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其の弐佰陸拾捌 付与

【先ずは前哨戦だ。お前の記憶からすれば矢合わせと言ったところだな!】


 そう告げて赤い星の欠片を魔力にて引き寄せ、拙者ら目掛けて撃ち放つ。

 高速で破片は直進し、その全てを拙者は断ち斬る。直後に耐え切れなくなった赤い星は内部から破裂するように爆発し、その爆風と熱に衝撃。空間の歪みを斬り伏せる。


「足場が赤い星の僅かな欠片だけになってしまったの」

「大丈夫……。空中浮遊は基礎の魔法だから……!」


 赤い星の欠片を操りて飛び、アクとの距離を詰め寄る。

 真っ暗な宇宙空間。前後も左右も上下も分からぬが、奴の気配だけは感じられる。

 それを糸として伝い、構わず進み行く。


【動きが制限されているな! 空間から空間へと自在に動き回れる我が圧倒的に有利よ!】

「……やはり主よりかはサクの方が幾分マシなようだの」

【なんだと!? あの格下以下と申すか!?】

「今そう告げた」


 有利不利は勝敗に関係無い。サクはその様な事を申しておった。

 今の此奴を見ると誠にそうであると理解出来る。喩え如何なる状況であったとしても、拙者がアクをほふる世界は変わらぬのだから。


【死に損ないが戯れ言を。圧倒的力の差を思い知るがいい!】


 魔力を込め、塊を顕現。

 刹那にそれを撃ち出し、拙者らの背後を消し飛ばした。

 既に昼間の戦闘で周囲にあった星の数は減っておる。これもまた今更に御座ろう。


【周りには武器が色々とある。宇宙とは便利な物だな!】


 魔力を伸ばし、遠方の星々を引き寄せる。それを振り回し、巨大な惑星が拙者らの前へ迫り来た。


「キ、キエモン……ぶつかったら一大事だよ……」

「案ずるな。ヴェネレ殿にはもう手を出させぬ」


 迫った星。その大きさは地上や赤い星よりかは小さいが、それでも十分な物。

 故に星を斬り、拙者とヴェネレ殿へ降り掛かる火の粉を払った。

 

【弾はまだまだあるぞ! 言うなれば隕石のマシンガンだ!】


 いずれも巨大な星。それが無数に弾丸の如く迫り来る。

 隕石のましんがんとな。乱射させる銃という事かの。隕石群がそれによって放たれるのは厄介だが、己に降り掛かる物だけを斬れば良いので見た目程キツくは御座らん。


【隕石程度では少し硬さが足りないか。大気に触れたくらいで半分以下の大きさになる物だしな。硬さ、柔軟さ、耐熱……その他色々。考えうる頑丈な代物で仕掛けよう。速度は……まあ、ジャブ程度だから軽く光速で行こう】


「……!」

「……」


 気付いた時、拙者は刀にて隕石をいなしていた。

 意識よりも先に手が出たの。然れど完全に断ち斬る事は敵わなかった。故のいなし。

 拙者がまだ力に気付き立てで未熟なのもあるが、単純に頑丈な物よ。


【フム、これなら少しは効果的か。直ぐに慣れるとは思うが。暫くはこれで遊……と、また遊ぼうとしてしまった。我の悪い癖よ】


「主の悪い所は存在全てであろう」


【相変わらず辛辣な奴だ。一応お前は他の人間ゴミと同義には扱っていないのだぞ。王女も然り、ちゃんと接してやっている事へ感謝せい】


「今の言い分を聞いて感謝する理由が何処にある」


 先程の隕石を更に放出。全てを反射的に弾き飛ばし、近くにあった大きな惑星が吹き飛んだ。

 妙な惑星よ。大地が無く霞みの如く消え去ったぞ。


【ガス惑星なら太陽の1/10程の大きさを消滅させられるか。まあ我なれば太陽その物も消せるが、それは後のお楽しみだ。最後はやはり宇宙でも消し去り、新たな生命を生み出すのも悪くないな】


「主の目的は誠になんぞ。全てを破壊する事を目標にしているのは分かるが、その後に待つのは長き退屈のみ。生命を生み出すと言えど形になるまで永久にも匹敵する悠久の時を過ごさねばなるまい。それでは主の性格上、直ぐに飽きてしまおう」


【どうでもいいね! 折角世に出たんだ! だったら消滅するまで楽しむだけだ!】


 目を見開き、高らかに笑いながら片手を突き出した。真っ暗なそれを差し、アクは話す。


【お前にも我と同じく経験があるだろう。一欠片あるだけで星が飲み込まれ、いずれ太陽も飲み込む。そう、ブラックホールを……!】


「……」

「ブラックホール……!」


 ジュウ殿も以前使おうとした現象、ブラックホールとやら。

 確か凄く吸い込むらしいの。それ以上の詳細は知らぬ。

 アクは更に続けた。


【大きさは少し小さめで直径10㎞程度。それでもこの辺りを飲み込むには十分。光も逃さず吸い込み続ける宇宙の便利なゴミ箱だ。本来ならこんなに話す時間もない。既に斬ったか】


