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其の弐佰漆拾参 全力

「……」

【ヌゥ……!】


 踏み込み、加速。刀を振り抜いてけしかけ、アクは受け止めるが怯みを見せた。

 やはり全体的な能力が高まっておる。これも闇魔法の賜物。

 前進、振り下ろし、迫り、突き、下がり、斬り上げ、歩武ほぶしながら左右から斬り抜く。

 一連の流れで手足を切断して体も縦に両断した。


【そろそろ持たないな……。煩わしい者達だ】

「それが誠かは存ぜぬが、そうだとすれば有り難いの」


 アクに弱りが見え始めておる。あれ程の傷を負ったのだから当然だろう。

 それすら嘘の可能性もあるが、先程までの覇気が無くなっているのも事実。おそらく今回ばかりは嘘ではなかろう。


「………」

【より鋭く……! お前達は自動回復なのに我がそうではないとはズルいではないか】

「主がそう申すか」


 確かに光魔法で回復するのはいささか狡いかもしれぬな。

 だが奴も此処まで回復はしておる。再生力を無効化した上でだ。

 最終的には互いにそう変わらなかろう。


「“暗黒戦槍”!」

「“ライトニングランス”!」


【本物と疑似の合わせ技か……!】


 イアン殿とトゥミラ殿が闇と光を放ち、アクの体を射抜く。

 今回はしかと貫通し、確実な手傷を与えられた。


「今の僕なら更に速く動ける」

【No.5】


 ファイ殿が超速で迫り、アクの体を殴り飛ばした。

 直進する最中さなかで追い付きて上から打ち付け、空間に大きな穴を空けて沈める。


【小癪……!】

「“岩上天突”!」

「“暴風突波”!」

【……ッ!】


 穴の底から大岩が突き出し、そこ目掛けて暴風が放たれる。

 大岩は砕け散りてアクの体は更に吹き飛び、挟み込むように炎と水が迫った。


【騎士団長四人が先程より面倒になったな先程は吹けば飛ぶ羽虫同然だったと言うに】


「羽虫とは失敬だね」

「マジで失礼しちゃう!」


 皆が対等に戦えるようになった。こうなれば戦局は数の多い方へ傾く。

 現世にて戦で多く体験した事柄。強き者数人と戦えるだけの有象無象が千人だとしても有象無象が勝利するのが戦。

 一騎当千は化け物となり、万人相手では絶対に勝てぬ。だからこその鬼神。だからこそ拙者は現人神を謳われるようになった。

 対等な実力者十数人と自称絶対者一人が相手では結末は分かり切っておる。問題はそれまでに出る犠牲よの。


「“千頭槍樹”!」

「“ダークエンブレム・チェイン”!」


【ぐっ……!】


 フロル殿が無数の樹々にて仕掛け、レーナ殿が連鎖する紋様を召喚。

 動きが制限されて固まり、そこへヴェネレ殿とセレーネ殿、マルテ殿とエルミス殿、サン殿の五人がけしかけた。


「“シャイニングファイア”!」

「技名……“光の球”……でいいかな」

「“アクアウィンド”!」

「“フレイムランス”!」

「“超絶ハイパーマックスオーハーザクラッシャーッ!”」


 光の焔、光球、風によって形を変える水、火の槍。そして相変わらずの命名からなる魔力の放出。

 それらの力が動きを止められたアクに向かい、その体を飲み込んで空間を大きく抉り取った。


「みんなで仕掛けた一斉攻撃……」

「果たして……」

「どうでしょう……」

「分かんない……」

「少しは効いたかーっ!」


 アクの居た方面を皆で見やる。

 気配を探るがそれは感じぬ。然し妙な胸騒ぎがあるの。

 そもそも、奴が気配程度、消せぬ筈があるだろうか。

 その答えは今、


【ァア……効いたよ……マジで死にかけた……! この人間ゴミ共が……!】


「「……ッ!」」


「なんと……!」

「ファベルさん! リュゼさん!」


 突如として現れ、ファベル殿とリュゼ殿の体を貫いた。

 狙いは中距離に居た二人。近距離では警戒されており、遠距離では時間が掛かる。それを判断した上で中距離の二人を狙ったのだろう。

 今まで気配を消さなかったのはこの為か。最も殺めたいと思っている拙者とヴェネレ殿、セレーネ殿にサン殿は固まっておるので諦め、他の者へ意識を移したと。


「ぬぅ……!」

「これはマズイね……年季の入った家を襲う嵐のように……」


【消えろ!】


 魔力を暴発させ、二人の体を消し飛ばした。

 拙者らもアクと同様、光魔法の効果もあり一撃で消滅させなければ再生する。それを止めたのだろう。……またしても仲間がやられてしもうた。


【クク……もう他の者はやらせないと言っていたな? その口で確かに言っていた。だが、そうはならなかった。元より誰も死なず戦闘が終わるとは考えていなかっただろうが、実感するとまた感覚は】


