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其の伍拾漆 骸骨

『…………』

「そちらへ参ったぞ!」

「はいですわ!」

「オッケー!」

「やります……!」


 B級任務を受け、拙者らは草原へと来ていた。

 今回の任務は討伐。既に民間への被害も出ており、早急な排除が要求される妖。

 名を“すけるとん”。見た目は骸骨と言う、如何様な理由で動いているのか分からぬ存在。

 いつかに見た百鬼夜行絵巻に描かれていた骨の妖を彷彿とさせる容姿を持ち、ガシャガシャと音を立てて動いている。

 拙者の国でも骨の妖を見たと言う噂話はよく耳にした。


「バラバラにしても再生するなら、跡形もなく潰せば良いよな! ──大地の力、鈍色の岩石よ。粉微塵に擂り潰せ! “ロックハンマー”!」


『『『…………』』』


 ペトラ殿が鎚をもちいて複数体の骸骨を粉々にし、動かなくなる。

 そこから更に続くよう、ブランカ殿とエルミス殿もけしかけた。


「炭になるまで焼いてしまえば良いでしょう! ──火炎の力、赤き焔よ。敵を焼き尽くしなさい! “フレイムピラー”!」


「えーと、私が使える魔法でやれる事は……とにかく近付けさせない事……! ──水流の力。青き水よ。敵を洗い流す! “ウォータースライダー”!」


 ブランカ殿の火炎が骨を灰塵と化し、エルミス殿の水が骸骨を流して遠ざける。

 思えばエルミス殿の扱う魔法には粉々にするような力は御座らんの。これは拙者が終わらせるとしよう。


「粉々にすれば良い。単調よの」


 刀で切り裂き、細塵として風に巻かれて消え去る。

 推定A級で御座った鬼の怨念が集った思念体のような化け物の再生力と比べ、粉々にするだけで済むのは都合が良い。


「ふふん。B級任務にしては骨がありませんわね!」

「骨だらけだけどな~」

「再生力と数からB級クエストに認定されていましたけど、この調子なら何とかなりそうですね」


 C級に毛が生えた程度のB級任務。本来ならこの再生力には苦戦もするのだろうが、彼女らが優秀過ぎる故にC級任務として変わらぬの。

 いや、まだC級にあるような妖探しや運搬任務の方が苦労するまである。


『『『…………』』』

「まだまだ増えるの。此処からは拙者も出るとしよう。日も暮れてきた」

「分かりましたわ! キエモンさん!」

「キエモンさんが加われば百人力だなー」

「私は精一杯サポートします!」


 多数の処理だけならば苦労もせぬが、日も落ちた。その多数が面倒なものとなっておる。

 聞けばすけるとんは夜に活性化するらしい。即ちこれから難易度が高まると見て良いだろう。


『『『…………』』』


 骨は魔力を込め、それを矢の形として次々と打ち出した。

 武器は流通しておらぬ世界だが、魔力の形が見覚えるのある武器と化して目にする機会も多い。少し敵の質が上がったようだの、


「……! さっきより早いですわね……!」

「夜になると強くなる……成る程ね。こう言う事!」


 高速の矢が射たれ、各々(おのおの)かわす。

 魔法よりも出は早いな。なるべく早く止めるとしよう。


「粗方片付いたかの」

「「「…………ぇ……?」」」


 通り過ぎ、一体一体を粉微塵とする。

 軽く、頑丈であり、切れ味も良い。素晴らしき刀よ。

 骨に油は無いので汚れる事もないが、鬼などを斬っても切れ味が落ちぬ。使い心地も良い。


「キエモンさんが全部倒しては鍛練になりませんわ……」

「おっと、すまぬ。夜道は危険だからの。早いうちに討ちたかった所存」

「まあ、元よりそこまで鍛練にはなりませんでしたので良いですけど」

「B級任務も簡単だなー!」

「うぅ、皆さんとても強いですね……」


 少しばかり先走ってしまった。彼女らの鍛練だと言うに、我ながら大人気ないな。

 然し、いつもはこの様な気にならぬのだがな。日が暮れたのもあるが、別の理由もある。嫌な気配があるのだ。


「……。どうやら此処からがB級任務の本番のようで御座るな」


「「「……!」」」


 粉々にした骨が集まり、徐々に巨大な形を生み出す。

 まるで粘土のようにくっ付いては質量が増え、一つの巨大な骨格と化した。


『……』

「大きい……まるで巨人の骨みたいですわ……」

「成る程ねー。これならB級相当……それ以上はあるかも」

「難敵ですね……」


 その体躯を見、感想を述べる。

 今までの輩と同じであればあれを粉々にせねばならぬのか。厄介な相手に御座るな。

 拙者らが見上げる最中、巨骨は腕を振り上げた。


『…………』

「来ます!」


 瞬時に振り下ろされ、エルミス殿らはほうきで。拙者は跳躍してかわす。

