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其の肆拾玖 騎士就任式

「では、これより新騎士加入に伴い、貴章の授与式を執り行う! 新たな騎士達は前へ!」


「「「はい!」」」


 暫し屋台を楽しみ、数刻を経て式が始まった。

 始めの演目に拙者は出ぬが、その後の就任式には出る故、舞台の近くにて待機する。

 今日は束の間の祭典。明日からはまた騎士の活動を再開するので身をゆっくりと休めよう。


「では──」


 そして各々(おのおの)の名が呼ばれ、指名された者達は前に出て貴章を受け取りにいく。

 得た者は顔付きが変わったかのような錯覚に陥るの。それ程身を引き締める事となるのだろう。

 エルミス殿らにもそれらが授与される。


「フォイラ=ペトラ!」

「はい!」

「リーヴ=エルミス!」

「はい!」

「レイン=ブランカ!」

「はいですわ!」


 名を呼ばれ、貴章が与えられた。

 これで彼女らも晴れて王国騎士。今後は護るべき民ではなく、護るべき仲間として接するとしよう。

 数十人の名を呼ばれ、授与式は終わる。そこから今度は拙者を含めた新たな騎士の紹介となる。


「では早速だが新たな王国騎士、アマガミ=キエモン。前に出よ」


「はっ、騎士団長殿」


 まず始めに、一足早く騎士となった拙者が呼ばれた。

 いつものように接するのではなく、今回は騎士団長と騎士団員としての関係性。

 ファベル殿は拙者への補足を加えて説明する。


「彼は他の候補生達より少し早く、約1ヶ月前に騎士となった者だ。既にいくつかの任務を受けており、中にはA級相当のモノもチラホラある。町にもよく赴いているので知っている者も多いと思うが、我ら騎士団に置ける期待の新星だ」


「姓を天神。名を鬼右衛門と申す。皆々様方、宜しく申し奉り候」


 言われ、名乗る。周りからは歓声のような響きが聞こえた。

 成る程の。騎士は民達の希望。その意味を深く理解したような感覚に御座る。

 そうなる事を心掛けてはいるが、改めて気が引き締まる。騎士の名に恥ずべき真似は出来ぬな。


「キエモンさんだ」「そう言えば就任式はまだだったね」「すっかり馴染んでいたから忘れていたよ」「これで彼も歴とした王国騎士か」「好青年だ。国の為に頑張って貰いたいな」「応援してるぞー!」


 町の者達とは、見廻りの時などによく話などをしている。

 故に顔見知りも多く、声援のようなモノが飛び交って御座った。

 ファベル殿は手を翳してそれを制し、拙者は一礼して下がる。


「では次──」


 そこから更に紹介が入る。

 この人数。数刻は掛かる程よの。拙者は特例とし、他は何人かを纏めて紹介するのであろう。

 特に何事も無く、授与式及び就任式は終わりを迎えた。



*****



 祭典が終わり、拙者らは城の大広間に集っていた。

 何でも新人の騎士らには活動内容を教えるとの事。そしてそれは言葉だけではなく、実践を交えてのようで御座る。


「では、これより新入り騎士達には元々の正団員達の下、研修を行って貰う! しかし! 今回は事情があり、隊長格以上は出払っている者もしばしば! 故に今回は団員からも一時的な隊長となって頂く! 呼ばれた者達は集まれ! 第1班(仮)は──」


