其の弐佰陸拾壱 全員集合
「……! いつの間にか俺達が別の場所に移動しているな。No.4が動かしたのか。move」
「だが時間停止を解除しても魔神はそのまま。奴も停止空間を動けるようだな」
イアン殿らが気付き、この場の状況をイアン殿とトゥミラ殿で推察する。
空を切った魔力は天上に消え去り、既に次なる刃が迫っていた。
「先程の在り方を見る限り、やはり私には如何なる異能も通じないのでしょう」
【フム、特異体質の者よ】
その刃を前にムツ殿が立ちはだかり、触れるだけで消失させる。
あらゆる妖術を無効化させる彼の体質。それによって幾つかは減り、他の刃をいなしながらサクへと刀を振り下ろす。
それを飛び退いて躱し、追撃をするよう闇と光が伸び迫った。
【珍しい闇魔法と光魔法の使い手だが、本物とはまた違うようだな。我には通らぬ】
いつかの拙者が行ったよう、二つの魔法も斬り防ぐ。
やはり目に見えている力は防がれるか。他の騎士達や兵士達は依然として遠方から撃ち込んでいるが効果は薄い。此処に来て先手を打たれた弊害が来ておるの。
「……」
【来るか……!】
駆け出し、一刀。弾かれ、そこから連続で叩き付ける。
幾度と無く行われた剣戟だが、一向に進展せぬな。
数は此方が有利となっているが、基本は攻撃の打ち合い。攻撃が来れば防ぐか避け、攻撃を仕掛ければ防がれるか回避され、その立ち回りを延々と錯覚するが如く執り行われる。
然しそろそろの筈だの。
【……強めの魔力が複数か。うち幾つかは前に感じ取ったものだ】
大きな魔力の塊が正面から迫り、大地を抉りながら直進。地面から大樹が生え、紋様が全方位に生み出される。
サク自身も身に覚えのある魔法を感じ取っているようだの。
それらを黒き刃で断ち斬り、気配の方へと鞭を伸ばす。
【魔族の……王的な者か。そしてエルフと我に利用されたダークエルフ。その他大勢の同族と言ったところだな】
「むぅ、妾の魔術が防がれたのじゃ~っ!」
「私達の事も覚えているようなのだ」
「私の覚えられ方は癪だけどね」
サン殿、フロル殿にレーナ殿。
サクの放出した鞭によって縛られる三人だが、サン殿が魔力の放出のみで打ち破り、者達は地に降り立った。
【我の魔力を同じ魔力で押し退けるか。大した魔力を有しているな。魔族の王よ】
「妾はどちらかと言えば姫じゃ!」
【そうか。魔族の姫よ】
サン殿の有する魔力量にはサクも反応を示す程。流石よの。
既に星の国と魔族、エルフ、ダークエルフの者達へ伝令は届いておる。ともすればエルミス殿らも行動を起こしている事だろう。
月との距離が近付き、向こうの様子は不明な儘。仮に生きていればエルミス殿が回復術にて何とかしてくれている筈よ。
拙者は前の魔神へ集中するのみ。
【面白そうだ。まずはお前から試したい。“斬突”】
「うおおお!!! “超究極以下略魔術”!!!」
読んで字の如く星を貫いた槍がサン殿に向かって突き進み、彼女もいつも通りの魔術で対応。
二つの衝撃はぶつかり合い、周りにある物全てを吹き飛ばして更地と変えた。
危なかったの。今の数瞬でこの場に居た皆が防御の態勢に入った。それによって星は砕けず、辺りが更地となるだけで済んだようだ。
余波で流れていた溶岩も消え去り、そろそろエスパシオ殿とファベル殿も戻ってくるだろう。
【フフフ、我の魔力と正面から打ち合えるか。久しく見ぬ存在よ。お前……いや、貴様から相手にするのも面白そうだ】
「なんじゃとー!? 妾はおもちゃじゃないぞー!」
人称を呼び変えるサク。
もしや此奴、認めた者は“貴様”と告げるのか。二つの意味合いのある言葉だが、尊重の意を込めたものだったのかもしれぬ。
【我にとって全生物は暇潰し用の玩具に等しきモノよ】
「負けるかー!」
ユラユラと揺れる刃が現れ、撓りつつ周囲の空間を切り裂きながらサン殿へ向かう。
余波のみで世界が歪んでおる。周りへ被害が及び兼ねんな。
「────“超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超究極凄い魔術”!」