「その様だの。光よりも速いらしいが、拙者の反応はそれ以上のようだ」


【まあ、さっきからそうだったからな】


「何が起こったのか分からなかった……」


 ブラックホールとやらも断ち、ヴェネレ殿の魔力操作によって赤い星の欠片と共にアクの元へ向かい行く。


【そんなスローな動きで我に付いてこれるか? 音速にも満たぬ亀のような速度よ!】


「……っ。言い返せない……!」

「気にするでない。主のお陰で戦えておるのだからな。そも、亀はもっと遅かろう」

「アハハ……確かに亀よりは速いね……」


【言葉の綾に決まっているだろう。そのまんまの意味で受け取るでない】


 刀を振りかぶり、アクはそれをかわして片手を翳し無数の闇を寄越す。

 宇宙空間と言うものは現世で縁が無かったが、予想よりも遥かに暗いの。闇を放たるるとず目視では回避が難しい。

 無意識下、及び死の窮地によって集中力で全てを防げるが、何度か述べたように今の拙者は長期戦には持たぬからな。

 今現在、ヴェネレ殿の回復術にて何とか持ちこたえている状態よ。


【隕石、星の爆発、ブラックホール。その全ては防がれたな。宇宙放射線は月の民による膜により通っていない。後はどの様な自然現象があったか……色々と試してみたいからな。思い付いたらやっていこう】


「……」


 そう告げた時、周囲の気温が一気に低下した。

 今度は寒さで仕掛けてきたようだの。セリニ殿の結界のお陰で多少は抑えられているが、それでも凄まじきもの。このままでは凍えてしまう。

 拙者は構わぬが、ヴェネレ殿を凍えさせる訳にはいかぬ。


【絶対零度。まあ月の民との戦闘で体験済みだったな。だがあの時と違って一部だけじゃなく全体がそうなっている。元々気温が極限まで低い宇宙空間だからな。今回の気温を斬ったところで月の民が掛けたまじないも消える事になろう。お前達の行く末はいずれも死よ】


「……」

「大丈夫……キエモン。私の得意魔法はずっと炎魔法だから……!」


 そう告げ、刀を持つ拙者の手を握るように乗せ、ヴェネレ殿は拙者に重なる形となる。

 瞬時に放たれる小さな炎魔法。拙者の体を熱が覆い、次第に体温が戻った。

 この熱を付与するやり方。もしや拙者もやれるかもしれぬな。


「忝ない。ヴェネレ殿」

「うん……だけど傷口は見ての通りだから……長くは持たないよ……」

「それは拙者も同義。ほんの少しの時間を与えるだけで動けるなら良しぞ」


 防ぎ切れぬ寒さが却って傷口を凍らせ、ヴェネレ殿の継続的な回復術によって寿命は延びておる。

 今のうちに思い付いた事を試してみようか。


「ヴェネレ殿。まま拙者へ密着していてくれ。拙者に考えがある」


「……? うん……。……って……そう言えば私……キエモンにずっと触れてる……」


 後半の方に何故か紅潮したヴェネレ殿だが、おそらく体温を魔法で高めて効力を上げておるのだろう。

 その様なヴェネレ殿へ向け、鬼神としての力を放出した。


「……! これは……」


「おそらくだが拙者の力。それを今のヴェネレ殿のように付与した。これで能力も多少は上がる筈よ」


「……確かに……なんだか体が軽いかも……凄く痛くて動悸と息切れが収まらないのは変わらないけど……」


 魔力を付与するよう、鬼神の力を与える。

 これが如何様な効果を示すかは初の試み故に存ぜぬが、彼女の負担を少しでも軽くしてやる事は出来よう。

 炎の回復術も相まり、まだ暫く戦える。既にアクも準備をしていた。


【パワーアップか。それも良い。やはりラスボスは強くなってなんぼだろうからな。正々堂々とした勝負なんざどうでもいいが、自分が強くなったと勘違いするバカを嬲るのは面白い。お前達はそんなバカとは違ってくれよ】


「……」

「これなら……!」


 ヴェネレ殿が赤い星の欠片を操り、拙者らはアクの間合いへ詰める。

 無尽の刃が迫りてその全てをいなし、アクの脇腹を切り裂いた。


【……ッ! やはりバカとは違うか……! なればこれだ!】

「……!」


 瞬き、拙者らの体は先程と別。高熱に包まれる。

 刹那には世界が揺らぎ、真っ暗だった宇宙が真っ白に染まった。


【超新星爆発。10光年の範囲を高熱で覆うものだ。時間経過と共に温度は更に高まり、1000万度から1億度まで一気に広がる。温度は何百から何億年と時間を掛けて高まるが、我なれば一瞬で最高温度に到達させる事も可能。……まあ安心しろ。範囲は地上に及ばぬよう調整してある。それなりに近い場所で高温を放てば影響が及ぶ筈だが、その物理法則はねじ曲げた】


「……そうか」

「……あれ? 生きてる……」


【……クク、何億度だろうと斬るか。範囲を狭めたのがダメだったな。確かにこれじゃ超新星爆発じゃなくただの高温の火球だった】


 何かを説明するが、拙者の頭では理解が難しいの。かく熱い何かを斬ったと認識しておこう。

 今の拙者らは時間が少ないが、対等以上には渡り合える。


【見たところ調子が悪そうだな。一体誰の仕業か。このまま逃げ勝つ事も出来るが、一度目を付けて完膚無きまでに潰せぬのはポリシーに反する。前哨戦は此処までとし、最終戦へと持ち込むか】


「そうか」

「……っ。最終戦……」


 拙者らの様子を見、ケリを付けようと動き出す。

 短期戦へと持ち込まれるのは助かる。状況が状況だからの。とは言え、まだ最終局面と言う雰囲気でも御座らんが。最後の少し前と言ったところか。

 ヴェネレ殿に鬼神の力を付与し、立ち合いが続行される。

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