 隊長以上が“月の国”手掛かり調査の為に“シャラン・トリュ・ウェーテ”を空けている今、拙者ら騎士団員の中から仮の隊長を決めるらしい。

 研修と言っていたな。つまり城の見張りから町の見廻り、任務依頼など本来の騎士としての務めをするのだろう。

 次々と団員が呼ばれ、三人一組から四人一組の班を作る。本来は三人一組の“すりぃまんせる”とやららしいが、今回は四人一組の“ふぉうまんせる”も組まれるとの事。


「次は第17班。隊長には現団員のキエモンを。メンバーはペトラ、エルミス、ブランカの3人。四人一組のフォーマンセルで行動してくれ」


「御意」

「キエモンさんと……!」

「知り合い同士で班になれるのって何か良いな。初日でバリバリ緊張してるし!」

「見てみれば周りも主にチーム戦で組んだメンバーですわね。連携を組みやすいようにしているのでしょう」


 この組み合わせなのは、偶然ではなくファベル殿の配慮で御座ろう。

 確かに拙者も最初は見知った者と組んだ。まずは慣れ親しんだ者と組ませ、そこから徐々に他の者とも合わせていく方針のようだ。


「それぞれの班は組んだな。その班の隊長となった騎士達は引っ張って行くように! 行動開始!」


「「「はい!」」」


 最後に号令が掛けられ、騎士達で行動を開始した。

 引っ張って行く……か。如何様にすれば良いのだろうか。拙者はただ単に定められた使命を淡々とこなしていただけに御座る故、よくは分からぬの。


「それで、どーするんだ? リーダーキエモン。私達は何をすれば良い……んです?」

「無理矢理な敬語はかえって失礼な気もしますわペトラさん。それでキエモンさん。如何致します?」

「アハハ……二人とも……」


「フム、そうに御座るな。存外思い付かぬものよ。然れど惟れば拙者の初日は城の見張りを始めとし、町の見廻りを終えたのちに任務を承った所存。此れ即ち、拙者がした事と同じ事をすれば良さそうに御座る」


「えーと……お城の見張りと街の見回りをした後で任務って事ですか?」

 