 着弾点は沈むように陥没し、大きな砂塵を舞い上げる。そのまま手を横に薙ぎ払い、大地を巻き上げて周囲を抉った。


「一挙一動で地形が……」

「あの巨体。肉体より軽い骨でも相当の破壊力が出ますわね……」

「文字通り骨のある相手じゃん?」

『…………』


 耳もなければ目も無い。故に狙いが定まっているのか不明だが、例えそうであってもなくとも明確な被害を及ぼす力があった。

 地面を抉り抜いた白骨の巨腕は空中に払われ、エルミス殿らを狙う。

 拙者は刀を抜き、刹那にその巨腕を切り落とした。


「キエモンさん!」


「全てを粉々にするのは面倒だが、主らの魔法を掛け合わせればそれも可能に御座ろう。これを機に更なる成長をせよ」


「「「はい!」」」


 指示を出し、三人は箒にて巨骨を囲うように舞う。

 彼女らならば問題無かろう。拙者は倒し切れなかった場合にのみ出るとしよう。今日も何やら、何でも斬れるような感覚になりつつある。鬼の怨念。欲深きならず者。それらを斬った時と同じ感覚が体に伝う。

 今回も何事もなく終われそうよの。


「魔法の組み合わせは!?」

「じゃあ、あれやらない? ミルちゃんがやった合体魔法!」

「成る程。確かに私達の扱える属性で再現出来ますわね」


 話し合いは迅速に終わり、巨骨は足を払う。

 拙者はその足を切り捨て、エルミス殿らへの邪魔を防ぐ。

 お三方は杖を構えた。


「──火の力よ。赤き焔にて対象へと狙い」

「──土の力よ。鈍の土にて対象へと狙い」

「──風の力よ。緑き風にて対象へと狙い」


『…………』


 火、土、風が同時に纏わり、それが一つに集まって形を組み立てる。


各々(おのおの)を合わせ、」

「真髄たる力を解放せよ!」

「敵を消し去る……!」


『…………』


「「「──“風砂火旋風”!」」」


 経を読む間も巨骨は腕や足をもちいて仕掛けていた。

 だが三人らはそれらを見切ってかわし、ミル殿が使ったような三つの属性を組み合わせた魔法を放出する。

 巨骨の有する巨躯の体を土と炎が風によって纏われ、包み込むように崩壊させて行く。


『……!』


 崩れては再生し、崩れては再生してを繰り返し、流転するかの如く其の形を変える。

 やがてそれは止まり、骨の体が緩やかに崩れ落ちた。


「や、やった! やりました!」

「ふふん、終わってみれば呆気ないですわね!」

「三人ならB級任務も上々だな!」


 三人は各々(おのおの)で歓喜する。高い実力を誇っておる。この三人ならば更なる高みへ到達出来るであろう。

 さて、拙者も後処理へと移行するか。


「では、主らは先に帰っていてくれ。サベル殿ら処理班に骨粉の片付けを頼まねばならぬからの。残りがおらぬか最終確認をしておく」


「分かりました!」

「では、お先に失礼しますわ」

「んじゃなー! ギルドで待ってるぜー!」


 一先ず町へ帰す。

 三人は箒に乗って帰路に着き、その直後に砂から崩壊した筈の巨骨が姿を現した。


『…………!』

「やはりの。嫌な気配は消えておらなんだ。本当に厄介な相手に御座る」


 呟きの如く言い、巨骨から巨腕が振り下ろされる。

 拙者は刀を抜き、その体を両断した。


「切り捨て御免」

『──』


 再生はせぬ。こうなる事は予期しており、今の拙者ならば再生させぬよう切り裂く事も可能と踏んでいた。

 結果、そうなった。


「さて、ギルドへと帰るかの」


 また呟くように告げ、拙者も三人を後を追うように先へ進む。

 エルミス殿ら三人のB級初任務。これは疑いの余地無く成功に御座ろう。


「……む?」

「…………」


 ──その帰路、慌ててもおらぬ故、のんびりと夜空を眺めながら帰っていたが、一人の少女が目に映った。

 少女と言うても面識のある者。単刀直入に申せばミル殿に御座る。何やら大きな手荷物を持っておるの。


「フム、此処等に住んでいるようだの」


 然れど気にする事も無い。他人を付け回し、居場所を特定する理由が御座らんからの。

 ミル殿がこの辺りに住んでいたのなら先程のすけるとんを片付けて良かったものよ。彼女なら心配は無用に思えるが、民間人にも被害が及んでいるので早急な解決をするに越した事はない。


「行こうかの」


 一瞥のみし、そのままそこから離れる。

 エルミス殿らの成長は早く、力も付けつつある。ギルドへ報告を終え、巨骨の亡骸を片付けたら今日の任務は終わりよの。

 ミル殿に触発され、受けた依頼。それを終え、拙者も帰路に着いた。

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