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其の弐拾玖 騎士会議

「お待たせした。サベル殿」

「遅いよ! 流石に! どこ行ってたんだキエモン!? マジで心配したんスからね!?」

「通常もーどとやらが出ておるぞ」

「ゴホン。んで、まさか俺を置き去りにして二人仲良くしこたま盛り合っているとは思わなかったが……何か掴めたのか? 俺の方は……まあまあ、まあまあって感じだな」

「フム、それはだな」

「ちょっと待って下さい。今誤解を生むような発言をしましたよねサベルさん!?」


 花畑に戻り、ほうきから降りた拙者とエルミス殿はサベル殿に戦果報告をしていた。


「へえ。奈落の底に人々の街か。噂の一つにあった人々の住む所を見たと言うのはそこか。報告の方はするとして、出来れば友好関係を結びたいな。聞いた話では向こうも敵意がある訳では無さそうだし」


「ウム、良い連中であった。気掛かりも一つ程残しているが、それがどう転ぶかによるの」


「気掛かり? ふーん、それについては城に帰ってから会議室で話し合うか。もう日も暮れてるし。多分。……エルミスちゃんはどうする? 重要参考人として城に招待する事も……まあ、同じ班で隊長を勤めるマルテさんが居れば何とかなりそうだけど」


「あ、じゃあ私もお城に行きたいと思います。実際、気にはなりますから」


「OK。じゃ、俺の方で色々と手を回しておくよ。キエモンとエルミスちゃんは街に帰ったら真っ直ぐ城に行って待っててくれ。ギルドの報告と人集めはしておく」


「忝ない」

「ありがとうございます」


 調査の報告と起こった事情はある程度話したが、詳しくは城で。

 確かに夜は妖も増えるであろう。早く帰るに越した事はない。

 拙者らは花畑を後にし、そのまま城へと向かった。



*****



 ──“シャラン・トリュ・ウェーテ・城前”。


「す、すごいお城です……本当に入っても宜しいのでしょうか……」


「問題無い。町の出入口で素性の登録も済ませているのであろう。此処に主がおり、騎士である拙者が居る時点で入城許可は成立しておる」


 城の前まで来たが、不安がある様子のエルミス殿。

 気圧けおされるのは分かる。迫力のある建物だからの。見張りの数も多く、常に気を張っている場。

 だが特に警戒はされておらず、すんなりと入る事が出来た。


「お帰りー! キエモン! 今日も一緒にご飯食べよ!」


「ヴェネレ殿。只今舞い戻った」


 入るや否や、待ち構えていたのかヴェネレ殿が拙者へ飛び掛かり、ヒラリと身を翻してかわす。これ程までに激しかったで御座ろうか。

 躱した先にてヴェネレ殿とエルミス殿の目が合った。


「あれ? 君は誰……ゴホン。おや、貴女はどちら様でしょうか。見たところ騎士の者ではありませんね。冒険者の方ですか?」


「え? あ、その、私はリーヴ=エルミスと申します。縁あって今日、キエモンさんとサベルさんにお付きしまして」


「成る程。私はシュトラール=ヴェネレ。この国の王女に御座います。エルミス様、どうぞよろしくお願いします」


「は、はい! こちらこそ! って、え……お姫様……?」


 互いに自己紹介を終える。

 終えると同時に困惑の色を見せ、ヴェネレ殿はまた一呼吸吐いた。


「ふう、これで形式は終わり。改めてよろしくね! エルミスちゃん!」


「へ? あ……え?」


 ヴェネレ殿の切り替わりの早さに更なる困惑を見せるエルミス殿。

 姫君らしく初対面の者には相応の態度で話す。拙者の場合は出会い頭が妖に襲われていた最中だったから仕方無い。


「それで、貴女が手伝ってくれた冒険者だね。サベルから話は聞いてるよ。ギルドから直通で連絡が入るんだ」


「あ、ご存知でしたか」

「成る程。だから拙者が帰って来るのも知っていたのだな」


「そうだね。けど、改めて自己紹介したかったから知らない風に話したんだ♪」


 既に知っていたようだが、敢えて知らないていを装った。

 相変わらずヴェネレ殿も、裏表は無いのだが何を考えているのかは分からぬな。遊び心はかなりあるのはこの三日で把握したが。


「それで、色々見つけてきたんでしょ? “裏側”については私達王族も気に掛けているし、互いに支援し合う仲良しでありたいから今回の会議には私も参加するよ。パ……お父様の許可も降りてるし、国の未来に関わる事だからね!」


