表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

239/280

其の弐佰参拾漆 暗闇の道中

 太陽の国を発ってまた数日。“シャラン・トリュ・ウェーテ”を出てからは二週間程経過したの。予想よりかは順調に進んでおり、このままなれば全世界を巡るのに半年未満にて終えられるかもしれぬ。

 そして現在向かう先は暗闇の国“メラン・クスィラ”。既に空間移動の魔道具から抜けて国の見える位置には来ており、全体的な雰囲気が暗くなってきておる。

 これはかなり近付いておる証拠に御座ろう。

 そんな近しい道中。


『ギャア!』『ゲェア!』『グギィ!』

「こんなに魔物が沢山……」

「読んで字が如しもうたくさんぞ」


 拙者らは多量のものに囲まれていた。

 翼のある蝙蝠コウモリのような物の怪。唾液を流しながら羽ばたかせており、一斉に飛び掛かって来た。

 やはり待った無しのようだの。


「弱肉強食の世。襲い来るなれば打ち沈めてくれよう」

『『『ゲギャア!!』』』


 声を上げて迫り、鋭い爪と牙にて降り掛かる。

 然し遅い。C級未満の存在が複数集まりてB級未満の危険度となった程度のもの。瞬時に斬り伏せ、絶命させた。


「詠唱も必要無いな。“フレイムスピア”!」

「“ファイアボルテックス”!」


 マルテ殿が炎の槍を突き、それをヴェネレ殿が炎の渦にて補助。渦巻く炎の槍が上空のモノらを焼き消した。


「“樹縛”!」

『『『…………!』』』


 フロル殿が細剣。レイピアを振るって魔力から大樹を生成。ものを縛り、肉体から養分を吸い取って干からびさせた。

 中々にえげつない技よ。


「これで全てかの。さて、死体は如何するか」

「私に任せるのだ! この者達を搾り取り、全て私の魔力に変換させるのだ。後は砂に還るぞ!」

「恐ろしい魔法……」


 樹が伸び、打ち沈めたモノらを縛って吸い取る。

 次第に肉体は痩せ細り、フロル殿の言うように砂となった。文字通り土に還ったか。


『グゲァ……』

「今度は地面から!?」

「誠にものや妖の巣窟よ」


 地面が割れ、いつぞやのゾンビが如く這い出てくる物の怪。いや、妖かの。

 四足歩行で駆け出し、瞬刻の後に斬り伏す。まだまだ数は居るが、足元から無数の樹が生えて絡め取り、また吸収した。


「数居る相手には有効なのだ。まあ大きさの分膨大な魔力を消費するからプラマイ0なんだけどな!」


 大きな力には相応の負担が生じる。故にフロル殿は敵から養分を奪う事でそれを抑えているのだろう。

 元より人間よりも魔力の多いとされるエルフだが、その上でこれ程必要なのは難しいの。


「空に地面に……次はどこから来るのかな……」

「陸、空と来たら次は海じゃないですか。ヴェネレ様」

「アハハ、マルテさん。こんなところに海なんて……」


 直後、先程の妖が出てきた穴から水が噴き出し、そこから巨躯の大蛇が姿を現した。

 成る程、こう来たか。


「水がないなら作れば良いじゃないって事……」

「しかし塩水じゃないですね。つまり陸海空を制した訳ではない」

「そう言う問題じゃないよマルテさん……」


 他愛無い事を話している最中にも大蛇は大口を開け、塊のような水球を吐き出した。

 それは地面へと着弾し、大波となって押し寄せる。


「“森林防壁”!」


 木々を生やし、その波を塞き止める。

 そこへ向けて拙者は駆け出し、刹那の刻に頭を切り落とした。


「“全覆樹吸”!」

『───』


 その体と頭をフロル殿は樹にて縛り上げ、一気に吸い取り波を止めた事で消費した魔力を回復させる。

 今回も即座に倒したが、このまま此処に居てもイタチごっこ。さっさと離れ、近いであろう暗闇の国へと急ぎ行く。


『ギャア!』