「……」


【違……チッ、面倒な……!】


 首をねたかったが、そうはならなかった。

 だが今までを思えば首をねたところで動くだろう。やはり完膚無きまで消さねばならぬようだ。

 切断した体を繋ぎ合わせ、奴は次なる行動へと移る。


【やはり意識を逸らすのが重要か】

「……! 霧……!」

「錯乱させようと言う魂胆か」


 辺りを濃霧で包み込み、自身は姿と気配を消し去る。

 即座に刀や魔法を撃ち込みて霧を晴らし、いち早くアクを探る。気配では見つからぬのならその姿を追う他あるまい。

 空間を移動するのもまた難儀だが、おそらく今は使えぬ状況。何故ならそれをもちいて脱出しようとしておらぬからだ。

 人々の悲鳴を聞くのなら覚悟が決まっておるこの場に居る者達は不相応。元よりこの空間から脱せば拙者が後を追うのも分かっている。なのでアクの性格上、離れぬ手はなかろう。

 それをせぬ時点で光と闇に覆われたこの空間に居るのは確定しておる。


【ガァッ!】

「……! そこか……!」


 狙いを次元魔導団の者達へ変更。

 現れなければ攻撃は出来ぬが為に者達は反応を示し、拙者もそちらを見定めて力を入れ、空間を踏み砕いてそちらへ刃を斬り付けた。


【もっとゆっくり来い……!】

「ゆっくりしていては更に仲間を失う」


 振り下ろし、防がれ、足元を砕いて撒き散らす。

 その粉塵もアクの有利となるので消し去り、次元魔導団の者達もけしかけた。


「ヨチの仇だ……!」

【No.5。力の付与で我と対等の身体能力となったか。面倒な奴だ】


 先陣を切ってファイ殿が迫り、先程よりも遥かに高い速度で接触。

 ファイ殿は拳を打ち込み、腕にて守護される。だが空いた腹部を蹴り抜き、アクの体を吹き飛ばした。

 そこ目掛けて光と闇と空間斬撃が迫りて四肢を消し去り、即座に塞ぐ。アクは拳を構えて打ち出し、イアン殿らの体が風圧によって吹き飛ばされた。

 だが刀を足元に突き刺して堪えた拙者は飛ばずに駆け、其の刀を振り下ろす。アクは魔力からなる刃で受け止め、再びファイ殿が懐へ踏み込んでアクの体を殴り飛ばした。


【……ッ! 多勢に無勢か……!】

「“聖樹剣山”!」

「“ダークエンブレム・サンダー”!」

【……!】


 吹き飛んだ先に待ち構えるは大樹からなる剣山。アクの前進に突き刺さり、周りを覆う紋様が其の体を感電させた。

 度重なる連撃によって流石に堪えたのかアクは周りを吹き飛ばし、今一度姿を消す。

 回復に専念するつもりだろうが、そうはさせぬ。


「今の動きは見切った……!」

【……ガハッ……!】


 縦に切り裂き、透明となっていたアクへ手傷を与える。

 姿を消し、気配も消す。存在その物の物理的な抹消。道理で此処では空間移動が使えぬ筈なのに突如として姿を現したりしていた訳だ。


「遂に治らぬ傷を与えられたようだの」

【今までも治ってはいない……ただ傷口を埋めていただけだ……!】

「それをせぬという事は、限界も近いの」


 即座に切り返して二度斬り、黒い何かが噴き出す。

 アクは回し蹴りを放つがそれを鞘で受け、魔力を込めて爆発を引き起こした。

 また煙に紛れるのは想定内。故に斬り消し、アクの腹部へ刀を突き刺した。


【……ッ! お前……!】

「……!」


 その直後に腕が千切り飛ばされ、痛みを感じた瞬間に光魔法によって治癒。

 だが刀を失ってしまったの。徒手空拳は専門外なのだがの。


【吹き飛べ!】

「……ッ!」


 拳が打ち込まれ、拙者の体が遥か彼方へ吹き飛ぶ。

 そこへトゥミラ殿とファイ殿が追い付き、拙者の体を支えてくれた。


「手間を掛けさせるな」

「全くだ。キエモン」

「お二方、忝ない」


 あのまま飛ばされていては何処まで行っていたか分からなかった。この広い空間で探し出すのは困難。二人には誠に感謝せねばな。

 礼を言った直後に追撃が来る。


