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其の弐佰肆拾弐 再臨

 ──“シャラン・トリュ・ウェーテ”。


 拙者ら三人は帰城し、他の主力らも揃い踏みに御座った。

 星の国及び他の国々とは通信と映像の魔道具にて遠距離で通話を執り行う。帰って直ぐにやるべき事は今日の報告会で御座る。


「──以上、私達が見つけた地点はこの通りです。全ては保留とし、他の地点を確認。更に厳正な審査をした後、邪神・魔神のいずれかを呼び出しましょう」


「地上にて召喚地点を探していた我らが見つけたのはこの辺りだ。人通りも魔物などの気配も無い落ち着いた大陸。存分に戦える」


「“花の国”との協定は上手く結べたよ。距離が遠いだけで基本的に温厚な人達だったからね。そう、春風のように暖かく穏やかな人々だった」


「“修羅の国”は結構大変だったよ。我が直々に出向いて片っ端から喧嘩を売られたからね。けど義理堅い国民性で勝負に負けたからには素直に従い、絶対に裏切らない誓いを立ててた。悪い人達じゃないんだが、両極端な者達だったよ」


「ウチらが寄った“爛漫の国”ともまーまー上手く行ったよー。てゆーか、意気投合しちゃってすっかりズッ友になったの!」


 ヴェネレ殿が告げ、ファベル殿、リュゼ殿、エスバシオ殿、フォティア殿の順で報告する。

 全体的に上手く行っているようで何より。加え、イアン殿ら星の国。フロル殿らエルフの国と森の国、その他の国々からも報告が入った。


「俺達が寄った“戦争の国”は、そりゃまあ大変だった。HARD。戦争国家を謳っているだけあって中々乗ってくれなくてな。仕方無いからNo.2、No.3、No.4の次元魔導団の3人で戦争して、今回だけは協定を結ぶという案を受けて貰ったよ。当然、誰1人として死者は出してないから遺恨は少ない。俺は立場的に戦わなかったけど何とかなった」


「地上を別動隊で回ってた私達も良さそうな召喚地点を見つけたのだ。周りに植物とかも無くて広い土地だぞ!」


「“山の国”は──」

「“川の国”は──」

「“空の国”も──」

「召喚地点は──」


 イアン殿にフロル殿。他の国々。全ては順調に事が運んでいた。

 皆が優秀であり、外交なども上手く運んでいる。元より“シャラン・トリュ・ウェーテ”やその近隣の国々は大国なのでその恩恵にあやかろうという者達も少なくないのだろう。

 何にせよ戦が少なく協定を結べているというのは皆々の手腕に感銘せざるを得ないものよ。


「では、これで終わりですね。明日からはまた他国の方が御目見えになると思います。早いうちに私もその国へ訪問などしたいと思いますので、その時はどうかよろしくお願いします」


 ヴェネレ殿の(シメ)の言葉を機に他の者達も魔道具を消し、この場にも穏やかな空気が流れる。

 然し驚きぞ。手腕が優れているのは分かるが、それにしても話の纏まりが良い。


「この世界の人々は皆物分かりが良いのだの。ヴェネレ殿。拙者の故郷では過去の遺恨や繋がりによって素直に協定を受け入れる者は少ない。……拙者が居た頃は尾張の武将、織田信秀殿の息子という拙者よりも若き武士が台頭し始めていたが、それでも天下統一が叶うかは存ぜぬ。これ程までに早く纏まるとはの」


「終わりのブショウ? ちょっとよく分からないけど、それにも一応理由……があるのかな」


「……? 曖昧な物言いだの。如何した」


「うん。これもまた神話の類いなんだけど、人類に絶望した温厚な女神様が一度人々を選定したって話があるんだ。それで今を生きる人々は選ばれた人達の子孫で、過去の人類より治安が良くなっているとか。……ふふ、普通に戦争とか犯罪はあるし眉唾物だけどね」