【もはや詠唱破棄に等しいな。そもそもその長き言葉、よく我の刃へ間に合った】
最早何の呪文か存ぜぬ言葉と共に凄まじき魔力の光線が伸び、サクの刃を正面から打ち消しながらその半身を抉り取った。
えげつない術よ。単なる魔力の放出でこれ程までとは。本気のサン殿は底が知れぬ。
【我の肉体が消滅したか。思った以上の実力。まともな師もおらず、単なる魔力の放出しか出来ないのは惜しいな】
「師? 師匠ならいるぞ! キエモンや他のみんなじゃ! 色々な魔神の使い方を教えてくれた!」
【あのサムライはそもそも戦闘スタイルが魔族の姫と大きく違うだろう。実力は申し分無いのだがな。……他の者達は単純に貴様の方が圧倒的だから微々たる差しかない。下等な師よ】
彼奴の肉体的強度は知り得ぬが、それ相応という事は存じ上げておる。
して、サン殿の師か。確かに何度か付き添っているが、戦い方が大きく違うので拙者とは然して鍛練になっておらぬかもしれぬ。
加え、他の者達では不足との事。随分と下に見る発言よ。
その言葉にサン殿は乗るか乗らぬか。その答えは今、
「妾の仲間達を侮辱するでない!」
【本物の闇か】
無論とでも言うべきか、彼女の性格上許せぬ言葉だったようだの。
闇魔法を打ち出し、直線上に進むそれがサクの体を再び飲み込んだ。
その中にて体を再生させ、闇の刃が顕現。今一度闇が切り裂かれ、気付いた時拙者らは別空間へと転移していた。
【……ほう? 地上世界から我を引き離したか】
ザン殿の空間魔法にて移動させた。
空間移動が無意味なのは立証済み。然れど一時的な避難所にはなろう。
この短時間を皆が本気で掛かれば痛手を与えられるやも知れぬな。
「一気に嗾けるとしようか。chanceは少ないからな」
「そうね」
イアン殿を筆頭に、トゥミラ殿率いる次元魔導団。エスパシオ殿らも駆け付けており、サン殿やフロル殿にレーナ殿などが魔力を込める。
どの道すぐにこの空間は砕かれよう。故にこの一撃へ賭ける様子。なれば拙者はそれの助太刀をするのみ。
「……」
【周りの魔力の気配が強まり、貴様が我の眼前へ迫るか。即ち気を引き、他の者達の準備を整えようと言う魂胆】
既に考えは読まれているが、読まれた上で隙を与えれば良いだけ。
手数を優先とし、二刀流にて攻め立てる。
【まあいい。受けて立とう!】
「……」
刺し入れるように斬り込み、それは闇の刃にて受け止められる。
透かさずもう片方の刀を振り抜き、刃にて弾かれた。その直後にまた斬り掛かり、目論見通り相手へ息つく暇も与えん。
無数の刃が拙者を見下ろすように降り注ぎ、全てをいなして躱し、捌いて防ぐ。
幾つかは掠ってしまったが多少の痛みなど痩せ我慢で十分。次から次へと嗾け、イアン殿らの準備も整った様子。
「──闇の力。全てを包み込む暗黒の魔法よ。魔を以て魔を制する礎となれ。“暗闇魔導砲”!」
「──光の力。全てを包み込む優しい魔法よ。光を以て魔を制する糧とする。“シャイニーキャノン”!」
「──世界の全てよ。我を包みし空間よ。万物に通ずる概念にて敵を引き千切れ。“空間斬刻衝”!」
「──世に存する時よ。加速、停止、遡行。万物を支配する力の理をこの場に示せ。“クロノエレホス”!」
「詠唱は無いが、全速力で叩き込む……!」
「右に同じ」
「えーと、ボクは……」
「斜め右。そこで立ってれば全ての攻撃が魔神に当たる未来が見えた」
「洗脳魔法に詠唱なんてない……。だからアナタ達は全力で仕掛けて」
『ウオーン!』『キーッ!』『ウキャー!』
「──星を支える重力を用いて最大限の負荷を与えん。“過重空撃”!」
「──母なる自然の力よ。世の植物を育み司るエネルギーよ。その片鱗を我に与え給え。“覇龍聖樹撃”!」
「──顕現せよ。我が地位を示す紋章よ。其れはその儘力となり、敵を滅ぼす。“ダークエンブレム・連”!」
「──水の精霊よ。その力を全て与え、敵を討つ契機となれ。海の力、天恵の雨。世に存在せす全ての水よ。その全てを集中させ、粛清する。“全てを洗う大水”」