「そうであるか。ならば共に参ろう。会議室とやらは案内もされ、行った事もあるからの」


「私は分かりませんので……お二人に付いて行きます!」


 既に準備は整っているのだろうか。何にしても説明はしよう。

 然し、小槌についてはどうであろうか。野心のある者は当然騎士達の中にも居る。多様の妖術が使えるようになる小槌などあの者のように欲される代物だからの。

 その様な事を考えつつ、会議室へと入る。



*****



「──以上、拙者。及びエルミス殿とサベル殿が調査した結果に御座る」


「成る程……」「フム……」「裏側の下か」「噂は間違ってなかったみたいだ」「ちょくちょく人も来るしな」


 小槌の事は仄めかしつつ説明を終えた。

 会議にはサベル殿も合流している。ギルドから城まで距離はそれなりだが、ほうきに乗って空を行けば早く付けるようだ。

 報告したのは花畑と人が居た事。敵意は無く友好的だった事も告げ、地上から来た者が悪さを働こうとしていたくらいは話した。

 正面から人里へ入れる道筋もある事を教え、会議は更に白熱する。


「ならば何人か遠征へ送り出した方が良いかもしれないな」

「ああ。けど敵意があると思われるのは今後の関係を築くに当たってよろしくない」

「なるべく少数で、喧嘩っ早くない騎士を送り出すか」

「誰が候補だ?」

「少なくとも、場所を知っているキエモンとエルミスのどちらかは必要だ」

「エルミスは冒険者と言えど民間人だ。無難にするなら騎士にしてこの何日かだけで成果を挙げているキエモンだが、如何せん魔法が使えぬからな……」

「帰り道を考え、二人以上が乗っても問題無くほうきを操れる実力者も一人必要だ」

「話の中では魔法使いが居ない可能性もあると言っていたな」

「杖とほうきは基本的に仕舞い、あまり目立たぬようより詳しく調査を進める必要がある」

「ならばキエモンと隊長クラス以上、人当たりも第一印象も良い者が理想か」

「該当者は何人か居るが、どの様な魔物が居るかも分からぬからな。少なくとも今回の調査では見ていないらしいが」

「何にせよ、悩みどころだな」


 白熱するが、難航もしていた。

 候補的に拙者は入っているようだが、その他の者達が決められぬらしい。

 事実、少しは調べたがまだまだ“裏側”については未知数。兵力を割く訳にもいかず、目上の立場だからこそ難しい所があるのだろう。

 そこに、マルテ殿が挙手した。


「なら、私が立候補しよう。キエモンとはこの中の者達に比べても親しく、そもそも彼は私の班だ。これ以上に無い人選と思っている」


「成る程。隊長であり、キエモンと親しいマルテなら信頼も出来る」

「人当たりも良く、落ち着いている」

「適正だな。後は残りの面子を決めたいところだが、具体的な調査という事を考え、今回はスリーマンセルではなく5~6人で向かって欲しいものだ」

「キエモンとマルテ。残るは3~4人だな」


 先ず、マルテ殿が同行する事となった。

 実力はあり、拙者としても信頼の置ける者。良い人選に御座る。

 次いでエルミス殿が手を挙げた。


「すみません。でしゃばるのは気が引けるのですけど、私も行って良いでしょうか? キエモンさんと共に裏側の街へ行きましたし、道案内出来る人が多くても損は無いかと思います……」