「成る程の。女神殿が人類を変えたのか。もし事実なれば成功ではあるのかもしれんな。大量虐殺はちとあれだが」


 この世界の者達は、敵対する者であっても終われば分かり合える。それはかつて居たかも知れぬ女神のお陰との事。

 多くの者達を殺めたであろう存在。称賛は出来ぬが、世界は発展して治安も良くなった。聞けばかつての人々は余程の悪逆無道であるらしい。

 拙者は当事者ではないが為、主観で選定するしか出来ぬが、人類を滅ぼしてもなお温厚と伝えられている女神殿はさぞ苦労したのだろう。


「さて、一先ず今日のところはこれでおしまい! 夕御飯食べよっか。キエモン」

「そうよの。主力達はこの場に皆揃っておる。誰かを誘おうか?」

「出来ればみんなで食べたいけど、これから仕事って人も居るからどうしよっか。手当たり次第誘ってみる?」

「そうするとしようぞ」


 二人での食事も悪くないが、皆で食した方が美味なり。

 故に拙者とヴェネレ殿はこの場に居る、手が空いており共に食しても良いと言う者達を誘いて向かった──その直後、


「……ほ、報告! 報告ーッ!! 主力の皆様! 空に、月からの刺客が……!」


「月からの……刺客? 月からならセリニさん達だけど、来客じゃなくて刺客なの……?」


「はい! たった今空から一筋の光と共に舟が現れ、地上を照らす光と共に大勢の人々が消え去りました……!!!」


「……っ!」


 それについては、今日セレーネ殿から聞いた事柄。

 光と共に人を消し去る所業、“神の光”。

 其の神業が今行われ、“シャラン・トリュ・ウェーテ”の人々が消え去ったと。


「皆の者、どうやら食事は後にせねばならなくなりそうぞ」

「そうみたい……!」

「ああ、その様だね。一体何が目的なんだ。月の女王様は」

「分からないが、とにかく先を急ぐか」

「突発的な風のように唐突だ」

「仲間なんじゃなかったのー!?」


 いの一番に向かい行くは拙者とヴェネレ殿。そして騎士団長の四人。他国の主力は此処におらぬが、“シャラン・トリュ・ウェーテ”の主力は相当なもの。

 誠に戦意があるのかどうか、その確認も必要だろう。誠に人々を消し、掛かって来たのか。その真偽は──


「……人々のみならず、建物までも」

「消えている……」


 人と建物が消え去り、空に漂う無数の方舟。それが今の光景。御出しされた答え。



 ──“現在”。


「……さあ、帰りましょう。セレーネ」

「うん……お母さん……」


 目映い光が包み込み、拙者らはセレーネ殿を迎えに来た月の民達へ向き合った。

 しかしセレーネ殿。いつの間に此処までやって来たのか。先程渡り廊下を進んでいた時はヴェネレ殿と騎士団長の者達しか見ていなかったぞ。


「セリニ殿。錯乱したか。何故なにゆえ既に協定を結び終えた地上を襲撃する」

「いいえ、私は至って冷静ですよ。娘を迎えに来る。そこにおかしな所はありますか?」

「無い。本来なればの。れど主に限って言えばおかしな点がある。率直に申すのならば今の今までセレーネ殿を放って置いたではないか」

「そうですね。けど、あの子から聞いていたでしょう。その理由はすぐに分かると」

「それが今と申されるか」

「はい。まずは貴方の実力を改めて測ります」


 瞬刻に凄まじい暴風が吹き荒れ、拙者らを纏めて巻き上げる。

 その風圧は凄まじく、城の屋根が吹き飛んでしもうた。

 宙を舞う拙者に一筋の軌跡が迫り、鋭い鉤爪カギヅメのようなモノが体を撃ち抜く。が、それは鞘にて受け止めた。

 然しこの爪に鱗のある手首。


「海龍殿に御座るか」

「そうだそうだ。その通りだ。私自身の志願で君の元へやって来た。アマガミ=キエモン!」


 その持ち主は海龍ミリュウ殿。