「なんだか独特の言い回しですわね。前から思っていましたが」


「エルミスはよく分かったな」


 フム、最近は周りが理解してくれる故に忘れていたが、そう言えば拙者はこの国で訛りが酷く伝わり難いので御座った。

 然し共に行動したエルミス殿が居る為に分かってはくれそうよの。


「では、まずは城の案内。そして城下町へ行こう」

「「「はい(ですわ)!」」」


 なれば常例通りやるだけ。

 先ずは城内案内。その前に確認しておく事もある。


「主ら三人、誰が城で寝泊まりを?」

「あ、私はお城でお世話になります。“シャラン・トリュ・ウェーテ”へ上京して来た身で、まだ家を借りられる程の稼ぎもありませんから」

「私は街の別荘で過ごしますわね。お城からも近く、時間厳守はしますわ!」

「私は考え中~。お金もそんなに持ち合わせてないし、お城ルートかなぁ~」


 聞いたところ、エルミス殿は城。ブランカ殿は別荘とやらがあるらしい。

 唯一決まっておらぬのはペトラ殿だが、そんなペトラ殿へ向けてブランカ殿が話し掛けた。


「そ、それならペトラさん。私の別荘に来てくれても良くってよ。行く当ても無いのなら、お世話して差し上げても良いわ!」


「お、マジ? サンキュー。なら、私はブランカにお世話になるよ!」


「賢明な判断ですこと。……そしてエルミスさん……もし良ければ貴女も……いえ、貴女はもう決めておりますものね」


「え? ……はい。もう決めていますから。誘おうと考えてくれただけ、嬉しい事です!」


 ペトラ殿はブランカ殿の屋敷へ誘われたが、エルミス殿は決めてると告げて行かなかった。


「よく分からぬが、良いのか? エルミス殿。城には拙者ら以外の知り合いも少なかろうて」


「はい。言ったじゃないですか。キエモンさんと一緒に居たいと」


「フム、そうか」


 拙者と共に居たい。その理由で城へ住まう。

 知り合いと言えば拙者とセレーネ殿、ヴェネレ殿にフォティア殿くらいだが、他の者達と親睦を深める事になると考えればそれもまた良し。

 その近くにブランカ殿が来、耳打ちするようにエルミス殿へ話し掛けた。


「エルミスさん……貴女もしかしてキエモンさんの事を……」

「~~っ。それは……その……えーとですね……」

「ふふ、真のレディは無粋な事をしませんわ。同期として、応援してますわね」


 軽く肩を叩き、また囁くように話す。

 何を話しておるのかよく分からぬの。その為の耳打ちなので御座ろうが。面妖だ。


「何で御座ろうか?」

「さあ? お城の方が色々と合理的だからとかじゃないかな?」

「成る程の」


「……。本当に頑張ってくださいまし」

「アハハ……そうですね」


 ペトラ殿もよく分からぬ面持ちであり、エルミス殿とブランカ殿の二人だけが何かを理解している様子。

 分からぬ世界は多いの。


「では明日以降に集う場所はブランカ殿の別荘の距離を踏まえて考えよう。最初のうちは遠出もあまりせぬよう心掛けるが、後々は少し遠い場所の任務もこなす事となろう。……では当初の目的通り、先ずは城の案内に御座る。着いて参れ」


「分かりました!」

「OK……じゃなくて、分かりました!」

「分かりましたわ」


 早速行動を開始する。

 城内の案内は浴場、書斎、個人部屋、大広間、貴賓室、食堂、闘技場等々。拙者がヴェネレ殿に案内された場所は全て行った。

 然しこの世界の住人であるこの者達に説明の必要はあまりなく、ある程度は分かっている様子。特に気になったのは浴場のように御座る。


「広いですね! とても気持ち良さそうです!」

「そうですわ! 流石は王宮! 悔しいですけど、私の別荘よりも広いですわ!」

「気持ち良さそうだな。女湯はこちらか。風呂にくらいは入りに来ても良いかもしれないぜ」

「ふふ、そうですわね」


 この場に拙者は居らぬ。女湯だからの。

 然し外の方まで声が聞こえてくる程に興奮していたのが伝わる。

 城の案内を終え、次いで城下町の案内を致す。だが彼女らは拙者よりこの国の事を知っているで御座ろう。

 故に見廻りはするとして、町案内はまた別件だ。


「よ! キエモンさん! 就任おめでとう!」

「そちらの方々は新しい騎士かい? 期待してるよー!」

「みんな可愛いな! 頑張れよー!」


「はい! 頑張ります!」

「応援ありがとうございますわ!」

「おー! 頑張るぜー!」


 民達への顔見せ。式でも存在を認知されていたが、より詳しく評価も高める為の見廻りに御座る。

 マルテ殿の教えは今も心に響いておる。騎士の存在は希望。故にその希望を町の民達へ届けるのが役目。騎士をより知る事で人々の心には安寧が宿るのだ。


「今日は泰平。町には罪人も居らぬな」

「騎士の祭典があったからこそ、私達を含めた新人騎士達がおりますので犯罪率が下がっているのかもしれませんね」

「成る程。辻褄は合う」


 いつもは小さないざこざくらいはあるが、今日はその様な問題すら起こっていない。

 エルミス殿の推測は新人騎士達が見廻りをしている為、そう言った事をしようと言う輩がらぬのではないかとの事。

 一理あるの。所謂いわゆる警務の者が居て、よもや問題を起こそうと考える変わり者はおるまい。


「ならば見廻りは早急に切り上げ、任務を優先した方が良さそうに御座るな。主らの経験は?」


「私は冒険者を一応していましたけど、全然ですね」

「私は基本的に箱入りでしたわ。クエストは当然として、実を言うと殿方とのお付き合いも一度もありませんの。女学院を首席で卒業しましたから」

「私も両方ないねぇ。学校卒業してすぐ上京して来たし」

「わ、私もお付き合いの経験はございませんよキエモンさん!」


「何故それを拙者に? ともかく、話は逸れたが主らに任務の経験はほぼ皆無か。軽い任務から慣らしていくのが良さそうよの」


 エルミス殿を除き、任務を受けた者は一人もおらなんだ。

 なれば簡単な“しぃ級”任務なるものを受けた方が良さそうであるか。基本的な部分から慣らして行こう。

 拙者らはギルドへと向かい、依頼を受注する事にした。

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