「ふむ、しかしだね。君は騎士ではないんだ。名のある冒険者という訳でもなく、守られる側の立場。道案内が出来るという理由だけで危険に晒す訳にはいかない」


 名乗るが、如何せん実力不足。却下されてしまった。

 フム、エルミス殿が居ると何かと助かりそうだが、実績が無ければ信頼も得られない。難しい問題で御座るな。


「ふーむ、まあ二手に分かれたりする事を前提とし、もう一人くらい道案内役が居るのは悪くないが、君は何が出来るんだ?」


「えーと……その……か、回復魔法が使えます」

「それと?」

「……だけ……です。他には初級魔法で最初に習うような魔法だけで……」

「うーむ。危険に晒してしまうのは気が引ける。やはり君の同行は許可出来ぬな」


 回復術だけでは限りがある。身を護る力が無いと心配されるのも無理はない。

 彼女の意思は本物だが、意思だけではどうにも出来なかろう。

 ……ウム、物は試し。一応この場でエルミス殿に実績を作ってみるか。


「軍隊長殿。一つ、拙者から彼女を推薦したい」

「む? キエモン。君が選り好みするような性格でないのは分かっているが、推薦するという事は何か根拠があるのか?」

「そうで御座る。単刀直入に申すと、エルミス殿の回復術はこの場に居る誰よりも優れている」


「「「…………!」」」

「キ、キエモンさん……!?」


 その言葉で辺りがザワついた。本人も含め。

 そうで御座ろう。この場にはファベル殿のような騎士団長など、騎士の階級で一番上の者も居る。

 誰もが誰も回復特化という訳では御座らんが、全ての術が上澄みも上澄みの面々。斯様かような者達を含めた上で一番と言えばこうなるのも当然だ。


「何を言っているんだ?」「そんな訳ないだろう」「この中で、何かしらの分野で1番って言う事の重さを分からないのか?」「知識不足もここまで来ると無知の極みだ」等々、口々に拙者の言葉を否定している。


「…………」

「「「……!」」」


 軍隊長殿がその様な者達を無言で制し、拙者の言葉を待つ。

 やはり上層の者は話が分かるようだな。あらゆる者達を見てきた強者つわもの。人を見る目がある。拙者自身、エルミス殿は光る物があると思うておるからな。


「昼間の妖退治の時、負傷者は多数出ていた。エルミス殿の回復術はその者達を瞬く間に癒し、完治させた。死ぬ一歩手前の者が居たにも関わらずだ。おそらくだが、エルミス殿の回復術は死者以外ならば即座に完治させる力がある」


