表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/280

其の肆拾陸 騎士入団試験・その2

「そこまで! 全てのチーム戦は終わりだ! 各々(おのおの)魔力や体力を回復させ、10分後には個人戦へ移行するぞ!」


「「「はい!」」」


 10分間の休息が設けられ、参加者達は家族や友人の元へと行き、現時点での報告をしていた。

 思うような結果を残せなかった者、上手く事が運んだ者。心情はそれぞれだが、皆が皆、此処まで来たらと個人戦へ意気込んでいる。

 休憩時間の時だけは観客席から闘技場の方へと降りられる。折角なので拙者らも降り立った。


「あ! キエモンさん! ヴェネレ様! えーと……隣に居るのは誰ですか……?」


 そこへ、拙者らを見つけたエルミス殿が嬉しそうに近寄る。が、初対面であったセレーネ殿へ困惑の色を見せた。

 そう言えば回復術を頼る為に診せようとは思うたが、結局問題無かったので会わせる機会が設けられなかったの。


「彼女はセレーネ殿に御座る。訳あって拙者らと共に行動しておる」

「成る程……セレーネさんですね。私はエルミスと申します」

「エル……ミス……名前は聞いた事ある……鬼右衛門から……」

「そうですか。よろしくお願いします」

「うん……」


 どうやら上手くやれそうに御座るな。

 エルミス殿が晴れて騎士となった暁には共に行動する機会も増えようぞ。


「オーイ! エルミスー!」

「あ、ペトラさん」

「やっほ。さっきの試合はお互いに頑張ったな。そちらの方々は知り合いか?」

「はい。キエモンさんにヴェネレ様。セレーネさんです」

「現役の騎士や王女様と知り合いなのか!? スゴいな!」

「アハハ……」


 拙者らと知り合いと聞き、ペトラ殿が驚きの表情を見せる。この場合は姫君であらせられるヴェネレ殿への驚きが多かろう。

 そこへ、また一人の者が。


「オーッホッホ! 私が来て差し上げましたわ! 泣きながら感謝しなさい! エルミスさん! ペトラさん!」


「ブランカさん」

「テンション高いね~」


 ブランカ殿。

 観客席から見ても分かる程に高飛車な彼女だったが、態々(わざわざ)自ら赴いて来るという事は本当にエルミス殿らを気に入っているので御座ろう。

 彼女も此方を見やる。


「……!? お、おおお王女様!? コホン。これは失礼致しましたわ。まさか貴女がこれ程までに高貴な御方とお知り合いだったとは。初めまして、王女様。私は誇り高きレイン家の長女、レイン=ブランカと申します。今後騎士となった暁には、どうかより良い関係となりますよう」


