其の弐佰漆拾捌 if・~魔法世界の王国騎士~・下
──“三年後”。
告白の日から三年が経過し、拙者と“エルミス殿”は自分達が住む事となる新居をブランカ殿、ペトラ殿と共に探していた。
「いやぁ、みんなの都合が合って良かったよ。これでお2人さんの愛の巣をみんなで探せるってもんだ!」
「都合が合うとは一瞬疑問に思う言い回しだが、確かに同期の皆が合って良かったの」
「愛の巣って言い方は少し恥ずかしいですけどね……」
「ふふ、相変わらずですわね。ペトラさん。皆さん。配属部隊が変わっても全く変わりませんわ」
三年と言う月日を経て、拙者とエルミス殿は晴れて婚姻を結んだ。
即日に婚ぐ事はせず、先ずは恋人となりて順を追い、ゆっくりと互いに関係を進展させたのだ。
そして三年もあれば騎士団の序列も変化するというもの。
拙者は隊長から軍隊長となり、エルミス殿、ブランカ殿、ペトラ殿の三人はそれぞれ団員から隊長となって班を率いておる。
とは言え所属班の在り方は様々で、今までのようなやり方で率先して任務依頼を塾すは拙者とブランカ殿。
ペトラ殿は土魔法を買われて城の警備を中心に行い、エルミス殿は回復術から医療班として活躍しておる。
所属が違うので皆の都合が良いのは稀であり、拙者とエルミス殿の住む家を探そうという時に合ったのは幸運と言えよう。
「みんなで集まった事自体2年振りくらいだもんな~。ブランカもそろそろ良さそうな人見つけたのか?」
「真実の愛と言うものは中々現れてくれないものなのです。あーあ、こんな事なら私もキエモンさんに告白すれば良かったですわ。今からでも寝取りましょうか」
「ダ、ダメです! キエモンさんは私の想い人なので絶対にあげません!」
「拙者は物かぞ」
相変わらず賑わいを見せておるの。二年振りであっても仲の良い三人。最初の一年は見守っていた立場としてグッと来るものがある。
今の心情を句にして詠みたいが、残念ながら才能の無い拙者は思うだけに留めようぞ。
「ふふ、冗談ですわ。半分はね」
「全分であってください……せめて9割……」
「ハハハ。やっぱみんなと居ると楽しいな! けど、そろそろ不動産屋に着くぜ」
ペトラ殿に言われ、その場所へとやって来る。
この店は定期的に顔出しをしておる所。婚姻を結ぶと決めた辺りから拝見していたのだ。
此処の店主とも顔見知りであり、何度か出された任務も塾している。故に緊張はしておらぬが、如何様な物件があるか。改めて見極めるとしよう。
拙者らは店へと入った。
「いらっしゃーい。っと、キエモンさん達か。全員お揃いって事は……遂に家を買うんだな?」
「うむ。拙者は富豪では御座らんが、二人……後に増えるとして数人は暮らせる家を購入出来るだけの貯えはしておいたぞ」
「ハッハッハ! キエモンさんが言うなら本当だろうな! いいぜ。カタログあるから見ていってくれ!」
そう告げた店主は魔道具を取り出し、そこから様々な物件を映し出した。
基本は煉瓦造りの物だが、木造の物などもあったりする。然し此処は基本的な家屋で良いかもしれぬな。
“シャラン・トリュ・ウェーテ”では地震等の被害は殆ど無く、自然災害も少ない。加え、邪悪の騒動以降月の民達の協力もありて永続的な魔力から建物が作られる事となったのだ。強度の心配は無かろう。
「如何する? エルミス殿」
「どれも良さそうですねぇ」
「良さそうと考えた物は全部買っちゃって、残りを別荘にすれば良いじゃない」
「お嬢様思考も相変わらずだなー。ブランカは」
どれにするかは迷い処。なればブランカ殿の言うように全てを購入した上で住み心地を確かめられるのなら良いが、拙者らにそこまでの貯えは御座らん。
何件かは購入出来るだけの貯金もあるが、別荘などにも興味が御座らんからな。後に様々な費用も掛かる事を惟、なるべく残しておきたいものよ。
「迷っているのなら確認して行きますか? カタログで眺めるのと実際に入るのは違うでしょうし!」
「そうよの。行ってみるか、皆の者。百聞は一見にしかずとも言う」
「百聞? けど、確かにそうですね。見てみるのは良いかもしれません」
「そうですわね。確認は重要ですわ」
「賛成ー!」
一先ず店主の申した通り行ってみる事とする。
