり無理はせぬよう気を付けて下され」
「大袈裟だなぁ……確かにちょっと体温は上がったけど……そう言うあれじゃないから平気平気……」
益々顔に赤みが増した。本当に大丈夫で御座ろうか。
然し、本人があまり気に掛けて欲しくない様子。問題があらばその時対処するとして、今は深く追及せずとも良いだろう。
「なら、少し寄り道をして行こう。草原や森。自然に触れるのは良いりふれっしゅとやらになる」
「そ、そうだね。まだ朝だし、早朝の森林浴とか良いかも」
昨日の場所の通り道にある森や草原。そこで心身ともに休めるのは良き事に御座ろう。
朝露の零れる緑き森を抜け、暖かな風を感じる広き草原を抜け、清涼な湖を通る。
ヴェネレ殿の機嫌もすっかり直り、気分が高まった状態で昨日巨骨を打ち倒した場所に来た。
「まだ何人か騎士は残っているみたいだね。まあ、あんな大きさのスケルトンが相手だったなら後処理とかも大変だけど」
「そうに御座るな。然しサベル殿はもう居らぬ様子。夜と昼で部隊を分けて調査しているようだ」
何人かの騎士達は居る。拙者とヴェネレ殿に向けて「あ、ヴェネレさん」「キエモンじゃないか」「一体何の用で?」等々と口にしていた。
ミル殿を探しているとは口にせずとも良い事。一先ず“散歩”とだけ告げて更に向こうへ行く。
「見たのは帰り道だったが、方角的には此方に御座った」
「へえ。随分と人通りが無い寂れた場所だね。森の中だから人が居ないのは当たり前かもしれないけど」
ミル殿が向かったであろう方向へ行くと、先程とはまた別の森があった。
そこは他の森に比べ、寂れた雰囲気。生き物の気配が少ないのに御座る。
人はともかく、生き物が少ないのは異常であろう。
「だが、少し古いが痕跡はある。何者かが追い出したのであろう」
「追い出した……って、それって……」
「十中八九、ミル殿だろう……か……のぅ?」
「ん? なんか自信なさげ?」
「ウム、何となく妙な感覚でな」
居た痕跡はあり、全ての動物を払い除けるだけの実力を有する者が居るのも分かる。
然し乍ら、そうであっても違和感はある。その違和感が何かは分からぬが、果たしてミル殿が全てを排除するだろうかと言う疑問が残るからの。元より痕跡の年月とミル殿の年齢では辻褄が合わぬ。
「とは言え、今は生き物の気配がないからの。もしミル殿が居ても安全は確保出来ておろう」
「そうだよね。ミルちゃんなら大抵の魔物は撃退出来ると思うし」
「だが、気になる事は増えた。是非とも話を窺いたいの」
近隣に住んでいるのならこの森の事を何かは知っておるかもしれぬ。拙者、実は好奇心が旺盛に御座る。
そうと決まれば善は急げ。善かどうかはさておき、行ってみたくなった。
いざ行かん。ミル殿の居るであろう森の奥へ──。
「……あれ? キエモンにヴェネレ……なんで居るの?」
「「……!」」
──そう思った矢先、探していた者の声が耳に届いた。
偶然とは恐ろしいの。それとも噂をすれば何とやらという事に御座ろうか。因みに何とやらとは“噂をすれば影がさす”に御座る。
「これは奇遇よの」
「いや、完全に自分の意思でここに来たでしょ……。昨日暗くて見えにくかったけど、やっぱりあれはキエモンだったんだ。腰に杖じゃない棒携えているもんね……」
どうやら拙者の事には気付いていた様子。おそらく拙者と同じように気にする事も無いと考えたのだろう。
何はともあれ、これで目的の一つ目は達成よの。