『グガァ!』

『ゲゲェ!』


「急いでもどんどん出てくる……!」

「即座に討ち、活路を開く」


 現れるモノに打刀を振りて瞬殺。次々と姿を見せるが刃を振り下ろして頭を裂き、首を裂き、胴を裂き、一匹残らず打ち倒して先を行く。

 倒した者らはフロル殿が吸収。徐々に魔力を高めておる。

 ヴェネレ殿とマルテ殿のほうき。フロル殿の絨毯。そして拙者は駆け足。各々(おのおの)の移動術にて進み、ようやく国と思しき建物の前にやって来た。

 道中には枯れた森や、やけに低い山などもあったがその辺りには妖、ものがおらんかったのが幸いよの。

 闇魔法にて移動も攻撃も防御も兼ねられるイアン殿なれば楽に行けたのだろう。やはり交渉部隊を手分けして良かったの。


「やっと着いた……」

「距離はして無いが、妖や物の怪の数が多く進み難かったの」

「本当にその通りだ」

「右に同じなのだ。魔力の消費に大してリターンは少ない吸収樹木魔法。多量の敵を倒す事でプラマイ0にしたが、本来ならもっと苦労したぞきっと」


 外門であろう城壁だが、第一印象を言えば何者も拒むかの如き姿勢。周りを囲うような壁は黒く、門の大きさもかなりの物であり、そびえ立つ其れは威圧感があるの。

 その門前にて複数人が待っていた。


「ようこそお越しくださいました。“シャラン・トリュ・ウェーテ”の騎士様方。及びエルフ族のお嬢様。暗闇の国“メラン・クスィラ”へ。夜露死苦お願いします」


「よろ……え? 死苦……? コホン、動揺しました。私はシュトラール=ヴェネレ。今日はよろしくお願いします」


「申し遅れました。我は“メラン・クスィラ”の王。アン=ブラ=レリック。ようこそ、ヴェネレ王」


「王様が直々に出迎えてくれましたか。お手数掛けます」

「いえいえ、それが礼儀かと」


 この国の王であるアン=ブラ=レリック殿。

 入り口付近まで出迎えてくれるとは律儀な王よ。多少の警戒くらいはあっても良さそうだが、イアン殿らの功績か信用してくれているのだろう。


《俺達の時はあんなに掛け合ってくれなかったと言うに、酷いな王様。King》

「アナタ方も居たか。通信の魔道具越しとは言え、声が聞けて嬉しいものだな」

《ああ、此方こちらとしても声が聞けたのは悪くない。not bad》

「それは何よりだ」


 星の国に通じておる魔道具からイアン殿が話す。言葉では然して分からぬが、やや互いに意識はしておるの。

 やはり星の国の噂は届いており、それがあまりよろしく無いのだろう。


「けどまあ、感謝はしている。あの時のA級魔物討伐は立派な手柄だ」

《大した事は無かったさ。だが暗闇の国を思えばまだまだそれ以上の魔物が踏み込んでくるのではないかと思ってな。think》


 関係性は兎も角とし、近隣の生物による被害を惟ているイアン殿。

 レリック殿はそれについてイアン殿。及び今回やって来た拙者らへと話をする。


「ご名答。実はこの国、今も魔物の被害に悩まされていましてね。前にイアンさんと騎士団長の方々が追い払ってくれた魔物はあくまで上辺だけの存在なのです。厳密に言えば、更なる魔物によって巣を追い出され、此処“メラン・クスィラ”に追いやられた存在……と言ったところでしょうか」


「A級相当の魔物が……!? 1体1体はB級上位からA級下位……あくまで群れ全体からなるA級判定と聞いていますが、その群れ全体を追い出す程の魔物となるとA級上位からS級とかなりの存在ですよ……」


「はい。正しく貴女の仰有る通りです。ヴェネレ王。既に出ている被害で一番大きなモノと言えば、アナタ方も道中で見た事でしょう。枯れた森に山と言えるか分からない程に低くなった山が。それはその魔物の仕業でしてね。この辺りでは一番高い標高3500m程の山一つを食し、川の水を全て飲み干して森の栄養が無くなったのです」