その案内の元、拙者らは箒。もしくは徒歩にて移動を開始した。
「相変わらずですわね。キエモンさんの身体能力。悪魔の力無くしてこれですものね」
「だよなぁ。私達なんて魔力込めてほうきに乗っての二度手間だもん」
「いやはや、空を飛べるというのは良い事ではないか。ただ走るともまた違った赴きがあろう」
軽く話ながら行き、幾つかの物件を見やる。
あまり豪邸過ぎるのも気が引けるが、一人二人しか暮らせぬというのも問題。故に丁度良さそうな家屋を探す。
間取りや日当たり。その他の事柄に着目し、拙者らは一つの場所へと目を付けた。
「ここなんか良さそうですね。それなりに広く、日当たりも良好です」
「そうよの。近くに色々と店もある。社交性も学べよう」
「それでいてそこまで騒がしくもありませんもんね。環境はバッチリです!」
拙者とエルミス殿が選んだ家屋は、見た目は他の物と大きく違う訳でもない普通の物。然れど理想的な環境であり、職場である城とも近い。
これは決まりだの。
「お決めになりましたか?」
「うむ、此処にしよう。一度目を付ければ即断即決よ」
「かしこまりました」
「へえ、ここかー。良い感じの場所だな!」
「私の別荘とも距離が近いですわね。ふふ、少し嬉しいですわ♪」
今回購入したは一軒家。このまま城に世話になり続けるのも悪いからの。それなりの地位となった今、拙者とエルミス殿が使っていた部屋は新たな騎士の為に空けておくのが良かろう。
無論、何かあれば即座に駆け付けるつもりよ。
「ふふ、ついに始まりますね。キエモンさん。私達の同棲が!」
「夫婦となったのだから当然だろうに」
「えへへ、そうでした♪」
これで手続きは終了。これから子も生まれ、一層賑わいを見せる事だろう。
必ず共に幸福となり、日々を過ごすとしよう。
*****
──“数年後”。
「今宵、魔族の姫と人間の騎士、その婚礼の儀を挙げます」
告白の日から数年が経過し、世間から見て正当な婚姻年齢になった“サン殿”と拙者の挙式が執り行われる日となった。
式を挙げる時刻は夜。それが魔族のしきたりとの事。
大きくなり、女性らしい体つきとなったサン殿が魔族の正装に身を包み、花束を持って現れる。ゆっくりとその顔を上げた。
「ふふ、今日は宜しくお願いします。キエモン」
「随分と成長したの。今更だが、誠に良いのか? 拙者と主ら魔族の寿命は違かろう」
「ええ。構わないのじゃ……ではなく、構いません。妾が母君、父君と共に居れた日は短かった。今から最長で60~70は共に居られる貴方とは望みじゃ……です」
「その話し方に慣れておらぬの」
「ハハハ……」
正式な場なので言葉を改めているが、幼少期からの話し方の癖はそう変わらず、サン殿も苦労しておられる。
然し魔族の寿命は数百年と聞く。果たして拙者が何処まで生きられるかは存ぜぬな。
「ともかく、今日は目出度い日です。これからも末永く宜しくな。キエモン!」
「そうよの。人間と魔族の架け橋……という程でも御座らんか。既に魔族への偏見は無くなっているのだからの。だが婚姻の前列は無い。足掛けにはなろうぞ」
「そうですな!」
「入り交じって変な言葉遣いになっておるぞ」
立派な姿だが、内面は変わらぬ。いつもの明るきサン殿の儘よ。
彼女と共に拙者は式場へ入り、互いに向き直る。式の口上が述べられ、拙者らは接吻を交わした。
その挙式後。
「ふぅ~。お堅い衣装は慣れぬのぅ。キエモン」
「そうよの。魔族の正装と拙者の故郷での正装。この正装同士が釣り合っておらず、新郎新婦が互いに浮くと言う珍妙な事態に陥ってしまった」
「全くじゃ。けどそれもまた良いな。キエモン! 妾らの子供は人間と魔族のハーフ! 妾はバンバン産んで魔族を発展させるぞ!」
「そうか。苦労が多いのはどちらかも分からぬな」
式が終わったは良いが、まだまだやる事も色々とある様子。両者ともに苦労は絶えぬが、人間と魔族の関係がより良い方向へ進むのならそれが良し。
拙者とサン殿は魔族の国の城へと入って行くのであった。
*****
──“一ヶ月後”。
皆に告白されてから一月が経過していた。
あの時選んだ拙者の結論が合っていたのか、それは今でも分からぬ。もっと別の方法があったかもしれぬ。
