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其の弐佰肆拾漆 月の舟

 ──“月の舟”。


「お邪魔する。乗組員らよ」

「地上から……!?」

「まさか、舟の結界を破ったのか!?」

「相当の実力者のようだな……!」


 舟に乗り込むや否や、乗組員が複数人()られた。

 舟には結界が張られていたのか。道理で弾かれるような感覚があった訳よ。断ち切ったが。

 おそらく空気がないと言う宇宙での行動を可能とする為にも結界が必要だったのだろう。


「何用だ。地上の者よ」


「その言い草は無かろう。攻めて来たのは其方そなたらなのだからの。然し敢えて返すのであれば、討ち入りかの」


「「「──!」」」


 瞬間的に鞘に納まったままの打刀を薙ぎ払い、舟に居た者らを打ち沈めた。

 高さもあるので此処から落としたりなどせぬが、意識は奪い去る。


「出合え出合え!」

「敵襲だ!」

「その髪型。鋭利な刃を携えた杖」

「皆様方が気に掛けていたアマガミ=キエモンか」


「……」


 ゾロゾロと内部から月の民らが溢れ出る。

 この雰囲気、なんとなく懐かしさを感じるの。拙者の故郷でも敵襲があった場合、斯様かような文言にて対応する事が多かった。

 ともあれ此処は全員をさねばならぬな。


「主力の者達だけではない!」

「月の民の実力!」

「しかと目に入れよ!」


 杖を構え、経を読まずに魔力か何かか。光の球を撃ち出した。


「……」

「「「……っ……!」」」


 のち、即撃破。

 一瞬のみ踏み込み、縫うように人々の隙間を通り抜け、そのたびに鞘にて打ち倒す。

 さて、舟に乗り込んだは良いが果たして此処が誠にセリニ殿の居る場所なのか。

 十中八九違うだろう。舟は複数あるからの。手短な場所に飛び乗ったが為、此処は小さき物。奥地にある大きな舟が主船だろう。


「御免」


 一礼し、舟から舟へと跳び移る。

 乗り込む度に敵対されるので意識を奪い去り、また別の舟へ向かう。

 さながら辻斬りが如し。然れど殺めず。跳び、跳ね、舞い、一つの舟の乗組員を壊滅させて次の舟へ行く。

 それなりに距離があるの。彼女らの性格からヴェネレ殿の心配は無いと思われるが、姿が見えぬだけで不安もある。

 更に踏み込み、主船へと到達した。


「アマガミ=キエモンだな」

「遂にここまで乗り込んできたか」

「だが、主力には劣るが確かな実力を有する月の護衛部隊の力、思い知れ!」


「……そうか」


 まず御目見えしたのは月の護衛部隊とやら。

 人数は三人だけが、確かな実力は有していると本人達が豪語しておった。


「まずは名乗らせて頂こう」

「始めに我はヨツミ!」

「そして我はルキテ!」

「最後に我がノオル!」


 ヨツミ殿、ルキテ殿、ノオル殿。

 フム、また既視感のある名よ。いや、聞き覚えか? 然しこの場合は既視感という表現が正しい気がする所存。

 要するにカーイ殿らを彷彿とさせる存在よの。確かな実力は有しているようだ。


「「「はあ!」」」

「……」


 三つの光球が放たれ、剣尖にて逸らす。瞬時に爆発し、遠方の雲が吹き飛び申す。

 あれが地上に落ちていれば大変な事になっていたの。危のう御座った。

 然し連続で放たれるのも難儀。通り過ぎ様に三人の意識を奪い去る。

 そのまま舟の中を駆け行き、乗組員を打ち倒したのち複数の扉を破りてその場所へと到達した。



*****



 ──“月の舟、最奥”。


「此処にられたか。乗組員一人一人が強き者。来るまでも苦労したぞ」


「ふふ、そうですか。主力の5人にも比毛を取らない者達が乗っていたのですが、今の貴方には通じなかったようです」

「流石……鬼右衛門……好き……」

「キエモン……」


 奥に到達するや否や、豪華な椅子に座るセリニ殿が迎い出た。

 その隣にはセレーネ殿がおり、前にはヴェネレ殿が居る。つまり皆が揃っているの。

 だが他に護衛などの姿は無く、居る月の民はセリニ殿のみ。いや、セレーネ殿も月の民ではあるのだの。

 かく、この広き謁見の間を彷彿とさせる舟内にこれだけとは無用心だが、セリニ殿一人で全てを担えるので問題無いのだろう。


「さて、セリニ殿。主らの目的を知りたいところだの。攻めて来た事、そしてヴェネレ殿の事。神の光の事などの」


いずれ分かりますよ。けどまだ足りないと言ったところです。“シャラン・トリュ・ウェーテ”は貴方の活躍で事無きを得ましたが、他国の様子を見てみますか?」


 そう告げ、映像伝達の魔道具に近しい物だろうか。それによってこの部屋へ映し出される他国の様子。



 ──“エルフの里”。


「くっ……はぁ……はぁ……全ての植物魔法が弾かれるなんて……!」

「紋章魔法も同じく……ホウラ……これが月に選ばれたエルフ……!」


「そちらで呼ばれるのは珍しいな。レーナよ。君達エルフ族。その強さは十分だ。だが私の方が一枚上手だった。それだけだね」


 宝石を周りへ展開するジェム殿を前に膝を着くフロル殿とレーナ殿。周りに居た他のエルフ達は倒れ伏しており、動けるのが二人だけと言う事が窺えられた。

 そうであっても諦める二人ではなく、レイピアに力を込める。


「“樹海創世”!」

「“ダークエンブレム・デリート”!」