「なんと」「そのレベルの回復魔法があるのか?」「妖……昼間のゴブリンとオークの事か」「もしそれが本当なら凄まじいぞ」


「確かにそれは重宝すべき力だな。しかし、それでも身を護る手段も持たぬ彼女を出すのは気が乗らない」


「大丈夫で御座ろう。あれ程の力を使えるのなら、経験次第でより上へと駆け上がれるという事」


「ふむ……それを糧として成長する……か」


 根拠はあるが、その根拠は半ば無理矢理でもある。

 素質は良い。更に経験を積めば本当に騎士団長に匹敵する力となろう。

 エルミス殿は頭を下げ、言葉を綴った。


「私も皆様の力になりたいんです。どうか同行を許可してください!」


「……」


 覚悟を示し、意を示す。

 彼女は自らの強さに悩んでいた。だからこそ今回の機会を経験とし、次に繋げたいのだろう。


「分かった。だが、やはり一般市民が行くのは不安。誰か一人、団長クラスを付けさせたいところだが」


「なら、ウチが行きましょーか? ガッツのある人間は嫌いじゃないんで」


「フム、珍しく君が自ら名乗り出るか。本当に彼女は何かを秘めているのかもしれないな」


 続いて名乗り出たのは、拙者も知らぬ騎士団長。この場に居る面子を見たところ、唯一の女性騎士団長で御座ろうか。

 赤髪赤目。色だけで言えばマルテ殿にも近いが、その顔付きから親戚などではないとも分かる。別方面の美人と言った所に御座ろうか。

 彼女は言葉を続ける。


「アンタ、リーヴ・エルミスだっけ? ウチはジュピテール=フォティア。4人しかいない騎士団長の一人。面倒見てやるからよろしくね」


「は、はい! フォティアさん!」


 どうやら騎士団長は四人しかおらぬらしい。そのうちの一人となると、やはり彼女もかなりの強者。

 名をジュピテール=ホテア。フテア? 言いにくい名だ。


「ジュピテール=フォティアだ。アンタもよろしく。アマガミ=キエモン!」


「……宜しくに御座る。フ……フォティア殿」


 また読まれた。

 拙者、これ程までに表情に出やすいのやもしれぬの。ヴェネレ殿にもしょっちゅう読まれている。本当に考えている事が顔に書かれているのではないかと勘繰ってしまう。


「キエモン、マルテ、エルミス、フォティア。これで四人か。後、1人か2人、名乗り出る者はおらぬか?」


「そいじゃ、俺が行きましょうか? 身内的な話になってしまいますが、俺とキエモンも親友なんで」


「サベルか。実力は少々低いが、マルテとフォティアが居るならば大丈夫だろう。数合わせには丁度良い」


「なんか今、滅茶苦茶低評価を受けたような……まあいいか。小さい事を気にしてたらストレスで死ぬし」


 人数も定まってきた頃合い、勝手に親友となったサベル殿が拙者の肩を組んで名乗り出る。

 知らぬ仲ではない。そしてまあ、おそらく戦力にもなろう。


「5人。まあ妥当だろう。戦力的にも申し分無い。では、これにて遠征メンバー選定を──」


「ちょっと待って」

「うん?」


 終わろうとしたその時、ヴェネレ殿がそれを止めた。

 軍隊長殿は小首を傾げ、周りの視線もヴェネレ殿へ集まる。


「ここは国の代表として、私も行くべきだと思う」


「なんと……!?」「ヴェネレ様が直々に?」「一体なぜ?」「確かに好奇心は旺盛だが……」「実力もあるが……」


 名乗り出たヴェネレ殿。

 周りはまたもやザワつく。今日はよくざわめいておるの。一国の王女が自ら立候補したのだからそれもそうだが。

 そんなざわめきは意に介さず、ヴェネレ殿は言葉を続ける。


「今回の遠征は“裏側”とこの国を繋ぐ架け橋になります。しかし騎士団長様が赴くとは言え、本職は戦闘であり、争いになっても打開出来てしまいます。だからこそ、王女である私が行く事によって信頼を確保します」


 ヴェネレ殿も力はあるが、それともまた違う立場的な意味での立候補。

 通達に使いを送るのは分かるが、主君自らが赴くのは滅多に無い。それはおそらくこの国でも同じ筈。それを踏まえた上でヴェネレ殿は行こうとしていた。

 普段の様子ではなく、俗に言うお姫様もーど。何処までも本気だった。


「キエモンの話を聞く限り、裏側自体に然程さほど危険も無い様子。フォティア、マルテ、キエモンの3人が護衛に居れば私の身の安全はほぼ確定したも同然。不足は無いと思われます」


「確かに理に適っている……交渉に行くなら王女という立場は重要なキーにもなる。しかしお言葉ですが、万が一貴女様の身に何かあった場合、全ての責任は彼らに向いてしまいます。それでも良いのですか?」


「大丈夫です。この為にエルミスさんが居るんですから。大怪我をしてもすぐに完治させる事が出来ましょう」


「成る程……」


 此処でヴェネレ殿はエルミス殿を名指しした。

 彼女が居れば死にさえしなければ治せる。誘拐などは気配を掴める拙者が絶対にさせぬ。

 良い状況でエルミス殿の名を出したの。これならば一抹の不安を抱かれるエルミス殿も再評価される。

 伊達に王女はしておらず、ヴェネレ殿は駆け引きも上手いようだ。


「……。分かった。ヴェネレ様の同行も許可しましょう。遠征の日、アナタ様方に頼みました」


「はい。軍隊長さん」

「遠征は3日後。皆様。その日までゆっくりとお休みください」


 ヴェネレ殿へも許可が降りる。これにて決まった遠征の面々。拙者と王女のヴェネレ殿。隊長のマルテ殿に冒険者のエルミス殿。加え、団員のサベル殿に騎士団長に位置するフォティア殿。

 不足は無い面子。三日後か。まだしばらく時間はあるの。

 遠征が決まり、来るその日まで拙者らは己の役職を続ける。


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