「3500mの山と川を……!? なんて食欲……」

「三五〇〇メートルとは如何程かの」

「えーと、これがそれとしてこのくらいかな……?」

「なんと。ほとんど富士の山と同等では御座らんか」


 富士とほぼ同じ大きさの山一つを丸々食したというもの

 とんでもない大食漢だの。嘘か真か大盛の飯を五十杯以上食した者の話は聞いた事があるが、それ以上ぞ。


「そんな魔物の被害が……けど川の水が無くなっても森が枯れるのには時間が掛かるハズ……雨も降るでしょうし……それは何年前の話でしょうか……」


「1ヶ月程前かな。森その物の養分やらを取り込む魔物だ。それくらい前に休眠に入り、巣を追い出された魔物が数週間前ここに来た。それをイアンさんらが倒した。辻褄は合うでしょう」


「1ヶ月……フロルさんが使う養分吸収の魔法みたいな力かな……」


「それの更に広範囲バージョンだな。私の魔法でも流石に森一つや山を滅ぼす事は出来ないのだ」


 ほんの一月前の出来事。拙者らが他国へ赴こうとしている時に斯様かような事が起こっていたとはの。

 妖やものの類いがこの世界の大半を支配していると聞いたが、正にそうなのだろう。

 レリック殿は更に言葉を綴った。


「さて、ここで本題。率直に言えばイアンさんの言う通り、そろそろ一ヶ月の休眠を終えたその魔物が目覚める頃合いという事です」


「……!?」

「一月の周期にて目覚めるのか」


 大食漢の存在が目覚めるのはもうすぐという事。

 山一つを食し、川の水を飲み干し、一月眠って活動を再開する。山の再生が追い付く筈も無く、一月毎に山一つが消失するとはとてつもない状況だの。


「そう。そして問題はそこなのです。今回の魔物、それは以前から確認されていたモノではなく、どこからか突然現れた俗に言う変異種」


《それについて俺達も問い詰められたな。生物兵器の研究をしていたのは星の国だからな。study》


「ええ。しかしそれは杞憂に終わった。なので特に報告もしなかったのですが、改めてこれは世界にとって邪神や魔神とはまた違う危機ではないかと思いましてね。そこでヴェネレ王が訪問に来ると知った」


「……なるほど。私達が来ると分かったからこそ今ここでそれを告げ、その魔物の討伐をしようという魂胆ですね」


「ご名答。無論の事この国からも兵士はお貸しするが、アナタ方の騎士団長や次元魔導団に匹敵する存在など居ない。なのでその要請を兼ね、我が直々に出迎えました。とは言え元々訪問者には我自身が迎えますけどね」


「理解しました。これ程までの人数が迎えてくれた理由を」


 出迎えた理由はそれだったか。確かに依頼の形になる以上、王が出向かぬのは失敬。

 だがその様な理由があるのなら仕方あるまい。邪悪とも違う世界的な危機というのは間違っておらぬのだから。


「改めて頼みたい。目的はあくまで面会だけだったが、どうか力を貸してくれ」

「そ、そんな……! 頭を下げずとも……!」

「いや、王が頭も下げずに頼むのは失礼だ。命の危険がある相手。今やれる最小の範囲とは言え、誠意を示さなければならない」


 レリック殿。彼は礼儀を重んじる性格のご様子。故にしかと誠意を示す。

 その様子を見、ヴェネレ殿も表情を変えた。


「ええ、もちろん協力致します。聞けばこの国だけの問題に留まらないようですし、突然現れたという箇所も気掛かり。何かしかの手掛かりが掴めるかもしれないので協力しない理由はありません」


「助かります。本当にありがとうございます」


 お姫様もぉどにて告げ、レリック殿も頭を上げる。

 波乱が起こるかもしれぬとは薄々感じていたが、まさか着いてぐ起こるとは思わなんだ。れど危機的状況なのはそうであり、一国の問題でも御座らん。

 邪悪へ向けた協定だが、その前に前哨戦が如く目覚める魔物への対策を行うのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