 無数の並木が生き物の如くうごめいてジェム殿へと迫り行き、その体を包み込む。

 周囲には複数の紋様が顕現され、消滅の光が彼女を飲み込んだ。

 それに対し、ジェム殿は片手をかざす。


「“宝石の鏡(ジュエルシールド)”」

「「……!」」


 無数の宝石によってそれらを防ぎ、更には反射させて二人の体を逆に包み込んだ。

 己の木々に手足を縛られ、フロル殿とレーナ殿は互いの体を押し付け合いて身動きが取れなくなる。


「くっ……キツいのだレーナ……」

「そう言われても困るよ。せめて別々に捕らえてくれれば良かったのにぃ……!」


「この方が確実だろう。1人ずつなら脱出の余地もあるが、互いの体を密着させる事で下手に動いたら巻き込んでしまう」


「うぅ……合理的なのだ……」

「くぅ……!」


 二人の体を密着させる形で捕らえた理由は巻き込みを警戒させ、自由を奪う為。

 確かによく考えておる。植物の生成も紋様の生成も周りに味方が居ては動き難かろう。

 フロル殿とレーナ殿は追い詰められており、サン殿ら魔族一同と赤毛の女子おなごはと言うと。


「よくもアルマや仲間達をやってくれたのー! その仇は討つぞ!」

「ふふーん。弱いのが悪いんだよぉ。残るは君だけだぁ」


 なんと。アルマ殿らがやられてしもうたのか。

 サン殿は激昂し、女子は正面から構える。


「はっきよい~」

「のこったー!」


 サン殿が魔力にて加速し、赤毛の者は赤い衣にてそれを正面から抑える。

 周りを見れば傷だらけで座るアルマ殿ら。ウム、これは拙者がサン殿に教えてやった遊び、相撲を取っているようだの。

 本来は神事であり神聖な事柄だが、わらべの遊びとしても定着しておる相撲。その言葉から危惧したが此方こちらは相変わらず遊びと言う名の立ち合いをしている様子。

 可愛らしいものだが、余波によって崩れ落ちる山河や変わる地形を見れば全く穏やかでは御座らん。高次元の相撲となるとこれ程までのものなのだろう。


 ともあれ、エルフの里はフロル殿らが劣勢だがサン殿があの女子おなごを倒せるのならまだ何とかなりうる範囲にあるかもしれぬな。

 問題は星の国。そちらの映像も映り込むが、



 ──“スター・セイズ・ルーン”。


「やれやれ。これは予想以上……世界最高の戦力と言っても過言じゃない次元魔導団がここまでしてやられるとはね。bad」


「いや、俺相手にここまで粘れるのは十分と言える。特にNo.1、No.2、No.3。この3人は他より一線を画す」


「そうかい。あくまで上の立場からの言及と言う形で何よりだ」


 イアン殿を含め、地に伏せた星の国の主力達。

 まさかあの者達が此処まで追い詰められるとはの。見たところカブル殿の手傷も少なく、ほとんど勝負にならなかったのが見受けられる。

 相変わらず神々しく輝いておるカブル殿へ向け、イアン殿は笑い掛けるように話す。


「苦戦した中にNo.4は挙げていなかったが、その姿になってから真っ先に意識を奪ったのがNo.4からだった気もするんだけどな。色々言うが、時間魔法を一番警戒していたみたいだな。WARNING」


「まァな。時を止められたら厄介だし、キエモンだけが動けるって情報も入ってるんで“シャラン・トリュ・ウェーテ”へ攻め入った主力が苦労しちまう。俺は常に自身を守護するつもりだから攻撃は通らねェと思うがな」


「そうか。じゃあその装甲は俺が破ろう。break」


「さっきから何度も挑戦してんだろ。諦めろ。余計な血を流す必要は無ェ」


「やられっぱなしは面目が立たないんでね!」


 闇を展開し、光に包まれるカブル殿へ闇の雨が降り注ぐ。

 そこ目掛けてトゥミラ殿が……いや、トゥミラが光の速度とやらで差し迫った。


「フフ♪ 神様の血ってどうなんでしょう。確かめてみたいですねぇ♪」


「……何だテメェは……少なくともヤベェ奴ってのは見て分かったぞ……!」


 トゥミラの存在にカブル殿はやや引きり、光を避けて構え直す。

 苦戦は強いられており、主力もイアン殿とトゥミラ。そして半分以下であるがまだ敗北もしていない様子。

 両国共に拮抗はしているが、やはり先ずはセリニ殿を止め、少しでも他国への負担を減らすのが先決か。


「もうよい。セリニ殿。そろそろ此方としても行動せねばの。今度の主が本物か偽物かは存ぜぬが、一先ず主を止めてから話をしようぞ」


「ええ、構いませんよ。セレーネ。ヴェネレさん。貴女達は下がっていなさい。おそらくキエモンさんもそれがお望みですよ」


「うん……お母さん……」

「……っ。気を付けてね。キエモン……!」


 ヴェネレ殿が呼ばれた理由も依然として不明だが、地上や他国の様子を共に見ていたと考えるのが妥当に御座ろうか。

 ともあれ、二人が安全な場所に下がった事で拙者はセリニ殿に集中出来るというもの。


「舟が危険ですね。ここでやりましょう?」

「問答無用で移動させられたか。いや、元より舟に備え付けられていたので御座ろう」

「そんなところです」


 気付けば別の場所にり、セリニ殿は立ち上がっていた。

 他国も気掛かりだが将を打ち倒せば戦は終結となる。拙者はそれを遂行するのみ。

 月からの侵攻。拙者は大将であろうセリニ殿と向き合った。

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