拙者は城へと帰還し、門を潜って城内へと入った。
「……今お帰り申した。皆の者」
「お帰り! キエモン!」
「お帰り……鬼右衛門……」
「フッ、帰ったか。私も今任務を終えたところだ」
「私もどんどん回復魔法の効力が上がってますよ!」
「妾も闇魔法が更なる形となったぞ! 今日もA級相当の魔物を魔力弾で一撃じゃ!」
出迎えてくれるはヴェネレ殿、セレーネ殿、マルテ殿にエルミス殿、サン殿の五人。
何とも情けなし。皆を心の底から好いておる拙者は誰か一人を選ぶなど到底出来ず、つい皆の手を取ってしまった。近頃の拙者は情けない姿が目立つの。
彼女らは納得しているが、皆美しき方々。思いを寄せる者は大勢居よう。斯様な者達を全員選ぶなど、なんとも罰当たりか。拙者の故郷では殿様でもなければ死罪か金的を切り落とされる重罪ぞ。
場所が違えば理も違う。とは言え、その場所で生まれ育った拙者は現世での法が今も染み付いておるのだ。
果たしてこの選択は正解なのか、全く以て存ぜぬ。
「然し、ヴェネレ殿。主は大勢の女性を侍らす不埒な不届き者を嫌ってはいなかったかの。拙者の選択を責めはせぬのか?」
「うん。ハーレムとかは品が無くて嫌いだよ。だけど、そう言う悪い人達は女性を物としか見ていないでしょ? 私が嫌いなのはその辺。だからキエモンは例外だよ……ふふ、私もみんなが好きだから個人的な私情は多分に入ってるけどね♪ 我ながら自分勝手!」
「当人である主らが納得してくれているのなら良いが……やはり拙者としては腑に落ちぬ」
「自分で選んでおいて勝手だな。キエモンのその身勝手な思考は変わらないか」
「そう言われると参るの……」
ヴェネレ殿の意見を聞き、マルテ殿に言いくるめられてしまった。
確かに選んだのは拙者自身。その上で彼女らを否定するなど自己中心的にも程がある。考えを改めねばならぬな。
そこへセレーネ殿が口を開いた。
「取り敢えず……鬼右衛門がみんなを選んだなら全員と結婚するんだよね……」
「……そうなるの。男に二言は無い。……最近はチラホラ二言もあったが、拙者はもう迷わぬぞ」
「フッ、それは良かった。そうなると最初の第一子は誰が産むかだな」
「子供か? だったら妾が先に作るぞーっ!」
「サンちゃんが言うと年齢的にちょっと洒落になりませんね……そ、そんな先の話より、今後はどんな感じになるかの話し合いをしませんか?」
「うん、そうだね。国民や他の人達は納得してくれたから……後は場所の手配だね! 何より先に復興だけど!」
セレーネ殿への拙者の返答に対し、マルテ殿、サン殿にエルミス殿、ヴェネレ殿が話す。
復興が第一優先事項なのは変わらず、その後についての話し合いも後々行っていくとしようぞ。
「楽しみだね。これからどうなるのか!」
「うん……みんなが一緒なのは素直に嬉しい……」
「ああ。これからの生活も今まで以上に楽しくなりそうだな」
「ふふ、そうですね♪ ……あれ? 思いましたけど、全員お城に住んでいるので今までと生活スタイルはそんなに変わらないような……」
「これからもみんなが側に居られるのは嬉しいぞーっ!」
彼女らはすっかり乗り気である。とは言え選んだのは拙者。既に決めた腹。
なればそれに従い、共に生きていく気概。
それこそが今やるべき事である。
何はともあれ帰城した。既に夕暮れ。腹も減っておる。今後の事に思いを馳せつつ、皆で共に食事を摂るのだった。
*****
──今までの此れは全て、告白後に誰を選ぶかによって起こるであろう分岐。其の未来。先の可能性。
この世界に転生してから全ての運命を決められていたが、此処からは拙者自身が己の意思で切り開くべきモノ。
誰と共に斯様な第二の人生を歩むか。その未来は多岐に渡って存在致す。
どの道が選ばれようと、鬼神となったサムライの拙者は、魔法世界の王国騎士として選択した道を進み行くのみ。
其れが拙者の決めた道。俗に言う武士道、騎士道がそうなり申した。
──さてもこれまで。現の夢が如き摩訶不思議な魔法世界の物語。これにて終演とする。
拙者とこの世界の民達は、いつまでも幸せに暮らすのであった。
めでたし。めでたし。