「アハハ……よろしく。ブランカさん。レイン家って言えば名のある貴族だけど、そこの長女がなぜわざわざ騎士に?」


 ヴェネレ殿へ名乗り、本人は苦笑を浮かべながら返してそのまま質問する。

 確かにもっともな疑問で御座ろう。

 貴族と言えば高貴な者達。そこの長女となれば位の高い殿方へ嫁ぎ、家の名を広げるのが役目の筈。

 それが騎士と言う自らが前線に赴く危険な役職に就くなど、普通は行わぬ事だ。

 ブランカ殿は笑って返す。


「フフ、よくぞ聞いて下さいました。私、嫁ぎたくありませんの!」


「え……?」


 その返答に対し、ヴェネレ殿は素っ頓狂な声を漏らす。

 一言目が嫁ぎたくない。高貴な立場ならよくぶつかる疑問で御座ろうか。古い記憶に御座るが、拙者の仕えた姫君にも身分の関係無い恋をしてみたいと嘆いていた方もおられた。

 ブランカ殿は両手を広げ、仰々しく話す。


「そう! 私が求めるのは真実の愛ですわ! 名目や大義とか、富とか地位とか、全てを捨て、ただ愛だけに生きたいのです!」


「うーん……まあ、したい事は人それぞれだから否定しないけど、その為に命懸けの騎士にねぇ……」


「フフ、貴女は私の憧れでもありますわ。ヴェネレ様」


「え? 私が?」


「そうですわ! その地位と立場に居ながら何者も寄せ付けない堅さ! 正しく鉄壁の王女! 貴女も求めているんですね! 真実の愛を!」


「うへぇ~……そんな風に思われてたんだ私……事実ではあるんだけど……何か複雑……」


 ブランカ殿の言葉に嫌そうな顔をする。

 一先ず色々と在らぬ噂が立っているように御座るな。いや、この者が勝手に謳っているだけであろうか。

 何にしても濃い女子おなごである。

 そこへ声が掛かった。


「休憩終わり! では、早速組み合わせを発表する! その通りに前へ出て個人戦を開始しろ!」


「「「はい!」」」


 ファベル殿が号令を掛け、候補生達は整列して名を呼ばれた順に並ぶ。

 個人戦は何回戦うので御座ろうか。拙者の時は三人だったが、それが特例と考えればもっと少ない。それか多いかも知れぬ。

 どちらにせよ相手次第で御座るな。


「戦闘回数は1回で決める! 既にここまでである程度の力は把握したからな! その1回で出来る限りのアピールをしろ!」


「「「…………!」」」


 戦闘数は一回に御座るか。

 これは難儀な。引き分けにでもならぬ限り必ず決着は付き、敗者に名誉挽回の余地は無いとの事。

 候補生達の顔が一気に強張ったの。一回限りの機会。これを物にせねば騎士になれぬ可能性が高まった。


「では、個人戦……開始!」


 選定され、各々(おのおの)が戦闘を始めた。

 此処の広さを考え、全員が戦える訳ではない。然し数が多く、時間も掛かるので四組ずつで行っている。

 エルミス殿は……もう少し後よの。暫し眺めようぞ。


「深紅の火よ。ここに顕現せよ! “ファイアボール”!」

「深緑の風よ。敵を撃て! “ウィンドショット”!」


「蒼青の水よ。対象を撃ち抜く! “ウォーターキャノン”!」

「褐色の土よ。相手を打ちのめせ! “ランドハンマー”!」


 各々(おのおの)の魔法使い達が自身の得意とする魔法を放つ。

 短期決戦。それならば得意技で一気に片を付けるのが一番手っ取り早い。かつ、力を示せる。

 他の者達を眺めつつ、エルミス殿の番がやって来た。


「フフ、宿命……とでも言いましょうか。エルミスさん。私が相手とは運の悪い事。負けても泣かないで下さいまし!」


「えーと……会って数十分ですのにもう宿命なんですか……?」


「チームを組み、共に戦った貴女が敵になる。これを宿命と言わずして何と言うのでしょう」


「偶然……ではないでしょうか」

「……。……ふっふっふ……」

「返答無しですか……」


 エルミス殿の相手はブランカ殿。共に戦った仲では御座るが、関係無く戦闘は行われる。他の組みにも先程までの協力者だった者が何人か居るであろう。

 かつての友と戦う可能性を想定した個人戦なのだろうか。


「さあ、始めましょう! 私との戦いを!」

「は、はい……! よろしくお願いします!」


 同時に戦闘が始まった。

 実力で言えばエルミス殿よりブランカ殿の方が上だが、意識がある限りエルミス殿は回復出来る。

 どの様な戦いになるか、楽しみで御座るな。


「──あらゆる精霊よ。私の力となり、相手を撃ちなさい! “エレメンタリーキャノン”!」


