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其の弐佰肆拾玖 乱戦

「……まず聞きたい。そこの赤毛の主。名はなんぞ? 主だけ分からぬ」


「私ぃ? まあいいけどぉ。私はキュイール=ラ=フラム。月の主力の1人だよぉ」


 皆で向き合ったが、一先ずは赤毛の者にその名を訪ねた。結果、キュイール=ラ=フラムと申すらしい。キュイール殿では長く、ラ殿では短過ぎる為、フラム殿と呼ばせて頂こうかの。

 何はともあれ此処につどいし主力達による立ち合い。一筋縄ではいかなかろう。


「然し乱戦か。障害物も何もないこの空間に置いての乱戦なんぞただの消耗戦ではないか」


「キエモンの言葉に概ね同意だ。やり易くはあるかもしれないが、こんなんで人を集めるなら団体戦で1人ずつ戦っても変わらない。乱戦の意味がない。not」


 乱戦とは言われたものの、この広く白い空間に拙者らのみ。戦術も何もあったものではない。

 その言葉にセリニ殿は少し考えて話した。


「そうですねぇ。確かにこれでは味気ありません。正面からの戦闘だけではなく、遮蔽物ありでの戦略も見ておきたいものですもんね」


 瞬間的に土を盛り上げ、植物を生成。建物等も造り出し、瞬く間にこの場へ町と森が生まれた。

 相変わらずの創造力。彼女が居れば建物などには困らぬのではないかの。


「ここは所謂いわゆる1つのフィールドです。これなら戦略などを活用した戦闘が……」


「フム、それっぽくなったの」

「雰囲気はあるな。mood」


 拙者とイアン殿は正面の木々を切り裂き、闇が貫き、崩壊させて直進した。此処は自然ではないので多少の巻き込みは問題無しよ。


「フィールドの意味が……まあいいですけど」


 雰囲気のある空間。戦場に赴きが生まれただけでやる気も出てくるの。

 本来は戦に乗り気では御座らんが、この者達に殺意や敵意は感じぬ。故に試合のような楽しみ方を覚えつつある。


「あれがアマガミ=キエモン。ハクロが認め、セリニさんも一目を置いている者か」


「一応何度か会って話してんだろ。ジェム。んな初対面みたいにしてよ。俺としても平和を望むキエモンとは気が合いそうだから気に掛けてんだ」


「フッ、こう言うのは雰囲気が大事なんだ。彼らがフィールドを求めたようにな」


 開けた正面にられるはジェム殿にカブル殿。あの二人とは手合わせをした事が御座らんの。

 手強いのは神仏に等しきカブル殿の方だろうが、今隣に居るイアン殿。そして拙者よりも先に到達したトゥミラ。この二人の方が因縁は深かろう。


 一方でフロル殿とレーナ殿に因縁のあるジェム殿だがあの二人はイアン殿らよりも傷が深い。回復術はもちいているようだが、拙者が今相対すべきは遠方のセリニ殿ではなく近場のジェム殿か。

 そちらへ向けて駆け出した。


「空気を読んでくれるな。キエモン。俺達に魔族の神を任せてくれるとは。Entrust」

「好きですよぉ。キエモンさんのそう言うところ♡」


 イアン殿の闇とトゥミラの光がカブル殿へと差し向けられ、拙者は鞘を構えてジェム殿に振り下ろした。

 ぶつかり合い、火花が散る。


「……硬いの」


「宝石の硬度は全物質1だ。特に私の魔力から作り、より強靭にした宝石はな。世界一硬い鉱物があるとしたらその数百倍。キエモンとてそう簡単には砕けないだろう」


「その様だ」


 フロル殿とレーナ殿が居ながらも大した手傷を与えられておらぬ理由がよく分かった。彼女を包む宝石からなる守護壁。

 比類無きれはいと凄まじき物よ。


「とは言え、まだ力を解放していないから断言は出来ないな。本来なら砕ける筈だが、私へ気を使って封じているようだ」


「下手を踏めば殺めてしまう可能性もあるからの。拙者へ降り掛かる攻撃などは容赦無く斬り伏すが、殺めるのが目的ではない以上()して力は込めぬよ」


「込めていたら今頃海龍(ミリュウ)にシェル、セリニさんは真っ二つだったか。君が善人で良かった」


「拙者は善人などでは御座らぬ。現世にて重ねし罪を思えば地獄行きは確実なのだからの」


「別の世界線での話か。けど、この世界で君はそこまでの罪を犯していないのだろう」


「さあの。妖やものは幾度と無く斬りほふった。命を奪いし事に変わり無し」


「君は少し自分に厳し過ぎる。人生はもっと楽しもう」

「侍、武士という者は常に己を律せねばならぬ。己の行く末に不安を抱えながらもみずから命を絶たぬ拙者はまだまだ自分に甘い」

「そんな事を言ったら私を含め大半が自分を甘やかしている事になる。気楽に行こう」


 剣尖を弾き、無数の宝石が回転しながら直進。それらを弾き飛ばし、多少の鬼神を込めジェム殿を覆う宝石を断ち斬った。

 れど即座に別の宝石が現れ、鋭利な先端が拙者の体を掠る。ちと熱いの。熱の込められた宝石のようだ。

 降り掛かる物を斬り伏せ、その間にジェム殿は拙者の間合いから飛び退いた。


「やっぱり斬られたか。予想はしていたがな。だからこそカウンターを決められたが、それでも君には通じなかったようだ。キエモン」


「流石の判断力よの。詰め寄らせたのは敢えて。この一撃を当てる為に御座ったか。絶対的な防御を過信せずに反撃の形を取る。見事なモノよ。毒でも塗られていたらお陀仏に御座った」