 今の姿は半分が人間で半分が龍というもの。俗に言う龍人かの。

 ツノはあり、両腕は鱗のある鉤爪。顔や胴体は人間のままだが、そこにも鱗で覆っておりて足も龍が如し。尻からは尾が生えておるな。

 鉤爪と打刀の押し合いが行われ、魔力が込められるのが窺えられた。


「はあ!」

「……」


 瞬時に水球が放たれ、拙者の体は川の方へと吹き飛ばされる。城へと架かる橋が崩れ落ちて大きな水柱を立ち上げた。

 海龍殿は間髪入れず突撃し、更なる水飛沫が舞い上がる。


「追撃は受けないか。良いぞ良いぞ。それで良い。流石だ流石のキエモンだ!」

「その珍妙な話し方は変わらぬままか。海龍殿」

「未だに人語はどれがどのタイミングで最適ピッタリなのか分からないからな」


 話し方は兎も角とし、今回は始めから全力……までには届かぬにせよ七、八割の力は出しておるな。

 対処に追われる。だが、何となく敵意などは感じぬ。それは杞憂か、また別の理由があるのか。

 然し敵意は無くとも戦意はある。戦うつもりなのは誠のようだの。


「まあ、口調は置いても良かろう。主らの目的は戦いであるのだな? 皆でこの国へ攻めて来たのか」

「うん、ああ、そうだ。と言いたいが、今の君の質問に返答するなら少し違う。この国のみならず、主要国が対象だ」

「主要国とな」


「ええ、はい、そうです。我々の仲間がこの国を含めた三つの国へ攻め入っている。“シャラン・トリュ・ウェーテ”。“スター・セイズ・ルーン”。そしてそれから“エルフの里”。補足を加えるのならエルフの里は魔族の街と共に行動するよう告げてあり、エルフ+魔族の混合会議へ襲撃襲来している」

「随分と親切に教えてくれる」

「秘密の機密じゃないからな」


 エルフの里とは既に接触済み。おそらく大事な話があるとでも言って上手い事誘導したのだろう。

 その様な手をもちいて各国へ攻め入る月の者達。敵意が無い割には周到では御座らんか。

 誠に目的だけが一向に分からぬ。


「取り敢えず、私の相手はお前だ君だアマガミ=キエモン!」

「既に戦っておろう」


 今一度告げ、回転と共に尾が叩き付けられる。

 打ち付けられて打ち上げられ、そのまま川の水を操りて双龍が如し暴水が迫り来た。

 それは打刀にて弾き飛ばし、海龍殿が眼前に迫りて爪を突き出した。


「……ッ! 逆に却って反撃のカウンターをされたか……!」

「いや、主の爪も拙者の頬へ掠っておる。お互い様よ」

「私の方がダメージは多量で多いではないか」


 打刀と爪がぶつかり合い、火花が散りて拙者の頬に引っ掻き傷が。海龍殿の爪は斬れ、指も少し斬れた。

 だが互いに軽傷。地味に嫌な痛みがある事以外は気になるところも無し。


「場所を変えようか」

「そうよの」


 次の刹那に空中でせめぎ合い、弾き飛ばされて建物の無くなった町中へ降り立った。


「然れど場所を変えたとて既に護るべき民が消え去ってしまっておる。にも関わらず主らから悪意は感じぬ。人を消して悪とも思わぬような者ではあるまい。故に、何か狙いがあって人を消したとおもんみているが、如何どうだ?」

「……さあな。全くさっぱり分からない。私がやるべき事はお前だ。君だ。アンタとの戦いだけだ」

「ともすればそれが終われば話してくれるとの事だの」

「無言で黙秘する」


 瓦礫すら残らぬ町中。皮肉にもそれがありて戦い易い環境が作られておる。

 この反応からするに立ち合いが終われば話してくれるのだろう。元よりセレーネ殿も後に分かると述べていた。なればやる事は一つ。

 拙者と海龍殿は半年振りに戦闘として向き合った。

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