「……!」


 ブランカ殿が放ったのは火、水、風、土からなる“えれめんと”の集合体。

 四つの力が組み合わされて膨大な砲撃となり、闘技場を抉りながら直進する。

 エルミス殿の回復術は目の当たりにしている。故に長引かせぬよう、一気に決めに掛かったのだろう。

 やはりあの者、他人の見る目や状況判断能力には長けているようで御座るな。


「悩むな……私……! この場合は……!」


 観客席どころかブランカ殿にも聞こえぬ程の声で呟き、砲撃を見やる。

 何かを呟いたと判断したのは口の動きから。さて、エルミス殿はどう出るか。

 魔力を込めて杖を振るい、そのまま光に飲み込まれた。


「ホーッホッホ! 手加減はして差し上げてますわ! 模擬戦で殺めたとあればレイン家の名折れ! 命までは奪いません事よ!」


 勝ち誇り、高々と笑う。

 然し確かな実力はあるの。今回の参加者の中でならば上位に連なる実力者で御座る。

 他の場所でもあまりの威力に戦闘の手が止まる程。直線上に誰も居なくて良かった。もし誰かが居たら被害が及んでいたであろう。……いや、ブランカ殿の性格ならば直線上に人が居る場合、また別の方法で仕掛けていただろうな。

 言動に問題はあるが、騎士としての心得はしかとあるらしい。


「ええ……ありがとうございます……お陰で間に合いました……!」


「なんですって……? 傷が見る見るうちに癒えておりますわね」


「はい……! 直前に時限式の回復魔法を使いました……! なのでそろそろ完治します!」


「小癪……!」


 煙の中から姿を見せる、回復途中のエルミス殿へ驚愕の表情を浮かべた。

 時限式。予めいつ回復するかを定めていたという事で御座ろうか。

 仮に先程の攻撃で意識を失ったとしても、それが間に合えばまた立ち上がれる。術者が使わねばならぬという不利を、この様に埋めてきたか。


「すみません。私も勝たなければならないので! ──“ウォーターショット”!」

「既に詠唱も終わっているのね。抜かり無いですわ……! けど、今現在の時点でも圧倒的に有利なのは私ですわ!」


 水の弾を撃ち、ブランカ殿がそれを避ける。

 ほうきに乗って距離を空け、もう一度杖に魔力を込めた。


「雷の精霊さん。私に力を御貸しし、相手の意識を奪ってくださいませ。“スタンスパーク”!」


「電気は水を伝うから……水の精霊よ。流動し、伝達させよ! “水電通路”!」


 バチバチと音を鳴らして雷が迫り、エルミス殿は辛うじて使える水魔法にて自分以外の方向へと流した。

 雷を逸らし、そのままエルミス殿も箒に乗って宙を舞う。


「わっとっと……」


 が、立つのは難しい様子。フラつき、座り込む。見てる側からしても危なっかしさがあるの。

 ブランカ殿はそんなエルミス殿を見て助言する。


「まだまだバランスがなっておりませんわね。まず、戦闘に置いてほうきを使うのならば立ちなさい! 座るのは風の抵抗を少なく出来る移動の時だけですわ! 両手は出来るだけフリーに。如何なる時も対処出来るようにしなければ話になりません事よ! 風魔法が使えるのならば左右から支えなさい! バランスも取れるでしょう!」


「え? あ、はい! ブランカさん!」


 さながら指導しているかの如く、ブランカ殿はエルミス殿へ教える。

 確かに座りながら戦闘を行っている騎士は見た事が御座らんの。立っていた方が有利に運べるのであろう。その安定性は難しいようであるが。


「ほうきに乗りながらの移動による、魔法使用も勉強せねばなりませんわ。移動しながらの狙い撃ちは止まっている的ですら動いて見える程ですもの。常に標的へ目を向け、決して逸らさぬように! 空中を飛び回る羽虫を見失うように、少しでも意識を別の方へ向けると敵を見失ってしまいます! 飛び回りながらの戦闘では相手を見失ったら致命的です事よ!」


「はい! ブランカさん!」


 空中戦闘の心得。

 成る程の。確かにその通りだ。戦場で敵を見失うのは命に関わる。

 今回は個人戦だが、空中による団体戦が行われたとしても役に立つ事柄よの。敵の位置を把握しておくのは戦場に置いて重要だ。


「さあ、今度こそ貴女を倒しますわ!」

「望むところです……!」


 互いに箒に立ち、杖を構えて向き直る。

 騎士の入団試験。それもついに終局へと差し掛かる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