「君と同じく殺めるつもりは無いのさ。ちょっとしたエレメントの付与ならするが、あくまで微量の追撃程度だ」


 手を上へと挙げ、振り下ろすと共に無数の宝石が迫り来る。

 それもまた弾き飛ばした矢先、拙者の背後から樹が伸び周りの宝石類も弾いた。

 フム、この樹。


「動きに支障は無いかの。フロル殿ら」

「当然なのだ! 多少は回復したからな!」

「先陣は切られたけど、元々の相手は私達なんだから!」


 フロル殿とレーナ殿も駆け付けた。

 レイピアを振るいて樹を生み出し、片手を翳して紋様が浮かび上がる。


「“前面迫樹”!」

「“ダークエンブレム・ウェーブ”!」


「“宝石の盾(ジュエルシールド)”」


 正面から放ったそれらは防がれ、そのままジェム殿は宝石からなる盾を突き出して加速する。


「……! 盾を持って……!?」

「エレメントが付与されているし、結構カクカクだから痛いかもねぇ」

「呑気なのだ!?」


「俗に言うシールドバッシュさ」


 二人の眼前にて盾から衝撃波を打ち出し、地表が抉れて土が巻き上げられる。

 確かに盾は硬く、拳よりも範囲が広い。加えてジェム殿はそれをより優れた物へと昇格させる事が出来る。

 誠に合理的()つ強力な武器に御座ろう。

 別方面でも立ち合いは継続しておる様子。


「のう、フラム。次は何の遊び……じゃなくて戦いをするのじゃ?」

「そうだねぇ。サンちゃんに教えて貰った遊びも色々と楽しかったからぁ、また何かアイデアを出してよぉ」

「あれはほとんどキエモンに教えて貰ったのじゃ。じゃが、まだまだ色々あると思うぞ!」

「それいいねぇ」


 サン殿とフラム殿はすっかり仲良くなっている御様子。元より遊びの延長にある立ち合い。こうなるのも頷ける。とは言え破壊の余波は凄まじいが。

 ともすれば問題はイアン殿とトゥミラの織り成すカブル殿との立ち合いよの。


「“闇影進突”!」

「“フォトンスラッシュ”!」


「しゃらくせぇ!」


 闇の槍と光の刃が迫り、カブル殿は具現化させた巨大な掌にてそれを受け止めた。

 あの二つをこうも簡単に止めるとはの。その掌は薙ぎ払われ、そのまま衝撃波が散って地表を捲り上げる。


「“暗黒衝波”!」

「“ライトニングショック”!」


「無意味だ!」


 二つの衝撃波が放たれ、またもや輝く掌にて受け止められる。

 瞬時にカブル殿自身も迫り行き、後輪の輝きと共に加速して二人の体を吹き飛ばした。


「……ッ!」

「強いですねぇ……!」


 膝を着き、動きが鈍くなる。

 向こうもかなり苦戦しておるの。拙者らが今相手にしているのはジェム殿だが、


「“尖連巨樹”!」

「“ダークエンブレム・チェイン”!」


「“宝石纏い(ジュエルアーマー)”」


 連鎖するように迫る巨木と紋様。宝石を纏いしジェム殿はそれらを正面から突き抜いて肉薄する。

 その体を樹が縛りて紋様にて拘束。畳み掛けるように狙っておるの。

 これなれば暫くは問題も無さそうな様子。苦労しておるイアン殿らへと助太刀致そう。


「トドメだ。だが安心しろ。意識を奪うだけだ。なるべく痛みもなく眠るように意識だけを奪い、意識不明による呼吸などの問題も全てなんとかする。本気マジで安心して気絶しろ」


「優しいな。kind」


 度重なる忠告を経て二人へ手を叩き付ける。

 しかしその親切心からなる長い前置きのお陰で間に合ったの。


「要らぬと思われるが、助太刀致そう。イアン殿」

「やれやれ。皮肉か。助けを要らないと言った俺を笑えば良い。laugh」

「笑う理由など無かろう。要らぬと言ったのならそれ以上も以下も無し。拙者が勝手に手助けしただけよ」

「そうか」


 打刀にて手を抑え、逸らすように弾く。

 瞬時に踏み込みて駆け出し、カブル殿との距離を詰め寄った。


「アマガミ=キエモンか。神の手を剣で防ぐとは流石じゃねェか」


「主と対面するのは初よの。カブル殿。向き合った事自体はあるが、今回のような状況は無かったの」


「そうだな。なるべく戦いたくはねェんだが、やむを得ねェ。状況が状況。テメェの意識も奪うぜ!」


 そう告げ、巨大な手を伸ばす。

 その指を斬り落とし、光の粒子となって周囲に散った。

 手応えが少ないの。魔力ともまた違うが、具現化させた別の力からなる手か。


「ハッ、普通に防ぎやがる。基本的に防御不可なんだが、テメェにはそんな訳でもねェか」

「魔法などとは異なるからの。防御不可であったとしても関係無いのだろう」

「そう言う問題じゃねェんだが、まあいい。最高戦力なのは変わらねェ」


 両手を合わせ、祈りのような格好とする。

 それによってか後輪が回り、後光がより強まった。

 誠の仏が如し。やはり手強い相手よの。

 セリニ殿との立ち合いは保留。主力との戦闘は続くのであった。

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