「──火の精霊よ。その力を全て与え、敵を討つ契機となれ。流れる溶岩、太陽の恵み。世に存在する全ての火よ。その全部でやっちゃって! “フレイミングレイズ”!」
「──風の精霊よ。その力を全て与え、敵を討つ契機となれ。吹き荒れる暴風、命を運ぶ風よ。留まる事のない嵐のように全てを吹き飛ばす。“暴風領域”」
「──土の精霊よ。その力を全て与え、敵を討つ契機となれ。星の大地よ、生物の生まれる土よ。世に点在する大地を以て押し潰さん。“岩衝突破”!」
「“超究極最強完全無欠全知全能超絶アルティメットファイナルパーフェクトアメージングミラクルハイパースーパーマスターアタックビーム”!」
次元魔導団の者達。エルフとダークエルフ。そして騎士団長にサン殿率いる魔族軍。
この場に集いし全ての主力が今の時間で溜められるだけの魔力を込め、その力を一気に放出した。
【凄まじいエネルギーだ……!】
「……」
【……!】
そして拙者は狙いを変え、サクの足に一撃与えた。
それによって一瞬動きに鈍りを見せ、鬼神を纏わず連続した斬撃を加える。
鬼神を纏えばそれが通るまでの一瞬が隙となる。故に下手な動きはせず、今迫っている魔力を当たるよう調整させたのだ。
無論の事再生するが、その間にサクへ魔力の破壊は直撃した。
此処の空間が如何程の広さかは存ぜぬ。然し空間その物が砕け散り、魔力の余波が天上を覆う満天の星空を消し去ったのを惟れば其の威力が理解出来るだろう。
「さて、一気に消し飛ばしたけど……どうだろうか。what」
「粉々にしてやったのじゃ!」
「どうだろうね」
イアン殿、サン殿、エスパシオ殿が何も無くなった前方を見て話す。
奴の気配は感じぬ。だが腑に落ちぬ。この違和感の正体は、即座に明らかとなった。
【“円斬”】
「「「……!」」」
何処からともなく円状の斬撃が放たれ、一瞬早く気配に気付いた拙者がそれを弾く。
空の月が更に斬られたが、この場に居る者達を護る事は出来たの。位置を考えれば月に居るエルミス殿らにも影響は無い筈よ。
そんな拙者らの前に現るるは全身がボロボロとなったサク。
【効いた……半分近い魔力が無くなったかもしれないな。見事だ。貴様ら……!】
「見事というのはあれを受けても尚動く主の方よ」
皆に向けた“貴様ら”。即ち先程の空間に居た者達は好敵手と認めたのだろう。
それは良いか悪いか存ぜぬが、この立ち合いはまだ終わらぬようだ。
【その気概に敬意を表し、今の我が出せる全力を以てして相手を努めるとしよう……!】
「半分失ったって? はっ、そんな感じには全く思えないな。魔神サク君」
「厄介な相手だな」
「全くよ」
エスパシオ殿、イアン殿、拙者の順で呟き、辺りに広がる大きな魔力を犇々と肌で感じる。
先程の比にならぬ立ち合いが行われようとした矢先、天上の割れた月が其の形を元に戻した。
【……なんだ?】
サクが空を見上げた刹那、神々しい黄金の掌が降り注ぐ。
それによって押し潰され、其の者達は姿を見せた。
「スゲェじゃねェか。リーヴ=エルミス。ほぼ死んでいた俺達だけじゃなく、月の形まで元に戻しちまうとはな……!」
「キエモンさんやみんなを守る為に特訓を続けていましたから……!」
荒々しくも他人を思うような声と低姿勢ながらも確かな回復術と扱える者。
存在を引っ張る必要も無かろう。エルミス殿らと共に治療を施されたであろうカブル殿。更に言えばセリニ殿ら月の民達が降り立った。
「──エルミスさん達のお陰で助かりました。まさか私達の治療のみならず、月まで直してくださるとは。ありがたい限りです」
「エルミスちゃんは凄いんだから!」
「ヴェネレ殿も月の方へ居られたか」
ヴェネレ殿も月が心配となりてそちらへ赴いていた様子。彼女らが無事と分かって何よりぞ。
さてもこれ迄。前に居るは本気となったサク。エルミス殿のお陰で月も立ち直り、セリニ殿らの傷も完治した。
戦力が全て揃い、魔神サクとの立ち合いも終局へと差し掛かるのであった。