【光速以上で吹き飛んだ人間に追い付くか!】

「「……!」」


 言葉を発したのは回し蹴りにて拙者らを蹴散らした後。

 片手の形を刃とし、まだ立ち上がらぬ拙者へ突き下ろす。


【チィ……邪魔立てを……!】

「ガハッ……!」

「ファイ殿!」


 それを受け止めるはファイ殿。

 まさか他者を護るべき拙者が他人に護られるとは。不甲斐なし……!

 いや、それも傲慢な発言。此処は礼を述べ、


【失せろ】

「──」

「……!」


 るよりも前に消し去られた。

 回復を思えば当然。受け止めた刹那にも満たぬ出来事。これは全て拙者の所為。

 拙者が早くに此奴を仕留めておけば。己が誠に情け無し。穴があったら入りたいが、既に多くの命を奪い数多あまたの犠牲の上に成り立っている拙者が目の前の事柄から逃げ出す事なぞ許されざる事。神も仏も閻魔様も世界中の生き物全てが許さぬだろう。

 唇から血が出る程に歯を食い縛り、アクに刺さった刀を抜いて引き離した。


「貴様は確実に……!」

【それは此方の台詞だ!】


 互いの言葉を言い終えるよりも前に攻撃は完了していた。

 また拙者の右腕が無くなり、アクの左手が斬り飛んだ。

 拙者もアクも再生が追い付いておらぬな。やはり光魔法も消費型に御座ったか。


【こうなったら……残った全ての力をこの空間全体へ……!】

「それを阻止し、貴様を確実に葬り去る!」


 魔力と鬼神を込め、拙者らの近くに来た他の者達も魔力を込める。

 目の前でまた仲間を失ったトゥミラ殿にも悲しみの表情が窺えられるが、彼女もまたこらえ、この一撃に全てを賭けるようだ。


【世界その物を消し去れ……! “ビッグバン”!】


「──全ての存在を包む光の力よ。その力を以て巨悪を滅せよ! “神の裁きの光パージ・オブ・シャイニング”!」

「──全ての存在を飲み込む闇の力よ。その力を以て何者も寄せ付けるな。“暗黒大星雲”!」

「──全てを支配する我が空間。敵を完全に消し去る……! “亜空斬”!」

「皆様の仇ですわ……!」

「少しでもアクの影響を無効化します……!」

「No.8ならきっと、ボクが幸運でやるべき事を示していた……! こうだ!」

「この空間にあの子達は連れてきてない……けど……あんなゴミ、私で十分……!」

「この空間なら問題無いな。“ブラックホール”!」


「ファベル君とリュゼ君の仇は討つよ。──水の精霊よ。その力を付与し、悪を全て洗い流せ。“大水王海+ウンディーネ”!」

「絶対に許さない……! ──火の精霊よ。その力を付与し、悪を焼き殺して断罪する。“轟炎燦火+サラマンダー”!」


「──母なる大地よ。女神の大樹よ。聖なる力で悪を滅する。“聖樹精世”!」

「──我が支配する世の理を手中へ。我の存在を証明する。“ダークエンブレム・キング”!」


「終わらせる……! 多くの犠牲が出たこの戦いを……! ──聖なる光よ。始まりの火よ。2つの力で罰を与えん! “光炎火流”!」

「──聖なる光……神仏の光……。ただ相手を飲み込む……。“シャイニングレイ”」

「──火の精霊よ。天の焔よ。その力を放出し、敵を焼き払え! “ザ・サン”」

「──周りの方へ癒しを。そして敵へ制裁を。“パニッシュメント”!」

「絶対に許さぬあの悪者を懲らしめよ! “超究極最強完全無欠のミラクルパーフェクト……ダークマター”!」



「──天神鬼右衛門……参る……!」



 あらゆる属性。あらゆる力。あらゆる因果。

 その全てが光と闇と鬼にて強化され、アクの放ったビッグバンとやらと正面衝突を起こす。

 破壊の余波は空間全体を包み、光と闇によって護られているにも関わらず崩れ落ちるように消滅する。



 ──拙者らは全員が飲み込まれ、空間は完全崩壊を喫した。



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